魔術と異能が交差するこの世界で

ヌン

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番外編 雪の城のおひめさま

番外編 第3話

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「ルールは簡単、俺とシオンがやったみたいに死なない程度で本気の戦いをしてもらう。ただ戦うだけじゃ意味が薄いから、特別ルールを付ける。犬は身体強化を維持したまま、アイゼンは武器の形状を一振りごとに変えること。ルールを破ったらその時点でそいつの負け。勝った方にはなにかあるかもしれんし、ないかもしれん。————以上だ」
 グラウンドから戻ってきたアルは、ベンチに座っていたオレとアイゼンを力づくで退けるとドカッと座り込んで、そう告げた。
 さっきの模擬戦を見た後にやるのはハードルが高すぎるって。同じ気持ちなのか、アイゼンも微妙な顔をしていた。
「大丈夫だよ、危なそうだったら止めに入ってやるから、気にせずやればいい。アイゼンは向こうで、犬はそっちな」
 オレたちがこんな顔してるのはそんな理由じゃねえよ。と言いたくなったが、なにを言っても模擬戦をやることには変わらないだろうから渋々指示された方へと移動した。

 軽く準備運動をしながら、どう戦うべきかを考えてみる。
 アイゼンの異能は知っている、鉄を操る異能だ。戦闘スタイルだって前に見ているから情報量で言えばこっちの方が有利だろう。だが、異能の相性を考えるとなかなかきつい戦いになるのは目に見えていた。
 獣化の異能は身体能力の向上と牙や爪が伸びるくらいしかないショボい異能だ。アイゼンの鉄の鎧を貫く攻撃力はなく、そのくせアイゼンの攻撃を受け止めるほどの防御力もない。スピード勝負ならこちらが有利だろうが、それで有利になるかはアルとアイゼンの戦いを思い出せば明らかだろう。……つまり、ちょーキッツイ。
「よーし!始めるか。と、思ったがちょっと待て」
 もう準備はできたので、開始の合図を待つだけだったのだが、なぜかアルは合図を出すのをやめた。なんでかと思ったら、アルの座っているベンチに人影が二つ増えていた。
 一人はさきほどまでアルと戦っていたシオン、もう一人はエリーゼだ。おそらく模擬戦が始まるということで呼んでおいたのだろう。
 アルが視線を送ると、シオンは右手を上げた。その瞬間、グラウンドをちょうど中央で仕切るように巨大な氷の壁が出来上がった。
「それがなくなった瞬間にスタートだからな!」
 コインの落ちた瞬間を合図にする勝負があると、どこかで聞いた記憶があるのでそれに倣った形なのだろう。それにしては大掛かりすぎる気もするが。
 氷の壁は厚く、壁の向こうにいるはずのアイゼンは見えない。次に見えた瞬間から戦いだ。
 全身に魔力を巡らせ、身体強化の魔術を発動する。珍しく一発で成功した身体強化で力がみなぎってくる。獣化の異能と合わせれば、大抵のやつには負けないと自負しているのだが、この島にはその大抵じゃないやつしかいない。おかげで今日の戦いだって、厳しいものだ。

 そう考えた次の瞬間に、氷の壁は白い霧に変わった。

 *****

 グラウンドが白い霧に包まれた。
 視界がなくなったにもかかわらず、アイゼンはまっすぐにシリウスへ突撃した。
 シリウスの異能についてどういうものかは把握していたが、実際に見たことはなかった。それでもアルと同じ身体能力を強化するものとは知っていたので、速度勝負では分が悪いと考え、初撃での決着を狙って行動したのだ。
 死なない程度と言われたので、刀の刃は形成していない。ただの鉄の板と変わらない状態だが、それでも金属を体にたたきつけるのだ。全力で振るえば一撃で戦闘不能にできる自身がアイゼンにはあった。

 魔術で強化された感覚でシリウスとの距離を測る。向こうもこちらに向かってきていたらそれも無駄になるところだったのだが、シリウスの影は最初に立っていた位置から動いていなかった。頭を狙えば致命傷になるだろうが、今回は戦闘不能にすればいいので体の中心を狙って横なぎに刀を振るった。

 身体強化した一撃、無防備に喰らえばひとたまりもない、渾身の一撃だった。だが、その一撃が切り裂いたのは周囲に漂う白い霧だけだった。
 霧に移っていた影は渾身の一撃により霧散し、それによってアイゼンはシリウスを見失った。————その一瞬の隙をシリウスは見逃さなかった。

 芸術家の街でシリウスは同じような状況に出会っていた。だから、同じ状況になった時にどうすべきかをずっと考えていたのだ。視界のない状態でなにを手掛かりにして相手の位置を探るか、一番手っ取り早いのは影だとシリウスは思った。あの時のように暗闇の中でなければ、それが一番わかりやすいだろうと。逆に言えば、同じ状況では相手も影を頼りに攻撃を仕掛けてくる。それを利用しない手はない。
 今回はその作戦が見事にハマり、アイゼンを翻弄した。だが、それも一瞬のことで、霧が晴れてしまえば、優位性も崩れてしまう。以上のことも踏まえて、シリウスが考えたのも初撃での決着だった。

 渾身の一撃が空振りだったアイゼンは隙だらけだ。霧で視覚がない状態だが、この状況へ誘い込んだシリウスからはその隙が見えていた。
 刀を振るった勢いでアイゼンの体は右に流れている。なら、攻撃するならそこからだ。
「ぐるあッ!!」
 気合いとともに右脇から背中に向かって爪を振るった。着ていた服を破って、鉄の鎧へとぶつかった。全力の一撃だったのだが、それでも貫くには至らず大きな爪痕を残しただけだった。
「ちいっ!」
 背中からの一撃でシリウスの位置を把握したアイゼンが苦し紛れに作り出した槍を振るった。そんなものがシリウスに当たるはずもなく、バックステップで軽く回避されてしまった。しかし、距離を作るにはその一瞬で十分だった。

 だんだんと薄れていく霧の中、アイゼンとシリウスはにらみ合っていた。
 視覚がない状態で相手の位置を探るための体勢をとっていたら、自然とその形になっていたのだ。————そして、霧は晴れた。
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