自惚れ貴族と婚活メイド

一重

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14.夜の廊下は走らずに

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怒鳴りつけた勢いのまま自室を飛び出したロレーヌは、ひたすら足を前に進めた。どこに行こうかなんて考えられるわけもなく、ただただ早足に廊下を歩き去るその形相はひどく強張っている。

(ありえない。考えられない。馬鹿じゃない!?……あの灰色頭、どうしてくれようか……!!)

 憤怒の形相で堅く拳を握り締めるロレーヌの思考はどんどん男らしく反撃の方向へと向かう。一般婦女子のように強引な態度に涙を流して暮らすことがないのは、あのフリードのお守りを長年続けてきた所以かもしれない。
 足音荒く廊下をひたすらに歩くロレーヌはそんな邪念に頭を占領され、すぐ傍を通り抜けた白い物体が驚いたように振り返ったのにも気付かなかった。

「……ロレーヌ?」

 下ろした髪をなびかせ廊下を歩く彼女の背後から、突如困惑したような声がかかった。ぴたりと足をとめ、石造りのため少々薄暗い廊下を振り返ったロレーヌは、視線の先に居る白い物体に気付くと眉をひそめた。

「……フリード様、このようなお時間に何をなさっておいでです。サリュク様のお部屋は反対方向でしょう。夜は始まったばかりなんです。今夜の騒動で動揺なさっているサリュク様のお傍にしっかり居て差し上げなくてどうするのですか」
「いや、ナニを推奨してるんだ!そもそもあのサリュク姫が動揺などするわけがないだろう!」

 慌てたように声を上ずらせた主人、フリードに、ロレーヌは小さくため息をもらした。

 遠目から白い物体に見えたのは、白い寝巻きと金色の髪、さらに透けるような白い肌が合さり全体的に白っぽく見えたから。ということからわかるように、今のフリードは大変に色っぽい。そのままサリュク姫に美味しく頂かれてもおかしくないだろう。むしろそうなってほしいところだが。
 少し乱れた寝巻きの胸元がはだけ、夜目にぼんやり浮かぶ白い肌はその服の下まで続く色を想像させる。さらに額にかかる柔らかな前髪が気だるげな瞳にかかり、時たま覗く青い瞳が妙に艶を含んでいるように見せるのだから、性質が悪い。ここに仕事上がりの他のメイドが居なかったことを大いに感謝してほしい。ロレーヌ以外の女性がいれば、まず問答無用で貪り食われていただろう。

 と、そんなロレーヌの大変主想いの考えにフリードが気付くわけもなく、眠そうな眼を眇めて不機嫌そうに声音を落とした。

「僕のことはいい。今まで普通に寝ていただけだからな。……それよりお前だ。こんな時間に何をしてる。……しかも、そんな格好で」

 苛立ちのこもった眼で睨まれ、ロレーヌははたと自分の格好に眼を落とした。
 いつもは結い上げている髪の毛が肩口から胸元まで揺るウェーブを描いて流れ、襟元の少し開いた寝巻きは薄く、体を締め付けないように胸元から下はふわりと広がっている。

「……何か問題でも?」
「大有りだろうが!!」

 心底不思議そうに首を傾げるロレーヌに、フリードは若干眼をそらしつつ強く言い放った。

「こんな夜更けに、ものすごい速さで歩く者がいるから誰かと思えばお前だし、しかも、そんな薄着で一人歩きをするなど!年頃の娘のすることじゃないだろう!」

 微妙に視線を泳がせながら眉を寄せるフリードに対し、ロレーヌは先ほどの怒りなど露も見せない無表情で視線を返した。しかしその目の奥には、先ほどの怒りの高ぶりがいまだ燻っている。

「おかしなことを。たかがメイド一人どうなろうとフリード様のお気になさるようなことではございません。どうぞ私のことは捨て置いて、どうぞ楽しい夜をお過ごしください。では」

 まくし立てる様な早さで一方的に告げると、ロレーヌはきつく踵を返して薄闇の廊下を歩いていった。
 後に残るのは呆然とするフリードただ一人。いつになく苛立った様子のロレーヌを不審に思い声をかけただけだというのに、かえってフリードが親の敵かと思わせるくらいのきつい目線で淡々と答えを返してあっという間に逃げるように去っていった。いつもなら、いくら機嫌が悪くてもフリードの言葉に反論せず適当に流すのだけで、あれほど冷ややかに反発してくることなどない。

「……一体、なんだっていうんだ……」

 軽く眉根を寄せるも、鮮やかに思い出すのはロレーヌのゆるくウェーブのかかった柔らかそうな髪と、薄闇にぼんやり浮かび上がる白い肌。いつもは隠されているその首筋のラインはふわりと揺れる髪の毛先に見え隠れし、華奢な鎖骨がくっきりと陰影を作り、その存在をしっかりフリードに認識させた。

「……なんなんだ」

 常にない自身のメイド頭の姿に動揺している自分を感じ、フリードは小さく頭を振った。

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