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カールの譚

化け物によるサンドウルフ討伐  ==オットー視点==

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 俺はオットー。現在魔王討伐のためにキャラバンの護衛をしている。
 がだ。
 サンドワームを倒したあたりから、周囲の状況がおかしい。
 俺のスキルは「探索者シーカー」だ。周囲十数キロにわたって、脅威を探知できる。当然、遠くに行けば漠然とした感覚になるが、2キロ以内なら脅威がどのようなものかもある程度判断がつく。魔獣なのか、盗賊なのか。数がどの程度で戦力的に高いのか低いのか。
 特に数メートルの範囲なら、物陰に隠れている人や動物についても事細かに把握できる。
 俺が今までやってこれたのもこのスキルのおかげだ。

 で、その状況がおかしい。
 ちょうど、この砂漠地帯に入ったころから「探索者シーカー」の感度が悪い。

 悪いというより、そう、今までなかったものが、急に現れる。人も、魔獣も。
 今もそうだ。1キロほど先に、急に旅人の馬車が現れた。中に乗っているのは2人か。
 まるで、そこに突如発生したかのようだ。
 これも魔王の力なんだろうか?こんなことは初めてだ。このスキルは親父譲りだが、親父からもこんな話は聞いたことがない。
 正直緊急事態だが、俺がうろたえると、ルーキーの多いキャラバンは大混乱に陥る。確かにエリザ達が居れば、よほどのことが無ければ大丈夫だろうが……。
 努めて平静を装う。
 が、そうはいかなかった。
 
 それは、やはり突然現れた。
「すまん。見つけるのが遅れた。」
 カールたちはきょとんとしてる。
 魔獣の群れとの距離は1キロを切っている。この距離では、エリザの大火力は使えない。
 こちらにも被害が出てしまう。どうする?
「すぐにとまれ! カール!真正面だ。頼む。それと、エリザとヨハンは援護だ!」
 カールに任せるしかないか。タンク役としては申し分ないが、数が数だ。いつもの大量討伐なら、事前に策を練って獲物を分散させてから屠っている。
 が、今回はそういうわけにはいかない。すでに目と鼻の先に大群が控えている。500は居るか。砂煙を上げながらこちらに近づいてくるのが見える。
 サンドウルフだ。
「エリザに燃やし尽くしてもらうのはだめなのか?」
 まあ、それができれば問題なかったんだがな。ここまで気づかなかったのは、完全に俺のミスだ。
「いや、近すぎる。こっちまで被害を受ける。とりあえず動きを止められるか?カール」
 カールの顔色を見るが、不安の色は無い。いつもの奴だ。このあたりはさすがと言うべきか。カールは悠然とキャラバンの先頭に立ち、剣を構えつつ腰を軽く落とす。
「やってみるさ」
 奴らとの距離はすでに500mと言ったとこだ。いくらカールと言えども……

 ブオォン!

 軽い風圧とともに、カールの姿が一瞬ぶれて、掻き消える。
「目で追えなかった!?」
 ハンスが愕然としている。射手アーチャーであるハンスの目はほかの誰より優れている。はずだ。そう思っていたが、今のカールの動きを全く追えなかったらしい。
 すでにカールはサンドウルフの群れの先頭に……  へ?
 カールの前に魔力の扇が伸びて目の前のサンドウルフ20匹程が上下真っ二つに両断された。
 なんだ?斬撃か?

 サンドウルフの群れが止まる。
 そりゃそうだろう、魔獣でも目の前で大勢の仲間が真っ二つになったんだ、状況が把握できない。と、思ったところにカールの前に光の玉が現れサンドウルフの方向へ飛んで行く。
 
 ヒュン!
 ドガァァァァン!!!!
 光の玉が5匹のサンドウルフに命中し、それを中心として直径10m程度の火柱が5本立ち上がる。

 強烈な光と熱気がやってくる、それに遅れて爆風が届く。なんだあれ?「プロミネンス」か?ここまでの魔術が使えるとは聞いてないぞ!

