10 / 65
第一章『雷の可能性』
九話『そして彼は強くなる』
しおりを挟む
『・・・・・・』
目の前で倒れ伏した少年を見る。
体の表面は焦げ、装備していた物もほぼ全て焼け、足や腕も灰となっている。
あの速度、あの威力。
あと数年修行していれば、私にさえ届いた。
それほどの、才覚。
・・・まさか、これ程とは。
勇者は、あの男は。
何を思い、私に託したのだろうか。
「──ぅ」
──ぞくりと、久方ぶりに恐怖を感じた。
その体は、既に動かないはずだ。
その意識は、既に無いはずだ。
なのに。
その瞳は、闘志を失わず、殺意を携え、私を睨んでいた。
よもや、まだ。
やると言うのか。
死にかけの、死んだも同然のその体で。
『・・・つくづく、化け物だな』
わかった。
あぁ、分かった。
コイツは、コイツには。
私が着いて行く、価値がある。
英雄となる、器がある。
「──つ・・・く・・・・・・も・・・」
『・・・負けだ。私の負けだ。アダムよ』
その瞳が揺れる。
その瞳が、戦意が訴える。
まだ終わっていない。
まだ決まっていない、と。
まだ死んでいないと。
『いつでも挑戦は受ける。もちろん、次からは初めから本気だ』
神を、下したのだ。
恐怖させたのだ。
ただの人間が。
ただの少年が。
まだ子供と呼べる男が。
私を、強引に敗北させた。
『・・・勇者よ。貴様と言うやつは・・・』
力尽きたのか、目を閉じ、息絶えたように眠るアダム。
それを眺めながら、微かに微笑んだ。
はるか昔の好敵手を想い、空を見上げた。
『・・・貴様以上の化け物だぞ、貴様の子は』
記憶の中の勇者が。
イタズラっぽく笑うのを、見たような気がした。
§
そこは、酷く、酷く荒れた戦場だった。
転移に巻き込まれなかったミーナに話を聞き、己が持つ全てを投げ捨てて最上階を目指した。
道中に魔物は居らず、その理由に目処は着いていた。
・・・未だ英雄では、ない。
あの約束はまだ果たされていない。
だが、彼に──
アダムに、会いたい。
約束はあった。
だけど、それでも・・・
彼を守ることが、会うことが、最優先だ。
吹き飛ばされた扉、既に戦闘は終わり、勝敗は決していたようだ。
そこで見たのは・・・。
信じていた少年の、勝利では無かった。
「ア・・・ダ・・・・・・ム・・・?」
腕も、脚もない。
体のあちこちが焦げ、灰と化している。
かつて、共に英雄を目指していた少年。
かつて、もう1人の家族と共に、生きてきた少年。
かつて、生涯を共にしたいと思えた、少年。
最愛の、人。
「これは・・・凄まじい戦いだったようだな」
遅れてたどり着いた団長が言う。
最上階のあらゆるものは吹き飛び、外から見えていた結界も壊れている。
先程の光も、それのものか。
先程の音も、これのものか。
「おい、フール──!?」
何も、聞こえなかった。
何も、思えなかった。
何も、何も?
いや、彼は。
彼だけは。助けなくては。
まだ生きている。
胸は上下している。
まだ、助けられる。
「お、おい!あれは!?災害級の!?」
「まて!フール!!」
殺意。
怒気。
どちらでもない。
ただ、焦燥。
「『アマテラス』」
自身が持った最初の魔法。
自身が持つ最大の破壊。
目の前の巨大な狐がアダムを尾で持ち上げた。
「──っ!!!!彼に!!!!触れるなあぁああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!」
狐が一瞬こちらを見る。
だが直ぐに、尾で自らとアダムを包む。
その場には、白銀の球体が浮かんでいた。
まさに、月を思わせるようなもの。
構わず、攻撃する。
巨大な太陽が、巨大な月へぶつかる。
その衝撃、熱が収まった所で。
その月は、無傷であった。
「返・・・せぇ・・・!!!!」
§
目を開くと、そこは。
白い世界だった。
かつて、ゼウスと話したような。
しかし、それ以上の力を感じる場所。
「・・・手が・・・ある・・・」
足もだ。
どうやら、ここは。
目の前の、女の世界らしい。
「起きたか。アダム」
「・・・あぁ、つくも」
感情の無いような声で語りかけてくる。
僕はそれに、つとめて冷静に答えた。
白く、長い髪。
隠しもしないスラリとした肢体。
綺麗な赤い瞳。
そして、あの狐と同じ。
数えきれない程の尾。
「全く。目の前にこんな美女が居るのだぞ。貴様は本当に男なのか?少しは反応したらどうだ?」
「悪いけど、僕はフール以外にはあんまり興味無いんだ」
「それでももう少しこう・・・はぁ、自信が無くなるな」
えっと、魅力的な見た目だとは思うけど、その力の片鱗でも知ってる僕からすればただの爆弾なんだが・・・?
