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第2巻 新革党の選挙戦
新革党の懲りない面々
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古味がなんとか立ち直り、劣勢からの巻き返しを図っているころ。
新革党の他の候補者たちも、それぞれの選挙区で孤独な戦いを続けていた。
選挙初日に古味の応援に駆けつけた**前澤卓(たく)**は、埼玉県の選挙区が戦場だ。
埼玉は「さつまいも」に例えられるように、縦よりも横に長い県だ。
その西部――秩父をはじめとした山間部は農村が多く、農業関係者の支持がものを言う地域だった。
かつて前澤は、そうした農村部を地盤にしていた政治家である。
だが、民自党を離れた今となっては、農業団体との結びつきが強い西部での立候補は明らかに不利だった。
そこで彼は、都市部に近い埼玉県東部の市街地で立候補することに決めた。
「まあ、赤ポルシェには農道より都会のほうが似合うだろ」
――とは、本人の談だが、さすがに公の場では言っていない。
だが、対立候補たちは容赦がなかった。
「赤ポルシェは農家を裏切った! そんな人物に、票を入れてはいけません!」
そう演説していたのは、民自党よりもこの地域で強い勢力を持つ民衆党の候補だった。
前澤自身も、自分への風当たりが強くなっていることは理解していた。
だからこそ、一日でも早く信頼を取り戻すため、彼はとにかく走った。
持ち前の機動力――例の赤いポルシェを駆使して、選挙区内にある6つの駅を1日3往復するという執念を見せた。
この“赤ポル選挙戦”は、のちに地元で語り草になることになる。
一方、大阪の田辺正勝は今回が2度目の選挙となる。
前回は民自党の強力な支援を受けて当選したが、今回はその後ろ盾がない。
自らすべてを整え、自らの力で選挙を戦わなければならなかった。
特に痛手だったのは、支援団体の離反である。
団体側からすれば、「勝手に民自党を離れた田辺が悪い」という理屈なのだが、田辺にとっては痛すぎる誤算だった。
とはいえ、今さら悔やんでも始まらない。
ダメ元でもいいから、地道に団体を回って挨拶することに決めた。
ある日、手伝いに来てくれていた支援者から声がかかった。
「田辺さんに投票してもいいって言ってる団体が、いくつかあるみたいです」
田辺はすぐにその団体の一つを訪ねた。
「この度は、ご支援の申し出ありがとうございます」
「いやいや。田辺さんが民自党を離れた今だからこそ、期待してるんですよ」
「……と、いいますと?」
「大阪のために、東京一極集中を見直してもらいたい。
それには、民自党とは距離を置く政治家でないと難しいと思ってね」
「なるほど……」
田辺がうなずくと、代表は一拍置いて、口調を変えた。
「ただし、条件があります」
「……条件?」
田辺の表情が固まる。
「“地方の風”と手を組んでほしいんですよ」
「えっ……」
思わず声が漏れる。田辺は困惑を隠せなかった。
“地方の風”――聞いたことはある。代表は水本上親(みずもと・じょうしん)。クセ者として知られ、とにかく一風変わった政治団体だ。
田辺としては、できれば距離を置いていたい相手である。
「名前は聞いたことがありますけど……あそこは、ど田舎の保守票を拾うための団体ですよね?
