会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件

もっちもっち

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第1巻 1期目 当選~特別会前日

当選証書を受け取りに県庁へ

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 翌日、選挙管理委員会から「当選証書授与式のご案内」が届いた。
 千葉の小選挙区で初当選した俺は、県庁で当選証書を受け取ることになったらしい。

 おそらく千葉県内で当選した議員全員が一堂に会して、順に証書を受け取るのだろう。
 もっとも、俺は今回が初当選。他の選挙区にどんな政治家がいるのかまったく知らないし、当然、向こうも俺のことなんて知らないはずだ。

 新調したスーツはまだ仕上がっていない。しかたなく、今まで着ていたヨレヨレの営業用スーツで千葉県庁へ向かうことにした。

 最寄り駅はいくつかあるが、俺にはJR外房線の本千葉駅が一番行きやすい。
 普段は東京方面の上り電車に乗るばかりだったが、この日は久しぶりに下り方面の列車に乗った。

 もうすぐ議員宿舎に引っ越す身だ。
 今後は立っているのもつらいラッシュアワーとはおさらばになる――が、選挙で公約に掲げた「ホームドアの設置」は、忘れちゃいけないと思った。

 選挙当日にテレビに映ったとはいえ、電車内で俺に気づく人はいなかった。
 ……というか、そもそも「古味良一」という名前すら、覚えてもらってないのかもしれない。

 本千葉駅から県庁までは徒歩で10分ほど。
 大通りをまっすぐ進み、千葉県警本部の交差点を左斜め向かいに渡った先に、県庁の建物が見えた。
 これまで市役所には何度か行ったが、県庁に用があったことなんて一度もなかった。
 だからこそ、二十年ほど前に建て替えられたという近代的な外観の庁舎は、妙に新鮮に映った。

 受付を済ませると、当選証書授与式の会場に案内された。
 会場内にはすでに10人ほどの新当選議員が、パイプ椅子に腰かけて静かに待っていた。

 空いている席に腰を下ろすと、隣の男が声をかけてきた。

「古味先生ですか?」

「はい、そうですが……」

 誰だろう。俺の顔なんて知られてるはずもないのに――と思っていると、男は笑顔で続けた。

「テレビで拝見しましたよ。会社員から無所属で出馬して当選なんて、すごいじゃないですか」

「ありがとうございます。失礼ですが、お名前は……?」

「池山太一と申します。私も今回が初当選です。父の地盤を引き継いで、県議を二期ほど務めていました」

 どうやら、地方議員から着実にステップアップしてきたタイプらしい。
 地盤がしっかりしていれば、俺みたいに自転車をこいで回ったり、ネットで炎上ディスカッションを繰り広げたりせずに当選できるわけか。

「もっと大勢来てるのかと思ってましたが……意外と少ないですね」

 俺がぽつりと漏らすと、池山が苦笑した。

「代理の方に任せる方も多いようですよ。私は、応援してくれた人たちの顔を思うと、人に任せるなんてとてもできませんが」

「古味良一さん」

 白髪の初老の男性に名前を呼ばれた。

 人生で表彰された記憶なんて、会社に入って2年目のときに、たまたま訪れた飲食店で爆買いしてくれた店主のおかげで営業成績トップを取ったくらいだ。

 慣れない雰囲気に少し緊張しながら、名前を呼ばれた順に前へ出る。

「今回は当選、おめでとうございます。国民のために、ぜひ頑張ってください」

 既に7人ほどが呼ばれていたこともあって、式は流れるように進行していた。
 当選証書には、「あなたが衆議院議員に当選したことを証明する」といった文言が記されていた。

 全員が証書を受け取ると、簡単な祝辞が述べられ、式は粛々と終了した。

「古味先生、これからお互い大変だと思いますが、よろしくお願いします」

「こちらこそ。政治のことは右も左もわからないので、先輩としてぜひご指導ください」

 池山と別れの挨拶を交わし、千葉県庁を後にする。

 年齢は彼のほうが少し上だが、穏やかで礼儀正しい印象だった。気が合いそうなタイプだ。
 困ったことがあったら、頼りにしてもいいかもしれない――いや、俺も“政治家”になった以上、簡単に誰かに甘えるわけにはいかないだろう。
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