廻る世界の護り人ー四季の守護者ー

徒花

文字の大きさ
6 / 13
世界観および人物紹介

忘れられないもの・リン

しおりを挟む
闇夜の街道の中、戦闘音が響いていた。
炎や雷が走り、夜の闇を切り裂くように照らし出す。

闇の中で激しく交錯するのは、四つの影。
三人と対峙しているのは、青い髪に血の気のないほど白い肌を持つ存在――青の蛮族の下っ端だった。
ぎらつく目だけが、不気味に光っている。

「ティッキー!下がれ!」

鋭い声に、ティッキーと呼ばれた少年は雷を纏いながら後退する。
金の瞳が稲光を反射して煌めいた。

「しつこいんだよね!」

短い髪の幼い少女――ローラが、ハスキーな声を響かせる。
その周囲には無数の氷が幻術で生み出され、次の瞬間、一斉に刃となって降り注いだ。

だが青族はそれを乱暴に振り払い、強烈な冷気を撒き散らした。

「きゃあっ!」
「うわっ!」

氷刃を操っていたローラも、後退していたティッキーも、容赦なく吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

「ティッキー!ローラ!」

仲間の悲鳴に、銀髪の少女――リンが即座に反応する。
駆け抜けざまに三叉槍を振るい、雷を帯びた炎を奔らせた。

バチバチと迸る雷光、その後を追うように炎が広がり、夜を白々と照らし出す。
燃え盛る炎と雷の奔流は、青族の前に壁のように立ちはだかり、接近を許さない。

追撃のために氷を生み出した青族だったが、その氷は触れるそばからジュウジュウと音を立てて溶け落ち、力を失っていった。

「……ッ!」

焼かれ、融け落ちる光景に、青族の表情が歪む。
このままでは勝ち目がない――本能がそう告げていた。

恐怖に駆られた青族は闇に身を溶かし、あっさりと姿を消す。

「……逃げたか。」

仕留め損ねたことに苛立ちを覚えつつも、リンは燻る炎と雷を振り払い散らすと、吹き飛ばされた二人に駆け寄った。


吹き飛ばされたティッキーとローラに駆け寄ったリンは、槍を背に回してしゃがみ込む。

「大丈夫?」

「リン、オレは……っ、平気だ。けど……腕が……」
ティッキーは顔を歪め、利き腕を押さえた。地面に叩きつけられた衝撃で強く痛めたらしい。

「私は……ティッキーが庇ってくれたから。ちょっと足、捻っちゃっただけ……」
ローラも無理に笑ってみせるが、その脚は明らかに力が入っていなかった。

リンはすぐに腰のポーチを探り、緊急用の治療道具を取り出す。
布や薬草、簡易固定具――冒険者らしい手際で応急処置を始めた。

「ローラ、足出して。ティッキーはこの棒で腕を固定して。……いい?絶対に無理はしないで。」

淡々としながらも温かみのある声に、二人は素直に従った。
リンの指は迷いなく動き、ローラの足を包帯で固定し、ティッキーの腕を即席の副木で固めていく。

「さすがリン。こんな時でも落ち着いてる……」
ローラが感心したように呟けば、ティッキーも苦笑いを浮かべた。
「やっぱりS級は違うな……」

「これでも一応、S級冒険者だからね。治療くらいはできるよ。」
軽く笑い返すリンの額には、それでも僅かに汗が滲んでいた。

処置を終えると、リンはローラの背に回り、軽々と背負い上げる。
「とりあえず、トトが言ってた隠れ家まで行こう。ここに長居は危険だから。」

「……オレは歩ける。行こう。」
痛みに顔を歪めながらも、ティッキーは雷を纏わせたまま立ち上がる。

リンはすぐに街道脇の森へと進みながら、念入りに痕跡消しの魔術を重ねていった。
足跡も気配も消し去り、森の奥へ奥へ――。

やがて現れたのは、人気のない古びた小屋だった。
一見すればただの打ち捨てられた家に見えるが、リンは迷わず腰の直刀を抜き放ち、床へ突き立てる。
刃が僅かに動いた瞬間、木の床に隠し扉が開き、地下への入口が現れた。