確かに“反東京”という点では一致するかもしれませんが、大阪と地方の構造はまた別というか……」
“水本と組むのは正直イヤだ”という本音までは、かろうじて飲み込んだ。
だが、田辺の煮え切らない表情に、代表は苛立ちを隠さず、きっぱりと告げた。
「……そうやって、“違う”とか“合わない”とか言ってきたから、
東京一極集中がいまだに変わらないんじゃありませんか?」
「……」
「ど田舎だろうが、関西だろうが、組めるものは組む。それが政治です。
地方の風と組めないなら、この話はなかったことにしましょう」
「……わ、分かりました。自分も、同じ思いです。地方の風と手を組みましょう」
1票でも欲しい田辺は、条件をのんだ。
新革党の他の候補者たちも、それぞれの選挙区で孤独な戦いを続けていた。
選挙初日に古味の応援に駆けつけた**前澤卓(たく)**は、埼玉県の選挙区が戦場だ。
埼玉は「さつまいも」に例えられるように、縦よりも横に長い県だ。
その西部――秩父をはじめとした山間部は農村が多く、農業関係者の支持がものを言う地域だった。
かつて前澤は、そうした農村部を地盤にしていた政治家である。
だが、民自党を離れた今となっては、農業団体との結びつきが強い西部での立候補は明らかに不利だった。
そこで彼は、都市部に近い埼玉県東部の市街地で立候補することに決めた。
「まあ、赤ポルシェには農道より都会のほうが似合うだろ」
――とは、本人の談だが、さすがに公の場では言っていない。
だが、対立候補たちは容赦がなかった。
「赤ポルシェは農家を裏切った! そんな人物に、票を入れてはいけません!」
そう演説していたのは、民自党よりもこの地域で強い勢力を持つ民衆党の候補だった。
前澤自身も、自分への風当たりが強くなっていることは理解していた。
だからこそ、一日でも早く信頼を取り戻すため、彼はとにかく走った。
持ち前の機動力――例の赤いポルシェを駆使して、選挙区内にある6つの駅を1日3往復するという執念を見せた。
この“赤ポル選挙戦”は、のちに地元で語り草になることになる。
一方、大阪の田辺正勝は今回が2度目の選挙となる。
前回は民自党の強力な支援を受けて当選したが、今回はその後ろ盾がない。
自らすべてを整え、自らの力で選挙を戦わなければならなかった。
特に痛手だったのは、支援団体の離反である。
団体側からすれば、「勝手に民自党を離れた田辺が悪い」という理屈なのだが、田辺にとっては痛すぎる誤算だった。
とはいえ、今さら悔やんでも始まらない。
ダメ元でもいいから、地道に団体を回って挨拶することに決めた。
ある日、手伝いに来てくれていた支援者から声がかかった。
「田辺さんに投票してもいいって言ってる団体が、いくつかあるみたいです」
田辺はすぐにその団体の一つを訪ねた。
「この度は、ご支援の申し出ありがとうございます」
「いやいや。田辺さんが民自党を離れた今だからこそ、期待してるんですよ」
「……と、いいますと?」
「大阪のために、東京一極集中を見直してもらいたい。
それには、民自党とは距離を置く政治家でないと難しいと思ってね」
「なるほど……」
田辺がうなずくと、代表は一拍置いて、口調を変えた。
「ただし、条件があります」
「……条件?」
田辺の表情が固まる。
「“地方の風”と手を組んでほしいんですよ」
「えっ……」
思わず声が漏れる。田辺は困惑を隠せなかった。
“地方の風”――聞いたことはある。代表は水本上親(みずもと・じょうしん)。クセ者として知られ、とにかく一風変わった政治団体だ。
田辺としては、できれば距離を置いていたい相手である。
「名前は聞いたことがありますけど……あそこは、ど田舎の保守票を拾うための団体ですよね?
確かに“反東京”という点では一致するかもしれませんが、大阪と地方の構造はまた別というか……」
“水本と組むのは正直イヤだ”という本音までは、かろうじて飲み込んだ。
だが、田辺の煮え切らない表情に、代表は苛立ちを隠さず、きっぱりと告げた。
「……そうやって、“違う”とか“合わない”とか言ってきたから、
東京一極集中がいまだに変わらないんじゃありませんか?」
「……」
「ど田舎だろうが、関西だろうが、組めるものは組む。それが政治です。
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「……わ、分かりました。自分も、同じ思いです。地方の風と手を組みましょう」
1票でも欲しい田辺は、条件をのんだ。
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