・・・・・・・・・?
混乱する僕を見て、つくもはまたため息をつく。
「・・・まぁ、いい。貴様は今私の精神世界にいる。怪我も治した。魔力暴走も整えた」
「・・・至れり尽くせりだ」
先の戦いでの死亡リスクは魔力暴走によるものだ。
全身の魔力が外側へ動き、暴れ回る。
それをわざわざ整えた・・・?
鼻で笑うつくも。
・・・どういうつもりだ。
「──とでも、思ってそうな顔だな」
・・・食えない女だ。
なるほど、どうやら。
戦闘という訳では無いらしい。
「私は貴様に仕える事にした」
「──は?」
今、なんて?
今、僕に、え?なんだって?
混乱に次ぐ混乱。
ダメだ。
疲れからか頭が整わない。
「だから、私は古の約束により、貴様について行くことにした。よろしくな。我が主」
「・・・主従というなら、僕がお前の下ではないのか?」
最もだ。
僕はつくもに負けたのだから、僕はつくもに従わされる事になってもおかしくない。
弱者の下に付く強者とは・・・?
「いいのだ。私は貴様に従うと決めた」
「そ、そうか」
有無を言わさぬ顔だ。
端正な顔だな。
大人の女性という感じがする。
フールも今はこんな感じなのかな・・・。
次に会うのが楽しみだ。
・・・あれ、なんか忘れてるような。
「さて、我が主よ」
「なんだ。つくも」
不敵な笑みを浮かべ、つくもは僕に言った。
「貴様の知り合いらしき女が私を攻撃してくるのだが、どうにか宥めてくれやしないか?これじゃゆっくり外にも出れん」
目の前で倒れ伏した少年を見る。
体の表面は焦げ、装備していた物もほぼ全て焼け、足や腕も灰となっている。
あの速度、あの威力。
あと数年修行していれば、私にさえ届いた。
それほどの、才覚。
・・・まさか、これ程とは。
勇者は、あの男は。
何を思い、私に託したのだろうか。
「──ぅ」
──ぞくりと、久方ぶりに恐怖を感じた。
その体は、既に動かないはずだ。
その意識は、既に無いはずだ。
なのに。
その瞳は、闘志を失わず、殺意を携え、私を睨んでいた。
よもや、まだ。
やると言うのか。
死にかけの、死んだも同然のその体で。
『・・・つくづく、化け物だな』
わかった。
あぁ、分かった。
コイツは、コイツには。
私が着いて行く、価値がある。
英雄となる、器がある。
「──つ・・・く・・・・・・も・・・」
『・・・負けだ。私の負けだ。アダムよ』
その瞳が揺れる。
その瞳が、戦意が訴える。
まだ終わっていない。
まだ決まっていない、と。
まだ死んでいないと。
『いつでも挑戦は受ける。もちろん、次からは初めから本気だ』
神を、下したのだ。
恐怖させたのだ。
ただの人間が。
ただの少年が。
まだ子供と呼べる男が。
私を、強引に敗北させた。
『・・・勇者よ。貴様と言うやつは・・・』
力尽きたのか、目を閉じ、息絶えたように眠るアダム。
それを眺めながら、微かに微笑んだ。
はるか昔の好敵手を想い、空を見上げた。
『・・・貴様以上の化け物だぞ、貴様の子は』
記憶の中の勇者が。
イタズラっぽく笑うのを、見たような気がした。
§
そこは、酷く、酷く荒れた戦場だった。
転移に巻き込まれなかったミーナに話を聞き、己が持つ全てを投げ捨てて最上階を目指した。
道中に魔物は居らず、その理由に目処は着いていた。
・・・未だ英雄では、ない。
あの約束はまだ果たされていない。
だが、彼に──
アダムに、会いたい。
約束はあった。
だけど、それでも・・・
彼を守ることが、会うことが、最優先だ。
吹き飛ばされた扉、既に戦闘は終わり、勝敗は決していたようだ。
そこで見たのは・・・。
信じていた少年の、勝利では無かった。
「ア・・・ダ・・・・・・ム・・・?」
腕も、脚もない。
体のあちこちが焦げ、灰と化している。
かつて、共に英雄を目指していた少年。
かつて、もう1人の家族と共に、生きてきた少年。
かつて、生涯を共にしたいと思えた、少年。
最愛の、人。
「これは・・・凄まじい戦いだったようだな」
遅れてたどり着いた団長が言う。
最上階のあらゆるものは吹き飛び、外から見えていた結界も壊れている。
先程の光も、それのものか。
先程の音も、これのものか。
「おい、フール──!?」
何も、聞こえなかった。
何も、思えなかった。
何も、何も?
