数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

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第一章『雷の可能性』

九話『そして彼は強くなる』

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『・・・・・・』

目の前で倒れ伏した少年を見る。
体の表面は焦げ、装備していた物もほぼ全て焼け、足や腕も灰となっている。
あの速度、あの威力。
あと数年修行していれば、私にさえ届いた。
それほどの、才覚。
・・・まさか、これ程とは。 
勇者は、あの男は。
何を思い、私に託したのだろうか。

「──ぅ」

──ぞくりと、久方ぶりに恐怖を感じた。
その体は、既に動かないはずだ。
その意識は、既に無いはずだ。
なのに。
その瞳は、闘志を失わず、殺意を携え、私を睨んでいた。
よもや、まだ。
やると言うのか。
死にかけの、死んだも同然のその体で。

『・・・つくづく、化け物だな』

わかった。
あぁ、分かった。
コイツは、コイツには。
私が着いて行く、価値がある。
英雄となる、器がある。

「──つ・・・く・・・・・・も・・・」

『・・・負けだ。私の負けだ。アダムよ』

その瞳が揺れる。
その瞳が、戦意が訴える。
まだ終わっていない。
まだ決まっていない、と。

まだ死んでいないと。

『いつでも挑戦は受ける。もちろん、次からは初めから本気だ』

神を、下したのだ。
恐怖させたのだ。
ただの人間が。
ただの少年が。
まだ子供と呼べる男が。
私を、強引に敗北させた。

『・・・勇者よ。貴様と言うやつは・・・』

力尽きたのか、目を閉じ、息絶えたように眠るアダム。
それを眺めながら、微かに微笑んだ。
はるか昔の好敵手を想い、空を見上げた。

『・・・貴様以上の化け物だぞ、貴様の子は』

記憶の中の勇者が。
イタズラっぽく笑うのを、見たような気がした。

§

そこは、酷く、酷く荒れた戦場だった。
転移に巻き込まれなかったミーナに話を聞き、己が持つ全てを投げ捨てて最上階を目指した。
道中に魔物は居らず、その理由に目処は着いていた。
・・・未だ英雄では、ない。
あの約束はまだ果たされていない。
だが、彼に──
アダムに、会いたい。
約束はあった。
だけど、それでも・・・
彼を守ることが、会うことが、最優先だ。

吹き飛ばされた扉、既に戦闘は終わり、勝敗は決していたようだ。
そこで見たのは・・・。
信じていた少年の、勝利では無かった。

「ア・・・ダ・・・・・・ム・・・?」

腕も、脚もない。
体のあちこちが焦げ、灰と化している。
かつて、共に英雄を目指していた少年。
かつて、もう1人の家族と共に、生きてきた少年。
かつて、生涯を共にしたいと思えた、少年。

最愛の、人。

「これは・・・凄まじい戦いだったようだな」

遅れてたどり着いた団長が言う。
最上階のあらゆるものは吹き飛び、外から見えていた結界も壊れている。
先程の光も、それのものか。
先程の音も、これのものか。

「おい、フール──!?」

何も、聞こえなかった。
何も、思えなかった。
何も、何も?
いや、彼は。
彼だけは。助けなくては。
まだ生きている。
胸は上下している。
まだ、助けられる。

「お、おい!あれは!?災害級の!?」

「まて!フール!!」

殺意。
怒気。
どちらでもない。
ただ、焦燥。

「『アマテラス』」

自身が持った最初の魔法。
自身が持つ最大の破壊。
目の前の巨大な狐がアダムを尾で持ち上げた。

「──っ!!!!彼に!!!!触れるなあぁああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!」

狐が一瞬こちらを見る。
だが直ぐに、尾で自らとアダムを包む。
その場には、白銀の球体が浮かんでいた。
まさに、月を思わせるようなもの。

構わず、攻撃する。
巨大な太陽が、巨大な月へぶつかる。
その衝撃、熱が収まった所で。
その月は、無傷であった。

「返・・・せぇ・・・!!!!」

§

目を開くと、そこは。
白い世界だった。
かつて、ゼウスと話したような。
しかし、それ以上の力を感じる場所。

「・・・手が・・・ある・・・」

足もだ。
どうやら、ここは。
目の前の、女の世界らしい。

「起きたか。アダム」

「・・・あぁ、つくも」

感情の無いような声で語りかけてくる。
僕はそれに、つとめて冷静に答えた。
白く、長い髪。
隠しもしないスラリとした肢体。
綺麗な赤い瞳。
そして、あの狐と同じ。
数えきれない程の尾。

「全く。目の前にこんな美女が居るのだぞ。貴様は本当に男なのか?少しは反応したらどうだ?」

「悪いけど、僕はフール以外にはあんまり興味無いんだ」

「それでももう少しこう・・・はぁ、自信が無くなるな」

えっと、魅力的な見た目だとは思うけど、その力の片鱗でも知ってる僕からすればただの爆弾なんだが・・・?
・・・・・・・・・?
混乱する僕を見て、つくもはまたため息をつく。

「・・・まぁ、いい。貴様は今私の精神世界にいる。怪我も治した。魔力暴走も整えた」

「・・・至れり尽くせりだ」

先の戦いでの死亡リスクは魔力暴走によるものだ。 
全身の魔力が外側へ動き、暴れ回る。
それをわざわざ整えた・・・?
鼻で笑うつくも。
・・・どういうつもりだ。

「──とでも、思ってそうな顔だな」

・・・食えない女だ。
なるほど、どうやら。
戦闘という訳では無いらしい。

「私は貴様に仕える事にした」

「──は?」

今、なんて?
今、僕に、え?なんだって?
混乱に次ぐ混乱。
ダメだ。
疲れからか頭が整わない。

「だから、私は古の約束により、貴様について行くことにした。よろしくな。我が主」

「・・・主従というなら、僕がお前の下ではないのか?」

最もだ。
僕はつくもに負けたのだから、僕はつくもに従わされる事になってもおかしくない。
弱者の下に付く強者とは・・・?

「いいのだ。私は貴様に従うと決めた」

「そ、そうか」

有無を言わさぬ顔だ。
端正な顔だな。
大人の女性という感じがする。
フールも今はこんな感じなのかな・・・。
次に会うのが楽しみだ。
・・・あれ、なんか忘れてるような。

「さて、我が主よ」

「なんだ。つくも」

不敵な笑みを浮かべ、つくもは僕に言った。

「貴様の知り合いらしき女が私を攻撃してくるのだが、どうにか宥めてくれやしないか?これじゃゆっくり外にも出れん」
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