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第四章『過去と試練』
第七話『その戦場』
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妙な静けさが、そこにはあった。
そこは、森林とでも言おうか。
木々が所々に生えた、見渡しの悪い地形だ。
しかし足場は悪くない。
その場にいた全ての人間は剣呑な雰囲気を隠さず、その抜き身の刀を携え、対面に見える同様の集団を見ていた。
緊張感と、高揚感。
思えば、どこかの陣営で、大人数と一緒に戦うのは初めてだ。
少しだけ、感慨深いな。
「僕らはゆっくり行こう。苦戦してる人がいたら助けてね」
僕ら3人は最後尾でその時を待つ。
ゆっくり進んで、ゆっくり殺して、ゆっくり壊滅させよう。
そうすれば、イレギュラーにも対応しやすい筈だ。
そして、その時が来た。
角笛が闇夜に鳴り響く。
僕らの居た集団が走り出す。
僕らは少しだけゆっくり進む。
その『熱』は戦場へ浸透する。
これはある種魔法のようだ。
慈悲と、罪悪を消滅させる魔法。
利益と、悪意が入り交じった最悪の魔法。
過去も、未来もない悲しみの魔法。
「──最高だね」
僕に向いてる。
僕のための魔法だ。
僕が使うべき魔法だ。
だけど、僕には使えない。
僕には出来ない。
なぜなら、僕には──
守るべき家が、無いからさ。
・・・なんてね?
「おおおぉおおおお!!!!」
「おらぁああああ!!!」
「はあああああ!!!」
「どりゃああああ!!!」
「とうりゃあああああ!!」
「だあああああ!!!」
戦火が、広がった。
瞬く間に、瞬く間もなく。
凄まじい勢いで、凄まじい速さで。
これが、戦か。
これが、戦争か。
いや、違うな。
これはまだ、お遊びなのだろう。
・・・勘だけどね。
「命、右ね。イヴ、左ね」
「承知!ご武運を!」
「かしこまりました』
僕らの仲間は死なせない。
僕らの被害は限りなく少なくする。
僕らの目が届く範囲では、敵以外は殺させない。
敵は額に赤い鉢巻を巻いている。
僕らは逆に、何も巻いていない。
一応陽動も兼ねてたが、相手もしっかり考えているらしい。
「さて・・・行こうかぁ!!」
刀を振り抜き、僕は駆けた。
§
「中央、突破されます!」
敵陣営中核。
そこに居たのは、かつてアダムを捕まえ、独房へ入れた城主。
かつて、命を苛立ちのはけ口にした張本人。
その顔は少し焦りを見せ、怒鳴り散らして居た。
「傭兵共はどうした!!」
「その傭兵が討伐されております」
「クソが!!使えない金の亡者共め!!」
どの口が言うのだ、と思う側近だがしかし、口に出すことは無い。
城主は苛立ちを隠さず、指示を出しかねていた。
「どうすればいい・・・!!左翼と右翼の余りはないのか!?」
「ございません。最低限で良いと仰ったのは殿でございます」
「うるさいうるさい!!なんでもいい!中央突破で敗れるなど、恥さらしも甚だしい!何とかしろ!!」
主の暴言に眉をひそめ、軍師である男は仕方なく指示を出し始めた。
しかし、分かっていた。
無意味だと。
「(ここが墓場かぁ・・・無駄な人生だったな)」
逃げれば御国に殺される。
たとえ大和国が勝ったとして、裏切りの裏切りは許されることではない。
こんなことなら金に乗っかったままにするべきだった。
「後悔先に立たず・・・か」
出来ることなら・・・
もっと仕えるべき御方に、お仕えしたかった。
「さて!人生最後の大一番!漢『晴明』!推して参る!!」
§
戦況は一方的・・・とも行かず、何故か押してるはずなのに押し切れていない。
きっと、優秀な軍師が居るのだろう。
そういうのもまとめて殺さないとね。
後で報復とか怖いし。
「ほら、そんなんじゃ止められないよ」
上段下段中段オリジナルなんとか流・・・
つまらない。
上段はがら空きな体に一太刀。
下段は刀を踏みつけるか弾いて袈裟斬り。
中段は横を通り過ぎて首に一太刀で終わりだ。
たまに面白い構えが居るが、カウンタースキルで終わってしまう。
最初のほとぼりも冷めてしまった。
軍師の才で何とかやっていたのか?
