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番外編 雪の城のおひめさま
番外編 第2話
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アルとシオンの間で、すさまじい速度の剣戟が交わされている。そのあまりのすさまじさにベンチで眺めていたシリウスとアイゼンも一瞬で前のめりになってしまったほどだ。
すでにアルは雷の属性魔術と身体強化の魔術を併用した全開状態だ。おかげで手に持った木刀は振るわれるたびに大きくしなり、この模擬戦が終わったらもう使い物にならないだろう。
対するシオンは、両手に持った氷の刃でアルと互角に打ち合っている。彼女は属性魔術で氷を操る。そしてその魔術で作り上げた刃の一撃は鋭く、一振りで刃が粉々になるほどだが、次の瞬間には作り直され新たな刃が振るわれる。それにより絶え間ない連撃を作り出しているのだ。
本来であれば二重の身体強化をしているアル相手に、身体強化の魔術のみのシオンが近接戦闘で互角に戦うのは難しいだろう。だが、そこに彼女が“島で一番強い魔術師”と言われる理由の一つがある
シオンの魔力量はアルの倍以上、シリウスやアイゼンと比べると三倍か四倍はある。基礎魔術の出力は使用者の魔力量に依存する部分が大きい。魔力量が倍あるからと言って単純に出力が倍になるということはないが、二重強化に及ばないまでも大幅な身体強化が可能になっている。ゆえに、得意ではない近接戦闘でもアルと互角に戦うことができているのだ。
「うおりゃあっ!」
掛け声とともに、アルがシオンを弾き飛ばした。
空中で半回転して右足から着地すると、シオンを中心に五メートルほどの範囲の地面が凍結した。それがシオンの防御領域だということをアルは知っている。だが、攻勢を緩めるつもりはなかった。
(面白いじゃねえか)
開いていた距離を瞬時に詰め、シオンの領域に飛び込もうとした。だが、急に現れた氷の壁に阻まれる。すぐさまアルは氷の壁を木刀で切り裂いたが、すぐに壁は再生してしまった。
何度か同じように氷の壁を攻撃するも結果は同じだった。力をおさえているとはいえ、シオンの防御領域は簡単に崩せるものではないと判断し、アルはいったん距離をとった。
どれだけ身体能力を上げても、シオンの反応速度を超えられなければ、防御領域も反応する。彼女が反応できないほど速く動かなければならないのだ。————ゆえに、アルは燃えていた。
すっと息を吸うと、アルは全速力でシオンの防御領域の外を走り回り始めた。その速度はいままでで最速、残像が残るほどの速度だった。にもかかわらず、アルはそのままさらに加速を続けている。最大まで加速してから攻撃に移るつもりなのは誰の目にも明らかだった。
「……させない」
何もせずに加速していくのを見ているほど、シオンも甘くはなかった。なにせ加速している間は無防備なのだから。
それに模擬戦とはいえ、適当にやっているとアルの心証が悪い。それだけのことで嫌われることはないのはわかっていても、できるだけ好かれたいと思うのは当たり前だろう。だから、力は抑えるが本気でアルを倒すつもりで戦っていた。
両手に持っていた氷の刃を消したシオンは、空いた手のひらに水を作り出した。そして、周囲を駆けまわっているアルに向かって思い切り腕を振った。
手を振った勢いと遠心力で手のひらの上の水は勢いよく投げ出され、次の瞬間には小さな氷の刃に変わってアルへ襲い掛かる。
速度は銃弾並みだが、その威力は銃弾とは比べ物にはならない。ほとんどの魔術師は銃弾をはじく魔術を使用できるが、そんなもので止められるはずもなく、アルは足を止めて全力で迎撃する態勢をとった。
木刀で飛来する氷の刃を砕く。一発、二発と迎撃していくうちにアルの周囲は白い霧に包まれ始めた。シオンは攻撃をやめず、舞うように小さな氷の刃を飛ばし続けるシオンと、白い霧に包まれながらも迎撃を続けるアルという状態が数十秒間続いた。
「おい!大丈夫かよ……」
見ていたシリウスが心配するような声を出した。シオンは動きを止めたものの、霧の中からアルが姿を現さなかったからだ。
「模擬戦ってあそこまで徹底的にやるのかよ……」
アイゼンはアイゼンでシオンの所業にドン引きしていた。ここまで本気の模擬戦などシリウスだって見たこともなかった。
「これくらいなんともねえよ」
白い煙の奥から声がした。そして、煙を裂くようになにかがシオンの方へと飛んで行った。
氷の壁によって瞬時にガードされて弾かれたのは、筒状の木片だった。シオンの攻撃によって、見るも無残な姿に変えられてしまっているが、アルが持っていた木刀の柄だ。
「————シオン、ちゃんとガードしろよ」
突風が吹き、白い煙が晴れると拳を構えたアルの姿が現れた。
そしてまさしく電光石火の踏み込みで氷の壁の前まで接近すると、驚くほどゆっくりとした突きを繰り出した。
瞬間、氷の壁に風穴が空き、シオンの体が宙を舞っていた。攻撃の前にアルの忠告があったため、氷の壁を五枚に増やしたうえで両手に氷の刃まで作り上げてガードしていたのだが、そのすべて一撃で貫かれていた。
「すまん、まだ加減ができなくってな」
「いえ、怪我はしてないからいいけれど。……アル、いまのは?」
「練習中の必殺技だよ。さぁて、疲れたし模擬戦も終わりにするか」
アルは疲れたなどと口にしているが、“必殺技”と言った技の正体を詮索されたくないという意図がまるわかりだった。
なら、シオンはそれ以上は何も聞かないし、終わりなら終わりで構わなかった。アルが言うならそれが正しいのだから。