 今の「プロミネンス」で200匹ほどは跡形もなく消し飛んだ。
 残りのサンドウルフは後ずさりを始める。確かにあんな化け物相手に戦う気なんて起きないだろう。エリザもオットーも援護することすら忘れてる。
 目の前に広がる光景は、異常としか言いようがなかった。サンドウルフの群れの中を、残像のカールが動き回る。いや、俺には辛うじて残像だが、ルーキーたちの目には「もや」にしか見えないだろう。カールの動いた後は、動かなくなったサンドウルフがいる。そして数秒して首が落ちる。あれをどう援護しろと?
 カールの動きが止まり、剣の血を払って鞘に納める。
 目の前には、大量のサンドウルフの亡骸が転がっている。
 
「援護はどうしたぁ?」

「援護って……要りますか?」
 エリザが呆れたように口にする。
 まあ、正直な感想だわな。

 カールも若干バツが悪そうに
「あとは頼む。」
 とだけ告げて、馬車の中に戻ろうとする。
 
 いやはや、恐ろしいな。化け物ってのはこういう奴を言うんだろうな。
 とりあえず、ご機嫌を損ねないようにしないとな。
「ルーキーども、カールさんが仕留めてくださった獲物だ。しっかり解体しろよ!!」

 ルーキーが、ようやく我に返ったのか、慌てて動き出す。
 
 ルーキーたちが作業を始めたのを確認して、カールの元に行く。

「いやはや、バケモンだとは思ってたが、ここまでだとはな。」
 なぜだ?褒めたのにカールが不機嫌そうだ。いつもそうだ。褒めてやるのにジトっとした目で見てくる?解せぬ。
 
「英雄の孫は本当にとんでもないですね。」
 エリザは感想を口にする。同感だ。敵に回さぬが吉だな。

「そんな嫌み言われなくても自分の力不足は十分理解してるよ。」
 は?何を言ってるんだ?お前は。

「いやいや、嫌みではないですよ。とんでもない魔力じゃないですか。」
 エリザが慌てて続ける。何をどうとらえたら嫌みになるんだ?
 
「昨日のあの破壊力を見せつけておいてそれはなかろう。さすがに実力差は弁えてるよ。」
「ええと、どこから突っ込んでいいのかわかりませんが、私よりよほどカールさんの方が魔力量豊富ですよ。」
「そんなわけないだろ、威力が段ちじゃないか。」
 エリザが何だかかわいそうな子供を見るような目でカールを見ている。
 いや、気持ちはわかるよ。どういうわけか全く話が通じてない。

「カールは誰から魔法を習いましたか?」
「攻撃に関しちゃ伯父貴だけど。じじいはあまり魔法が得意じゃなかったらしいからな。鍛冶関係の魔法は親父からだな。」
「さっきの魔法は何だと習いましたか?」
「ファイアボール」
「はぁ?ファイアボールがあんな威力なわけねぇだろ?」
 つい口から出た。いやいや、そんなわけねぇだろ?「ファイアボール」は初心者が使う魔術だ。念じることで手から火の玉を飛ばすことができる。だいたいは小さい松明ほどの炎がよろよろと飛んで行って、せいぜいやけどさせる程度の魔術で、相手のスキを作ることが目的だ。
 少なくとも、あんな威力は出ない。

「そりゃ、もっと威力が出ればいいとは思うけどよ。」

「「「?」」」
 いやいやいやいや、何がしたいんだお前は。
 オットーとエリザを見ると、二人も同じ感想を抱いたらしい。

「どういうことですか?」
 エリザが質問する。いや、ほんと、何がしたいの?どうしたいのよ?

「どういうも何も、ファイアボールももっと威力が出たほうがいいとは思うよ。でも出ないものは仕方なかろう。俺の精一杯だ。さっきのが。」
 
「精一杯とか、無茶苦茶です。」
 エリザさんの理解の範囲を超えたようだ。らしくなく雑な返答だ。
 
「そこまで言わなくても、自分でももう少し威力あった方がいいとは思うけどさ」
 おう、追い打ちをかけて意味不明なんですが。ファイアボールに何を求めている?
 
「だから……なにを言っているんですか?」

「いや、お前さんほどではないにせよ。一撃であのくらいの魔獣なら屠りたいと思うけどさ」
 おいおい、もう一度問いたい「ファイアボール」に何を望んでる?
 
「いやいやいや……そこまでずれてますか。正直自信なくしましたよ。」

「いやあ、非常識だとは思ってたけど、そこまでかぁ」
 正直何を目指してるのかが良くわからん。
 
「……いつもは加減してたんだな」
 ハンスもあきれ顔だ。確かに、いつも使ってたのは、カール的には「ファイアボール」だったんだな。俺はファイアストームかなんかかと思ってたよ。

「なんだよ。みんなして。」
 カールはいじけているようだが、正直こっちとしては何を言ってるのかが良くわからん。
 
「どんな魔力してるんですか……。正直引きましたよ。」

「お前さんほどではなかろ?」
 は?本当に何を言ってるんだ?自分の魔力理解してる?
 
「いやいや、謙遜もそこまで行くと嫌味ですよ。」

「謙遜はしてないが、だって俺、精いっぱい魔力込めてあれだよ?」

「それが異常だっていうんですよ。」

 あれ?

「ほんとに理解してないのか?」

「みたいですね。」
 エリザと意見があったようだ。
 
「どういうこと?」
 カールの質問に、やれやれといった表情で、エリザは説明を始める。

「私の魔術は、私の魔力だけで発動してませんからね。」
 カールの頭の上に「?」が見えるようだ。

「ほんとにわかってないな。」
 全く理解できてないらしい。
 
「どういうこと?」

「カールは伯父さんから魔術を習ったといいましたね?」

「ああ」

「伯父さんは、どんなふうに説明してましたか?」

「いや、とりあえず、念じろと、すると掌の熱が弾になって飛んでいくからって」
 
 雑っ!
 
「魔術錬成については聞いてないですか?」

「なにそれ?」

 どんな教わり方だよ。それでよく魔術使えたな。
 
 という、俺の感想とは裏腹にエリザはやさしく説明を続ける。
「ん~。頭の中で、魔術をイメージするんです。ちょうどパズルみたいに。

 カールの念じるって、具体的にどんなイメージしてますか?」

「とりあえず、相手が消し飛ぶイメージをするな。」

「それであれですか……

 いまカールがやった魔術は、確かにファイアボールなんでしょうね。

 威力が違いすぎて、正直確信は持てませんが、たぶんそうでしょう。」

「俺はてっきりプロミネンスかと思ったぜ。」
 いやいや、どんな魔力してんだよ?異常だろ!
「規格外親族だな。」
 ハンスに同意だ。

「一応、説明しておきますと、自分の魔力だけで打つのが初級、または下級魔術です。

 ファイアーボールは自分の魔力だけで作れる初級魔術の代表ですね。

 それに対して、自然、つまり大気や大地から魔力を借り受けて行うのが、中級・上級魔術となります。

 さっきオットーが言ってた、プロミネンスは上級魔術です。私がサンドワームに使ったのがプロミネンスです。」

「おお、自分の魔力以外も使えるのか」
 
 そこからか?

「まあ、そうですね。で、超自然的存在から魔力を借り受けて行う魔術が、戦術級や召喚となります。」

「へぇまだ上があるんだな。すげーな。」

 こいつ理解してるのか?

「いや、ていうかですね。さっきのあなたのファイアボールの威力は、普通に上級レベルなんですよ。」

「自然の力を使ってたってこと?」
 
 理解してなかった。
 
「指しか光ってなかったですから、おそらくカールの魔力だけです。」

「なんだ、やっぱり弱いんじゃん」
 
 こいつに理解できるんだろうか?
 
「そういうことではなく、カールの力、それも指だけなんですよ!まだあなたの魔力のわずかしか使っていないのに、上級魔術並みっていうのが規格外なんですよ。」
 
 エリザやさしいな。そろそろ諦めたら?
 
「またまた、持ち上げても何も出ないよ。」
 
 ほら。無理じゃん。理解させるの。
 
「持ち上げてるわけではなく、ある意味バカにしてるんですけど……」
 お、あきらめたか。
 
「ひでーな。なんで?」

「ところで、他の魔術は使えないんですか?」
 話題を変えたな。
 
「ああ、完全防壁バリアは使えるな。これは親父に教えてもらった。もしもの時に身を護れってさ。」

 あるの?もしもの時。カールを如何こうできる存在が思い当たらないんだけど。それこそ、魔王と対等以上に渡り合えるんじゃね?
 
「もしもがあるとは思えませんが……ちゃんと魔術を学んでいればとんでもない魔術師になったでしょうね。とりあえず、それはこの際置いておきます。戦力として十分すぎることはわかりました」
 エリザ。完全に投げたな。
 
「なんか、釈然としないが、まあいいか」

「よくねーけどな。おまえ異常だとは思ってたけど、そこまでだとはな。」

「……まあ、味方でよかった」

 ほんと、そう思うよ。
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