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生方蒼甫の譚
実験再開
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気が付いたら研究室の窓から朝日が差し込んでいた。
PCの前で寝ていたらしい。
仮想空間の中にダイブしたのはほんの数時間だが、観察期間はようやく半年となった。
サトシの行動に関してはすべてログを取っている。実際に疑似人格が実用可能なのか、検証にはより多くのデータと期間が必要になる。1000倍速より早くしたいところだが、さすがに俺の頭が持ちそうにない。
まだ頭の芯が痛むが、引き続きデータを収集するため、再度仮想空間にダイブする。
決して、ゲームの続きがしたいからではない。
まあ、パラメータは多少いじったが。
HMDを装着し、うなじにも電極を装着する。
わずかな痛みの後に、浮遊感が訪れる。
目の前が整った研究室の壁から、ここ最近見慣れた古い板壁に変わる。俺がダイブすると同時に止まっていた時間が動き出す。
下の階からは、アイが作る料理の匂いが漂ってくる。
あ、腹に何か入れとけばよかった。
この半年、ゲームの中では食事をしているが、現実世界の数時間は何も食べていない。おそらくこれからまた数時間はぶっ通しで観察を続けるだろう。
もう一度中断して……とも思ったが、めんどくさくなったので、そのまま続けることにした。
窓の外ではサトシが骸骨騎士の装備品を工房に運び入れるにぎやかな音がしている。
少し眠ったからか、気分がすっきりしている。
「さて、サトシの様子でも見てくるか。」
階段を降りると、アイが料理をしている音が聞こえてくる。
何もそんなにリアルさを追求しなくても、コマンド一つで料理を完成させることが出来るだろうに。
変なところにこだわりの詰まったゲームだ。作り手のこだわり……というか、狂気を感じる。
玄関を出ると、サトシが右へ左へと大忙しだった。
「ルークスさん。もう用事はすんだんですか?」
「ああ、大した用事じゃなかったからな。で、どうだ?それは役に立ちそうか?」
サトシは装備品を見ながら満面の笑みだった。
「これいいですよ。あれだけの衝撃を受けても大した傷みも無いですし、かなりの業物ですよ。これなら何もしなくても高く売れるかもしれません。
ただ、ルイスさんは、もっと安価なものをご所望だったので、ちょっと予定と違いますけどね。」
「あの神殿をもう少し進めば、狙いの物も見つかるんじゃないか?腹ごしらえしたら早速行ってみるか?」
「そうですね。」
しばらくすると、アイが呼びに来た。食事の準備ができたらしい。工房での作業を切り上げて、家へと戻る。
リビングには食事が並んでいた、が、なんだこれ?
「アイ。干し肉使ったの?」
「もったいなかったから。」
「もったいないって。別にこれから使えばいいだろうよ。この後もまた行くんだし。」
「え~。また行くの?メンドクサイ。」
「まあ、そう言わないでサ。」
「う~ん。わかった。」
なんだ、サトシには従順だな。でもなぜおれへの態度が悪い?
「あ、そういえばサトシ。今回保存食買ったけどさ。よく考えたら、おまえ出せるんじゃない?」
サトシは一瞬ぽかんとしたが、意味を理解したらしく、膝を打つ。
「ああ、そうですね。出せますね。試してみましょうか。」
「そうだな。必要な時になって失敗するのもまずいしな。」
そう言うと、サトシは掌をかざして、念じ始める。すると、掌からするすると干し肉が出てきた。
「ちょっと食べてみようか。俺にも少しくれ。」
サトシは今現れた干し肉を、少し引きちぎると俺に手渡す。俺はそのひき肉を口に放り込み、奥歯でかみしめる。
「おお、いいじゃん。なかなかうまいよ。」
ちょうどビーフジャーキーのようだった。おそらく思い浮かべたのがそれだったのだろう。
「ビールほしいですね。」
「出せるんじゃね?」
サトシは、わくわくした顔で掌をかざし念じる。徐々に目がマジになってくる。最後は鬼気迫る顔で
じょろじょろ。
「うわぁ!!」
なんだよ。掌からじょぼじょぼ直接ビールが出てきたヨ。
「俺はてっきり瓶ビールか、缶ビールが出てくるもんかと思ったが。」
「いや、俺も最初はそれを狙ったんですけどね。容器の中に液体を入れてって言うのが難しくて。ビールだけなら出せそうだなと」
「ちょっと絵面がな。黄色い液体がじょぼじょぼ出てきて泡立って。って」
「いや、それ以上言わないでください。コップか何か用意しとけばよかったですね。」
「だな。でも大量生産は難しそうだな。」
「そうですね。できて一杯ずつってとこですかね。」
「そうか。この農場がもっと広がったら、麦を作ってもいいかもな。」
「ですね。夢が広がりますね。」
そんな二人を横目に、アイは黙々と食事をしている。あまりこのあたりの会話には入ってこない。ログを取ることだけに集中しているんだろうか。