そう思えるほどに残念な軍勢だった。
「──貴方が軍師か?」
僕は、目の前に現れたその人を見る。
・・・覚悟を持った目をしている。
どうやら、自ら僕に立ち向かうらしい。
・・・諦めたか。
軍師が表に出るのは、諦めしかないだろう。
相当、お疲れの様子だった。
「・・・貴方が、敵か」
男は、そう言って目を伏せた。
或は悲しみを、或は後悔を。
そんな顔だった。
「性は御門、名は晴明。御相手つかまつる」
「僕はアダム。よろしくね、晴明」
静かな夜だ。
銀が居れば、愛を囁かれていただろう。
フールが居れば、夢を語っていただろう。
しかしその実、目の前には最良の軍師。
なんともまぁ。
僕にふさわしい夜だ。
「──なんだ!?」
しかし、目の前で急に消える晴明。
足元には紫色の魔法陣。
・・・あれは・・・召喚魔法・・・?
太古に失われた、禁忌の魔法。
僕が驚いている間もなく、目の前の敵陣営に、唐突に青と赤の魔力の奔流が放たれた。
あれは、竜の魔力・・・?
イヴ・・・?
いや、違う。
まさか──
『おい、お前。お前だよ人間』
それは、上空から僕を見ていた。
僕はそれが何か、知っている。
僕はそれをなんと呼ぶのか、知っている。
『お前やるじゃねぇか。俺様とも・・・ん?お前・・・その魔力・・・その目・・・』
──白竜が、そこには居た。
そこは、森林とでも言おうか。
木々が所々に生えた、見渡しの悪い地形だ。
しかし足場は悪くない。
その場にいた全ての人間は剣呑な雰囲気を隠さず、その抜き身の刀を携え、対面に見える同様の集団を見ていた。
緊張感と、高揚感。
思えば、どこかの陣営で、大人数と一緒に戦うのは初めてだ。
少しだけ、感慨深いな。
「僕らはゆっくり行こう。苦戦してる人がいたら助けてね」
僕ら3人は最後尾でその時を待つ。
ゆっくり進んで、ゆっくり殺して、ゆっくり壊滅させよう。
そうすれば、イレギュラーにも対応しやすい筈だ。
そして、その時が来た。
角笛が闇夜に鳴り響く。
僕らの居た集団が走り出す。
僕らは少しだけゆっくり進む。
その『熱』は戦場へ浸透する。
これはある種魔法のようだ。
慈悲と、罪悪を消滅させる魔法。
利益と、悪意が入り交じった最悪の魔法。
過去も、未来もない悲しみの魔法。
「──最高だね」
僕に向いてる。
僕のための魔法だ。
僕が使うべき魔法だ。
だけど、僕には使えない。
僕には出来ない。
なぜなら、僕には──
守るべき家が、無いからさ。
・・・なんてね?
「おおおぉおおおお!!!!」
「おらぁああああ!!!」
「はあああああ!!!」
「どりゃああああ!!!」
「とうりゃあああああ!!」
「だあああああ!!!」
戦火が、広がった。
瞬く間に、瞬く間もなく。
凄まじい勢いで、凄まじい速さで。
これが、戦か。
これが、戦争か。
いや、違うな。
これはまだ、お遊びなのだろう。
・・・勘だけどね。
「命、右ね。イヴ、左ね」
「承知!ご武運を!」
「かしこまりました』
僕らの仲間は死なせない。
僕らの被害は限りなく少なくする。
僕らの目が届く範囲では、敵以外は殺させない。
敵は額に赤い鉢巻を巻いている。
僕らは逆に、何も巻いていない。
一応陽動も兼ねてたが、相手もしっかり考えているらしい。
「さて・・・行こうかぁ!!」
刀を振り抜き、僕は駆けた。
§
「中央、突破されます!」
敵陣営中核。
そこに居たのは、かつてアダムを捕まえ、独房へ入れた城主。
かつて、命を苛立ちのはけ口にした張本人。
その顔は少し焦りを見せ、怒鳴り散らして居た。
「傭兵共はどうした!!」
「その傭兵が討伐されております」
「クソが!!使えない金の亡者共め!!」
どの口が言うのだ、と思う側近だがしかし、口に出すことは無い。
城主は苛立ちを隠さず、指示を出しかねていた。
「どうすればいい・・・!!左翼と右翼の余りはないのか!?」
「ございません。最低限で良いと仰ったのは殿でございます」
「うるさいうるさい!!なんでもいい!中央突破で敗れるなど、恥さらしも甚だしい!何とかしろ!!」
主の暴言に眉をひそめ、軍師である男は仕方なく指示を出し始めた。
しかし、分かっていた。
無意味だと。
「(ここが墓場かぁ・・・無駄な人生だったな)」
逃げれば御国に殺される。
たとえ大和国が勝ったとして、裏切りの裏切りは許されることではない。
こんなことなら金に乗っかったままにするべきだった。
「後悔先に立たず・・・か」
出来ることなら・・・
もっと仕えるべき御方に、お仕えしたかった。
「さて!人生最後の大一番!漢『晴明』!推して参る!!」
§
戦況は一方的・・・とも行かず、何故か押してるはずなのに押し切れていない。
きっと、優秀な軍師が居るのだろう。
そういうのもまとめて殺さないとね。
後で報復とか怖いし。
「ほら、そんなんじゃ止められないよ」
上段下段中段オリジナルなんとか流・・・
つまらない。
上段はがら空きな体に一太刀。
下段は刀を踏みつけるか弾いて袈裟斬り。
中段は横を通り過ぎて首に一太刀で終わりだ。
たまに面白い構えが居るが、カウンタースキルで終わってしまう。
最初のほとぼりも冷めてしまった。
軍師の才で何とかやっていたのか?
そう思えるほどに残念な軍勢だった。
「──貴方が軍師か?」
僕は、目の前に現れたその人を見る。
・・・覚悟を持った目をしている。
どうやら、自ら僕に立ち向かうらしい。
・・・諦めたか。
軍師が表に出るのは、諦めしかないだろう。
相当、お疲れの様子だった。
「・・・貴方が、敵か」
男は、そう言って目を伏せた。
或は悲しみを、或は後悔を。
そんな顔だった。
「性は御門、名は晴明。御相手つかまつる」
「僕はアダム。よろしくね、晴明」
静かな夜だ。
銀が居れば、愛を囁かれていただろう。
フールが居れば、夢を語っていただろう。
しかしその実、目の前には最良の軍師。
なんともまぁ。
僕にふさわしい夜だ。
「──なんだ!?」
しかし、目の前で急に消える晴明。
足元には紫色の魔法陣。
・・・あれは・・・召喚魔法・・・?
太古に失われた、禁忌の魔法。
僕が驚いている間もなく、目の前の敵陣営に、唐突に青と赤の魔力の奔流が放たれた。
あれは、竜の魔力・・・?
イヴ・・・?
いや、違う。
まさか──
『おい、お前。お前だよ人間』
それは、上空から僕を見ていた。
僕はそれが何か、知っている。
僕はそれをなんと呼ぶのか、知っている。
『お前やるじゃねぇか。俺様とも・・・ん?お前・・・その魔力・・・その目・・・』
──白竜が、そこには居た。
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