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第2巻 新革党の選挙戦

新革党マニフェスト

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 新革党の候補者達はそれぞれ選挙の準備に入っている。現職以外の者も合わせれば10数名になる。新革党はもともと、民自党憎しの思いで集まった者がほとんどの政党ではあるが、それだけでは有権者には通用しない。民自党を憎み、現在の政治の枠組みを変えようと考えているのであれば、民自党を倒した後にどのようなビジョンを持っているかを示すことが重要である。そこで、渦川はマニフェスト(選挙公約)の作成に入った。マニフェストの作成には本人はもちろん、秘書の緒川順子や長年信頼を置いている会田にも入ってもらうことにした。

 まず、第一に掲げるのは阿相政権崩壊のきっかけとなり、今回の選挙の争点になるであろう外交だ。阿相政権では、消極的外交により隣国に付け入る隙を与え、あまつさえミサイルを東京上空を通過されるという屈辱を味わった。渦川たちは積極外交により隣国に政治的圧力を加え、二度と挑発行為をされないようにすることを公約とした。

 そして、次は改革の実現による、既存権益の打破である。こちらは阿相政権にとって内憂にあたることだが、水園寺割りをきっかけとしたメディア上げての大騒ぎは大きな痛手となっていたのはあきらかである。渦川たちはさらに選挙制度改革を加え、民主的で平等な政治の実現を約束することにした。

 また、経済政策については大企業の利益を優先するよりも、若者の雇用安定を最優先とした政策を取ると訴えるつもりだ。特定の政党を支持しない層を取り込みたいという意図が見えるがこれも民自党の現在の政治の反対を行く政策である。

「なかなか当を得たマニフェストだろう」
 自画自賛であるが、渦川は満足した。
「対民自党の政策がマニフェストの大半を占めていますね。まあもともと民自党村八分組が集まってできたわけですからこれはこれでいいと思います。」
 会田もそれほど異を唱えることはなかった。

「そうだ。あともう一つ。これを付け加えてやろうか」
 そう言うと、渦川は「ホームドアの設置」の文章を付け加えようとした。
「ホームドアですか?現職のうちの3人くらいかな。それが役に立つような都会に選挙区があるのは、どうしても入れますか?」
「ああ、すまない。正直私の選挙区もそれほど都会じゃないから不要なマニフェストかもしれない。しかし、なんといってもあの古味君と手を組んだきっかけの出来事であるのでね」
 渦川がそう言うと近くで見ていた秘書もうれしそうだ。
「ああ、そうだったんですか」
と会田もそれほど反対はしなかったので「ホームドアの設置」もマニフェストに追加されることになった。
 そして、その場にいる3人で文章をよく吟味したうえで、十分有権者に行きわたるよう大量の印刷を発注し、候補者達に郵送した。
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