いや、彼は。
彼だけは。助けなくては。
まだ生きている。
胸は上下している。
まだ、助けられる。
「お、おい!あれは!?災害級の!?」
「まて!フール!!」
殺意。
怒気。
どちらでもない。
ただ、焦燥。
「『アマテラス』」
自身が持った最初の魔法。
自身が持つ最大の破壊。
目の前の巨大な狐がアダムを尾で持ち上げた。
「──っ!!!!彼に!!!!触れるなあぁああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!」
狐が一瞬こちらを見る。
だが直ぐに、尾で自らとアダムを包む。
その場には、白銀の球体が浮かんでいた。
まさに、月を思わせるようなもの。
構わず、攻撃する。
巨大な太陽が、巨大な月へぶつかる。
その衝撃、熱が収まった所で。
その月は、無傷であった。
「返・・・せぇ・・・!!!!」
§
目を開くと、そこは。
白い世界だった。
かつて、ゼウスと話したような。
しかし、それ以上の力を感じる場所。
「・・・手が・・・ある・・・」
足もだ。
どうやら、ここは。
目の前の、女の世界らしい。
「起きたか。アダム」
「・・・あぁ、つくも」
感情の無いような声で語りかけてくる。
僕はそれに、つとめて冷静に答えた。
白く、長い髪。
隠しもしないスラリとした肢体。
綺麗な赤い瞳。
そして、あの狐と同じ。
数えきれない程の尾。
「全く。目の前にこんな美女が居るのだぞ。貴様は本当に男なのか?少しは反応したらどうだ?」
「悪いけど、僕はフール以外にはあんまり興味無いんだ」
「それでももう少しこう・・・はぁ、自信が無くなるな」
えっと、魅力的な見た目だとは思うけど、その力の片鱗でも知ってる僕からすればただの爆弾なんだが・・・?
・・・・・・・・・?
混乱する僕を見て、つくもはまたため息をつく。
「・・・まぁ、いい。貴様は今私の精神世界にいる。怪我も治した。魔力暴走も整えた」
「・・・至れり尽くせりだ」
先の戦いでの死亡リスクは魔力暴走によるものだ。
全身の魔力が外側へ動き、暴れ回る。
それをわざわざ整えた・・・?
鼻で笑うつくも。
・・・どういうつもりだ。
「──とでも、思ってそうな顔だな」
・・・食えない女だ。
なるほど、どうやら。
戦闘という訳では無いらしい。
「私は貴様に仕える事にした」
「──は?」
今、なんて?
今、僕に、え?なんだって?
混乱に次ぐ混乱。
ダメだ。
疲れからか頭が整わない。
「だから、私は古の約束により、貴様について行くことにした。よろしくな。我が主」
「・・・主従というなら、僕がお前の下ではないのか?」
最もだ。
僕はつくもに負けたのだから、僕はつくもに従わされる事になってもおかしくない。
弱者の下に付く強者とは・・・?
「いいのだ。私は貴様に従うと決めた」
「そ、そうか」
有無を言わさぬ顔だ。
端正な顔だな。
大人の女性という感じがする。
フールも今はこんな感じなのかな・・・。
次に会うのが楽しみだ。
・・・あれ、なんか忘れてるような。
「さて、我が主よ」
「なんだ。つくも」
不敵な笑みを浮かべ、つくもは僕に言った。
「貴様の知り合いらしき女が私を攻撃してくるのだが、どうにか宥めてくれやしないか?これじゃゆっくり外にも出れん」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる