会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件

もっちもっち

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第1巻 1期目 特別会

初登院①池山議員との再会

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 当選から、もう3週間が経った。今日は、いよいよ初登院の日である。

 この3週間、特に仕事もせずに議員としての給与が支給されていたわけだが、先日怒鳴り込んできた親父の言葉もあり、「このままでいいのか」という焦りが芽生えていた。今はむしろ、早く議員としての職務に就きたいという気持ちが強い。

 振り返ってみれば、この3週間はこれまでの人生で最も濃密な日々だった。

 普段あまり話す機会のなかった妹たちと出かけたり、将来について語り合ったりもした。議員宿舎では、キャバ嬢や女性秘書とのトラブル寸前の出来事もあり、今までただの視聴者として眺めていたニュースやワイドショーも、当事者目線で考えるようになった。そして、突然の父の訪問に肝を冷やし、まさかの野党からの勧誘にも戸惑った。

「これからの政治家人生、やっぱり波乱万丈なんだろうな……」

 そうつぶやきながら、今朝は酒を抜き、スーツに身を包み、朝7時、議員宿舎を出た。

 初登院の日といえば、正門前で一番乗りを狙って目立とうとする議員もいると聞く。確かに注目を集めるには効果的だが、さんざん迷った末、パフォーマンスばかりと思われるのも嫌で、結局その選択は見送った。親父の言葉も胸に残っていて、今後を見据えると、あまり奇をてらわない方がいいだろうと思ったのだ。

 赤坂駅の改札を抜け、国会議事堂駅方面のホームに降りると、偶然にも池山議員と再会した。

 池山議員とは、県庁で当選証書を受け取ったときに少し言葉を交わしただけだったので、覚えているか不安だったが、どうやら記憶に残っていたようだ。

「古味先生、お久しぶりです。お元気でしたか?」

 元気がなかったわけではないが、なんだかんだで神経をすり減らすような日々だった。「ぼちぼちです」と答えておく。

「私は当選してからというもの、挨拶回りで大忙しでしたよ。もう、くたくたです」

「県議時代から支えてくれた支持者の方々に、一人ひとり顔を出していましてね」

 選挙が終わったあとも、こうして律儀に動き続けるあたり、やはり真面目な人なのだろう。もちろん、次の選挙を見据えた行動でもあるのだろうが。

「初登院の日、一番乗りを狙う方もいるみたいですね。池山先生は?」

「いえいえ、私はそういうのは苦手でして。下手に目立って、民自党の執行部に睨まれでもしたら……。これからは、有権者だけでなく、党の幹部にも気を使わないといけませんから」

 そうだった。池山議員は民自党所属なのだ。

「そうですか。ところで、議員宿舎は何階にお住まいですか?」

「私は13階ですね。もっと低い階の方が楽だとは思ったんですが、空きがなくて」

「えっ、13階……!」

「どうかされました?」

 俺の脳裏には、あの夜、13階で降りていったキャバ嬢の姿がよぎった。まさかこの人が呼んだのか……? そんな妄想が一瞬よぎる。

 しかし池山議員は、俺の反応を「13」という数字への反応だと勘違いしたようで、

「13というのは、13日の金曜日のせいか、あまり縁起の良い数字とは言われませんが……まあ、4とか9も似たようなものですよね」

 なるほど、数字の縁起を気にするタイプか。迷信に振り回されすぎるのもどうかと思うが、それも人それぞれだ。

「宿舎にはお一人で?」

「はい。妻と子は地元に残しています。後援会との関係維持を、妻に任せていまして」

 「では、羽を伸ばし放題ですね」と冗談でも言おうかと思ったが、さすがにやめておいた。

 国会議事堂駅に着き、二人で改札を出て正門へ向かう。

 今日はさすがに警官に追い返されることはなかったが、周囲には多くの警備が立っていた。正門前では既にマスコミが集まり、新人議員たちにインタビューをしている。

 一人の女性議員が記者に囲まれていた。どうやら彼女が一番乗りだったらしいが、戸惑いが顔に出ていた。

「すみません、時間を間違えちゃって……。そんなつもりじゃなかったんです」

 どうやら本人はその気がなかったようだが、マスコミは“意図的な演出”と見て質問攻めにしているようだった。あの場に立たずに済んで、心底ホッとした。

「私はここまで。この後、新人議員は一同に集まって記念撮影がありますので」

 池山議員はそう言い残して、その場を後にした。

 初当選とはいえ、その年齢や経歴は千差万別。いわゆる「初々しさ」が通用しないタイプの新人も多いはずだが、この日の空気には、どこか華やかで晴れやかな雰囲気があった。
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