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第1巻 1期目 特別会

初登院②嫌味なサラブレッド

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 初登院の日というのはどのマスコミも注目していて、自分のような無名な新人議員でも何度かインタビューされるものだった。
 しかし、その日の中でも同じ一期生でありながら際立ってマスコミの注目を浴びる議員がいた。
 サラブレッド中のサラブレッド水園寺義光(すいえんじよしみつ)28歳である。

 現在の民自党には現首相阿相元春を含め首相経験者や首相候補と言われる有力政治家が10人いた。
 口の悪いマスコミの中には、三国志で皇帝に取り入り悪行を尽くした十常侍になぞらえて政界十常侍と呼んでいるところもあった。
 流石に現在の日本で三国志よろしく民衆を弾圧したり、反対する官吏を獄につないだりということはないが、公共事業、金融に絡む疑惑で秘書が既に逮捕されている者もおり、利権に関してはかなりグレーな部分があった。

 それでも、政界十常侍が地位を失わないのは、その名の通り権謀術数に長けているからだろう。
 例えば、選挙のとき対立する候補者が選挙間際にマスコミに醜聞をさらされたり、民自党内の有力議員の選挙区を地方に変え落選させたりと結構やりたい放題であった。

 彼はその政界十常侍のうちの一人、水園寺幸房(すいえんじこうぼう)の長男であった。
 父親の幸房は総理大臣になったことはなく政界の表舞台には滅多に出てこないが、民自党に大きな影響力を持っているいわゆる黒幕であった。
 義光はルックスもよく醜聞とは無縁であるので、親の七光りも借りていずれ民自党の幹部になっていくのだろう。

「どうですか?初登院の感想は」
男のレポーターが彼に向かってありきたりなインタビューをした。

「初日だからってちょっと騒ぎすぎな感じがありますね」
中には宴会さながら興奮気味の議員もいるようだが、こうした冷めた感想は国会議員になれて当然の嫌味なサラブレッドだからだろう。

「それは周囲が浮かれてるってことでしょうか?」

「そういうわけではありません。国民が望んでいるのは真の政治改革。それが初日だけの盛り上がりで終わってはいけない。。。ということです。」
「まあ、次の選挙で再びここに来れる人ばかりではないですから多少はいいんじゃないでしょうか。」
思わぬインタビューアーの突っ込みに少し言い過ぎたと思ったのか、フォローになっていないが、そのつもりのことを呟いていた。

「嫌味な奴だな」
 内心で次の選挙で国会に来れないのはお前だと言いたかったが、世の中のほとんどがそれは俺だと思うだろう。

 俺はこの男に例の鋭い眼光を浴びせかけていた。彼はこちらを振り向かないがちょっと感ずいた感はあった。一瞬踵を返すようなそぶりがあったが返されることはなく、途中からマスコミとのやりとりが交わしがちになり体一つ抜け出すと、後は取り巻きがまとわりつくマスコミを引き離しスタスタと彼は国会議事堂の中に入っていった。

「中には大したこともないのに大法螺だけ吹いて当選するような奴もいるからな。下手にそういう輩の敵意を買って、怪我をしないようにしないと」
彼は誰も聞いていないところでそう呟いたようだが、もちろんそれは俺には聞こえていない。

 一人二人とマスコミの輪を抜け出し、目当ての国会議員が少なくなってくると、片づけを始めるカメラマンもいた。俺はなんとなくボーと立っていたので気が付いた一人が近づいてきた。
「失礼ですが、お名前を教えて頂けますか」
「今回、初当選した古味良一です。」
「国民の皆様への抱負を一言」
「私は無所属です。身軽な身分を生かして活動することで、既存の権力や利権を打破し、国民のための政治が行われる世の中にしたいと思います」

 思わぬサラブレッドへの敵意(嫉妬)から今まで言ってきたこととは関係ない訳のわからないことを言ってしまっていた。
   ここで既存の権力とはあの嫌味なサラブレッドを形作る環境すべてであり俺はそんな奴に負けないやっつけるという心だが今日見ただけでそれは言い過ぎか。

「つまりあなたは政治改革を行いたいということですね。しかし、それをたった一人でできると思っているんですか?」
俺が言ったままにしておかないのはさすがはインタビューのプロだろう。
「確かに一人ではできません。しかし、同士が見つかれば、それより国民の皆様の支持があれば」
だんだんしどろもどろになってきたので、自分が新人議員ということもあり、インタビューアはそれ以上は聞かずに勘弁してくれたようだ。
「はい。ありがとうございました。まだ時間はありますので、選んでくれた有権者の皆様のためにもしっかり勉強して国のために尽くしてください」

 ちょっと恥かいたなと内心舌打ちした。俺なんかが政治改革だなんて口に出してしまうんだから、国会にはやはり魔物が住んでいるんだろう。
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