「急ごう。」

三人は中へと降り、長い階段を下りていく。
やがて地下の広間が広がり、複数の影が振り返った。

「リン! 無事に帰ってきたのね!」

声を上げて駆け寄ったのは、梟の鳥獣人の女性――トトだった。
柔らかな羽毛に包まれた姿は、母のような優しさを滲ませている。

「トト、ただいま。ティッキーもローラも、ちょっと怪我したけど無事だよ。」

リンの言葉に、トトは二人を抱き寄せて安堵の声を漏らした。
「……よかった。本当に、よかったわ!」

後ろから現れたのは青髪の女性、魔術師のアオ。
手には杖を携え、鋭い視線でリンを見つめる。
「周辺は異常なし。けど……青族は?」

「逃げられた。」
リンが答えると、アオは眉を顰め、悔しげに息を吐いた。
「やっぱり下っ端は足が速いわね。」

奥では、人魚のラナやシルバたちが「おかえり!」と声を上げ、駆け寄ってくる。
リンはみんなの頭をぽんぽんと叩いてから、仲間へと告げた。

「ティッキーとローラはしばらく休ませて。大きな戦闘は、私とアオが引き受けるから大丈夫。」

「ありがとう。……男たちには周囲の警戒を任せるわ。次の動きは私が決める。」
トトはそう答えつつ、名残惜しげにリンを抱きしめ直した。

「安心して。来る途中でも痕跡消しはかけてきたから。」
リンは柔らかく笑って、アオへ振り向く。
「アオ、行こう。今回は任務が詰まってるでしょ?」

「ええ。……転移陣で一気に戻るわ。」

アオが魔術書を開き、詠唱を唱えると、床に魔法陣が広がった。
「じゃあね、トト。また来るよ。何かあったらこれを使って。」

リンはポーチから通信の魔具を取り出し、トトへ放る。
トトがそれを受け取った瞬間、光に包まれ、リンとアオの姿は掻き消えた。




少しの浮遊感の後、リンとアオはギルドの前に帰還した。
まだ夜の名残が濃い街並みの中、灯りのついたギルドの窓からは人の気配が漏れていた。

「報告書はアオ、よろしく。」
「は!?ちょっと、リン!アンタたまにはやんなさいよって、もう居ない!!!!」

アオが振り返った時には、もうリンの姿はなかった。
「……あんの自由人め!!!」
青髪の魔術師は深くため息を吐き、仕方なくギルドの中へ足を向けた。



「ただいま。」
リンは、ギルドと同じ区画にあるセカンドハウスへ帰ってきた。
暖かな木造の扉を開けると、すぐに駆け寄ってくる足音が響いた。

「リン!おかえり!」
「今回はちょっと長めの任務だったね!」

赤髪のシオと桜色の春星が、ほぼ同時に飛び込んできた。
リンは「疲れたー」と三叉槍を投げ出し、慌てて春星がそれを受け止める。

「ちょ、リン!これ武器庫にしまっとくの?」
「あー、いや。部屋まで持ってってー。お腹すいた!!」

シオが笑って肩をすくめ、「今日の料理当番は冬だよ!」と声を弾ませた。
「冬の手料理?珍しいじゃん。絶対美味しいやつじゃん!」
嬉しそうに目を輝かせながら、リンはリビングへ駆け込んでいく。



「帰ってきたか。おかえり、リン。」
浅葱色の長い髪を後ろで束ねた大柄な男――冬の守護者イヴェールが、鍋をテーブルへ置いたところだった。
漂うスープの香りに、リンの表情がぱっと明るくなる。

「ただいま!あれ?竜胆は?」
「いる。……当直明けでまだ寝てるから、これから呼びに行くところだ。」

リンは即座に「私が行く!」と駆け出し、階段を登って竜胆の部屋へ向かった。


竜胆の部屋。暗い室内のベッドに忍び寄り――

「りーんd……あああああっ!!」

布団をめくった瞬間、不気味な人形が鎮座していた。
心臓が止まりそうになるリンの背に、聞き慣れた声がかかる。

「ふふふ、お帰りなさいリン。ずいぶん情熱的な起こし方ですねぇ?」

竜胆はすでに起きていて、クスクス笑いながら立っていた。

「……竜胆!起きてたの!?」
「えぇ。部屋に来る足音でわかりましたよ。残念でしたねぇ?」

にやりと意地悪く笑い、リンの頭をわしゃわしゃ撫でる竜胆。
返り討ちに遭ったリンは「あーもう!ダメかー!」と肩を落とした。

――こうしてまた一人、「竜胆いたずらチャレンジ」に失敗したのであった。



その夜も、セカンドハウスの食卓は笑い声に包まれていた。
戦いの疲れを忘れるほどの、暖かな日常。
今日もリンは、仲間たちと共にその時間を享受するのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

後書き
リンの紹介話でした。
リンは、以前はちゃんと報告書を書いていましたが、とんでもなく自由なためまともな形をしておらず
結局職員が聞き取りをして書き直していました。

アオと組んで以降は、アオに報告書は丸投げされていますが
ギルド的には仕事が少なくなったのでニコニコです。


裏話ですが、未成年組の竜胆への悪戯チャレンジ
いまだに誰も成功していないとか・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...