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生方蒼甫の譚

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 マーキングが残しておいたのは正解だった。一気に焼け焦げた大広間の前まで俺たちは戻って来ることが出来た。

「さて、この先はどうですかね。」
 サトシは探索シークをかける。大広間の奥の扉の先に延びる廊下には魔獣は居ないようだった。
 アイとサトシは慎重にあたりを探っているが、そんなに心配することなかろ?まあ、俺無敵だしな。なんせちょっとパラメータいじってるし。そのせいか、気持ちにもゆとりができるな。
さあ、俺についてこい!щ(゜Д゜щ)カモーン フォロミー。
「さあて、次は鬼が出るか蛇が……」

 カキィン!!

 「無効」
 目の前に現れるメッセージ。

 何があった?

 目の前には、俺に当たって弾き飛ばされた矢が落ちてゆくのが見える。そのまま俺は体勢を崩してたたらを踏む。

「ルークスさん!!」

 呼ばれて振り向くと、慌ててこちらに手を伸ばすサトシがみえる。

 が、倒れる身体を支えるため、踏み出した足に何か感触があった。

「カチッ!」

 すると、目の前に居たサトシとアイが瞬時に消えた!

 そして、直後に襲われる浮遊感。

 俺が落とし穴に落ちたんだと気づくのに数秒かかった。

 ドガ!!
 腰から床に叩きつけられる。
「痛てっ!!」
「無効」
 またもメッセージが現れる。
 痛くは無いけど、俺は地べたに座り込んだ形になっていた。
 

 今いる場所は上の廊下とはうって変わって、表面のざらついた岩でできている。まさに「洞窟」といった雰囲気だった。
 上空には俺が落ちたであろう落とし穴がぽっかりと口を開けて、そこから光が降り注いでいる。

 目が慣れてくると、周囲の状況がある程度見えてきた。完全な洞窟というわけではなく、人の手が入った廊下だった。湿度も高く、足元には水たまりもできていた。

「何やってるんですか!」
 サトシの声が上から聞こえる。反重力アンチグラビティで上空からアイと二人でするすると降りてきた。
「バカじゃない。」
「なんだと!」
 なんだよ。なぜそんなに俺には冷たいんだ。
 そして、なぜちょっとうれしいんだ……

「なんでニヤついてるんですか?」
 サトシが少し引いている気がする。
「キモ!」
 アイは汚物を見るような目で俺を見る。ああ、なぜだ。心地いい。そして、二人とも引いてるな。


 しばしの沈黙。

 
 
 さて、気を取り直してっと。

「で、どうなった?」

「どうなったじゃないですよ。何やってんですか?油断しすぎでしょ!?」
「まあ、そう言うな。反省してる。」
「反省だけならサルにでもできる。」
 ああ、アイの言葉攻めが心地よくなってきた。良いぞ。これは良い。

 アイがドン引きしてる。サトシもだ。

「オホン。さて、どうしようかね。」

「はあ。まあ、とりあえずまた元の場所に戻りますか?反重力なら大丈夫でしょ?」

「そうだな。大丈夫なんだが」
 なにやら、さっきから周囲が騒がしい。いや、アイとサトシの事じゃなくて。なにか俺たち以外にもいるようだ。足元を見ると、人骨らしきものも散乱している。骸骨騎士というわけでもなさそうだ。
「なんか、先客が居そうな雰囲気だな。」
「そういえば、そうですね。」
 サトシも俺が落ちて慌てたんだろう。珍しく探索せずに降りてきたらしい。周囲を見渡すと、暗闇の中で何かがキラキラと虹色に反射している。ライトボールで周囲を照すと、そこにはずっと先まで続く廊下があった。俺たち3人の周囲を除き、廊下の壁はすべて虹色に輝いている。

「タマムシ色ってやつか?」
「そんな感じですね。」
 よく見ると、玉虫色の壁が蠢いているのがわかる。
「色というより、タマムシなんですかね?」
「そうみたいだな。」
 どうやら、玉虫色をした10cm程度の虫が、びっしりと壁に張り付いているようだった。俺が集合体恐怖症だったら卒倒しているところだろう。
「ヤバいっすね。単体はそれほど強くないですが、数がエグいですよ。」
 サトシが俺にステータスを提示してくる。
「殺人虫(キラーバグ) Lv22 HP:800/800 ATK:62 DEF:69 弱点:火」
 確かに、一匹一匹は大したことは無さそうだ。だが、このあたり一帯に居るキラーバグは数万のオーダーだろう。なかなかに骨が折れそうだ。

 以前の俺ならな!!

 ああ、言ってみたかった。こんなセリフ。

 というわけで、ちょっと自分の能力を試してみたい。

「サトシ、アイ、ちょっと上空に逃げててもらえるか?」
「どうしたんです。これ全部やるつもりですか?」
「ああ、ちょっと試してみたくてな。で、結構な火力になると思うからさっきの部屋に逃げといてくれ。」
「何する気なんです?」
「いや、燃やすだけだよ。まあ、大丈夫だ。心配するな。」
 サトシとアイは顔を見合わせると、渋々と言った表情で上空に上って行き、廊下に消えた。おそらく俺の言葉通り大部屋の中で待機していることだろう。

 よおし。やったるでぇ。

 実は、ステータスを上げる時に、再度WiKiを読み込んできた。
 どうもクリエイターのこだわりで、魔法は無詠唱より呪文詠唱の方が効果が著しく高くなっているらしい。
 呪文を一言一句間違えずに詠唱できるとコンボボーナスが付くとのことだ。音ゲーか?だから、ちょっと試してみたいと思ってたんだよね。
 これだけ数がいると、無詠唱と呪文詠唱の比較ができそうだ。

 というわけで、最初は無詠唱。

 目の前に居るキラーバグを見据え魔法名のみ唱える。魔法名のみの場合は、暗唱でも詠唱でも「無詠唱」扱いになるらしい。まあ詠唱扱いになっても検証が面倒なので、今回は暗唱することにする。
『ヘルファイア』

 俺の目の前に現れた魔法陣が炎をまとって俺の周囲を回転する。その速度が徐々に速くなり、炎の円筒が出来上がると、そこから一気に周囲に向かって爆炎が広がる。
 まさに地獄の業火と言ったところだ……ったが、

「全部燃えたな。」

 無詠唱でも強いんですけど。

 どういうこと?
 ちょっとステータスいじりすぎたかな。

 結局呪文詠唱試せなかったけど、まあ、良しとしよう。

 とりあえず、酸欠なんかの物理的状態異常も無効にしたのは効果があったようだった。うむ。無敵に近づいたな。

 あれ?そういう目的だったっけ。


 そんなことを考えていると、上空から強風が吹きこんできた。

 サトシが酸素を送り込んでくれたようだ。

 まあ、今の俺には要らんけど、サトシとアイがここに入ったら確かに倒れるかもな。

「大丈夫ですか!?ルークスさん。とんでもない火力でしたけど」
 押っ取り刀でサトシが駆けつけてきた、アイは素知らぬ顔だが……それが良い。

「ああ、大丈夫だ。
 で、どうする。こっちも道があるようだし。こっちを進んでみるか?」

「そうですね。行ってみましょうか。」
 俺たちは、湿っぽい廊下を進むことにした。
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