アルとシオンがあまりに苛烈な模擬戦を繰り広げたため、それを見ていたシリウスとアイゼンは驚愕で固まっていた。
そして、この後自分たちも同じように模擬戦をやると聞いて、今度は顔を引きつらせることになった。
すでにアルは雷の属性魔術と身体強化の魔術を併用した全開状態だ。おかげで手に持った木刀は振るわれるたびに大きくしなり、この模擬戦が終わったらもう使い物にならないだろう。
対するシオンは、両手に持った氷の刃でアルと互角に打ち合っている。彼女は属性魔術で氷を操る。そしてその魔術で作り上げた刃の一撃は鋭く、一振りで刃が粉々になるほどだが、次の瞬間には作り直され新たな刃が振るわれる。それにより絶え間ない連撃を作り出しているのだ。
本来であれば二重の身体強化をしているアル相手に、身体強化の魔術のみのシオンが近接戦闘で互角に戦うのは難しいだろう。だが、そこに彼女が“島で一番強い魔術師”と言われる理由の一つがある
シオンの魔力量はアルの倍以上、シリウスやアイゼンと比べると三倍か四倍はある。基礎魔術の出力は使用者の魔力量に依存する部分が大きい。魔力量が倍あるからと言って単純に出力が倍になるということはないが、二重強化に及ばないまでも大幅な身体強化が可能になっている。ゆえに、得意ではない近接戦闘でもアルと互角に戦うことができているのだ。
「うおりゃあっ!」
掛け声とともに、アルがシオンを弾き飛ばした。
空中で半回転して右足から着地すると、シオンを中心に五メートルほどの範囲の地面が凍結した。それがシオンの防御領域だということをアルは知っている。だが、攻勢を緩めるつもりはなかった。
(面白いじゃねえか)
開いていた距離を瞬時に詰め、シオンの領域に飛び込もうとした。だが、急に現れた氷の壁に阻まれる。すぐさまアルは氷の壁を木刀で切り裂いたが、すぐに壁は再生してしまった。
何度か同じように氷の壁を攻撃するも結果は同じだった。力をおさえているとはいえ、シオンの防御領域は簡単に崩せるものではないと判断し、アルはいったん距離をとった。
どれだけ身体能力を上げても、シオンの反応速度を超えられなければ、防御領域も反応する。彼女が反応できないほど速く動かなければならないのだ。————ゆえに、アルは燃えていた。
すっと息を吸うと、アルは全速力でシオンの防御領域の外を走り回り始めた。その速度はいままでで最速、残像が残るほどの速度だった。にもかかわらず、アルはそのままさらに加速を続けている。最大まで加速してから攻撃に移るつもりなのは誰の目にも明らかだった。
「……させない」
何もせずに加速していくのを見ているほど、シオンも甘くはなかった。なにせ加速している間は無防備なのだから。
それに模擬戦とはいえ、適当にやっているとアルの心証が悪い。それだけのことで嫌われることはないのはわかっていても、できるだけ好かれたいと思うのは当たり前だろう。だから、力は抑えるが本気でアルを倒すつもりで戦っていた。
両手に持っていた氷の刃を消したシオンは、空いた手のひらに水を作り出した。そして、周囲を駆けまわっているアルに向かって思い切り腕を振った。
手を振った勢いと遠心力で手のひらの上の水は勢いよく投げ出され、次の瞬間には小さな氷の刃に変わってアルへ襲い掛かる。
速度は銃弾並みだが、その威力は銃弾とは比べ物にはならない。ほとんどの魔術師は銃弾をはじく魔術を使用できるが、そんなもので止められるはずもなく、アルは足を止めて全力で迎撃する態勢をとった。
木刀で飛来する氷の刃を砕く。一発、二発と迎撃していくうちにアルの周囲は白い霧に包まれ始めた。シオンは攻撃をやめず、舞うように小さな氷の刃を飛ばし続けるシオンと、白い霧に包まれながらも迎撃を続けるアルという状態が数十秒間続いた。
「おい!大丈夫かよ……」
見ていたシリウスが心配するような声を出した。シオンは動きを止めたものの、霧の中からアルが姿を現さなかったからだ。
「模擬戦ってあそこまで徹底的にやるのかよ……」
アイゼンはアイゼンでシオンの所業にドン引きしていた。ここまで本気の模擬戦などシリウスだって見たこともなかった。
「これくらいなんともねえよ」
白い煙の奥から声がした。そして、煙を裂くようになにかがシオンの方へと飛んで行った。
氷の壁によって瞬時にガードされて弾かれたのは、筒状の木片だった。シオンの攻撃によって、見るも無残な姿に変えられてしまっているが、アルが持っていた木刀の柄だ。
「————シオン、ちゃんとガードしろよ」
突風が吹き、白い煙が晴れると拳を構えたアルの姿が現れた。
そしてまさしく電光石火の踏み込みで氷の壁の前まで接近すると、驚くほどゆっくりとした突きを繰り出した。
瞬間、氷の壁に風穴が空き、シオンの体が宙を舞っていた。攻撃の前にアルの忠告があったため、氷の壁を五枚に増やしたうえで両手に氷の刃まで作り上げてガードしていたのだが、そのすべて一撃で貫かれていた。
「すまん、まだ加減ができなくってな」
「いえ、怪我はしてないからいいけれど。……アル、いまのは?」
「練習中の必殺技だよ。さぁて、疲れたし模擬戦も終わりにするか」
アルは疲れたなどと口にしているが、“必殺技”と言った技の正体を詮索されたくないという意図がまるわかりだった。
なら、シオンはそれ以上は何も聞かないし、終わりなら終わりで構わなかった。アルが言うならそれが正しいのだから。
アルとシオンがあまりに苛烈な模擬戦を繰り広げたため、それを見ていたシリウスとアイゼンは驚愕で固まっていた。
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