そうこうしているうちに食事も終わり、出発の準備に取り掛かる。サトシはティックたちに何か指示したそうにしていたが、あまり間をあけて神殿の魔獣が復活しても困るので、先を急ぐことにした。
PCの前で寝ていたらしい。
仮想空間の中にダイブしたのはほんの数時間だが、観察期間はようやく半年となった。
サトシの行動に関してはすべてログを取っている。実際に疑似人格が実用可能なのか、検証にはより多くのデータと期間が必要になる。1000倍速より早くしたいところだが、さすがに俺の頭が持ちそうにない。
まだ頭の芯が痛むが、引き続きデータを収集するため、再度仮想空間にダイブする。
決して、ゲームの続きがしたいからではない。
まあ、パラメータは多少いじったが。
HMDを装着し、うなじにも電極を装着する。
わずかな痛みの後に、浮遊感が訪れる。
目の前が整った研究室の壁から、ここ最近見慣れた古い板壁に変わる。俺がダイブすると同時に止まっていた時間が動き出す。
下の階からは、アイが作る料理の匂いが漂ってくる。
あ、腹に何か入れとけばよかった。
この半年、ゲームの中では食事をしているが、現実世界の数時間は何も食べていない。おそらくこれからまた数時間はぶっ通しで観察を続けるだろう。
もう一度中断して……とも思ったが、めんどくさくなったので、そのまま続けることにした。
窓の外ではサトシが骸骨騎士の装備品を工房に運び入れるにぎやかな音がしている。
少し眠ったからか、気分がすっきりしている。
「さて、サトシの様子でも見てくるか。」
階段を降りると、アイが料理をしている音が聞こえてくる。
何もそんなにリアルさを追求しなくても、コマンド一つで料理を完成させることが出来るだろうに。
変なところにこだわりの詰まったゲームだ。作り手のこだわり……というか、狂気を感じる。
玄関を出ると、サトシが右へ左へと大忙しだった。
「ルークスさん。もう用事はすんだんですか?」
「ああ、大した用事じゃなかったからな。で、どうだ?それは役に立ちそうか?」
サトシは装備品を見ながら満面の笑みだった。
「これいいですよ。あれだけの衝撃を受けても大した傷みも無いですし、かなりの業物ですよ。これなら何もしなくても高く売れるかもしれません。
ただ、ルイスさんは、もっと安価なものをご所望だったので、ちょっと予定と違いますけどね。」
「あの神殿をもう少し進めば、狙いの物も見つかるんじゃないか?腹ごしらえしたら早速行ってみるか?」
「そうですね。」
しばらくすると、アイが呼びに来た。食事の準備ができたらしい。工房での作業を切り上げて、家へと戻る。
リビングには食事が並んでいた、が、なんだこれ?
「アイ。干し肉使ったの?」
「もったいなかったから。」
「もったいないって。別にこれから使えばいいだろうよ。この後もまた行くんだし。」
「え~。また行くの?メンドクサイ。」
「まあ、そう言わないでサ。」
「う~ん。わかった。」
なんだ、サトシには従順だな。でもなぜおれへの態度が悪い?
「あ、そういえばサトシ。今回保存食買ったけどさ。よく考えたら、おまえ出せるんじゃない?」
サトシは一瞬ぽかんとしたが、意味を理解したらしく、膝を打つ。
「ああ、そうですね。出せますね。試してみましょうか。」
「そうだな。必要な時になって失敗するのもまずいしな。」
そう言うと、サトシは掌をかざして、念じ始める。すると、掌からするすると干し肉が出てきた。
「ちょっと食べてみようか。俺にも少しくれ。」
サトシは今現れた干し肉を、少し引きちぎると俺に手渡す。俺はそのひき肉を口に放り込み、奥歯でかみしめる。
「おお、いいじゃん。なかなかうまいよ。」
ちょうどビーフジャーキーのようだった。おそらく思い浮かべたのがそれだったのだろう。
「ビールほしいですね。」
「出せるんじゃね?」
サトシは、わくわくした顔で掌をかざし念じる。徐々に目がマジになってくる。最後は鬼気迫る顔で
じょろじょろ。
「うわぁ!!」
なんだよ。掌からじょぼじょぼ直接ビールが出てきたヨ。
「俺はてっきり瓶ビールか、缶ビールが出てくるもんかと思ったが。」
「いや、俺も最初はそれを狙ったんですけどね。容器の中に液体を入れてって言うのが難しくて。ビールだけなら出せそうだなと」
「ちょっと絵面がな。黄色い液体がじょぼじょぼ出てきて泡立って。って」
「いや、それ以上言わないでください。コップか何か用意しとけばよかったですね。」
「だな。でも大量生産は難しそうだな。」
「そうですね。できて一杯ずつってとこですかね。」
「そうか。この農場がもっと広がったら、麦を作ってもいいかもな。」
「ですね。夢が広がりますね。」
そんな二人を横目に、アイは黙々と食事をしている。あまりこのあたりの会話には入ってこない。ログを取ることだけに集中しているんだろうか。
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