川の鳩の日常

水玉そら

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1.変人の出会い

変人

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 下校中、コンビニへ立ち寄りお気に入りのお菓子を手に取った。『濃厚チョコステッキ』というチョコのついた細い棒のお菓子だ。九本入り、シャーペンくらいの大きさが僕、鳩本葵のお気に入りである。
 会計に向かうとレジには二人の店員がいた。ひとりは優しそうなどこにでもいそうな女性、もうひとりは学園ドラマのいじめっ子にいそうな目の細いおそらく新人の男性。この二択を迫られたとき、僕は女性を選ぶ。僕は。心の中で申し訳ないと思いながら女性の方のレジへ向かった。
 しかし、自分より女性のレジの近くにいた別の客に取られてしまった。男性のレジはあいている。しかも、男性店員には僕の姿が見えているので後ろに列を作るわけにもいかない。僕はいかつい見た目の人が苦手だ。嫌いではない。得手不得手の話だ。恐る恐るレジへ向かった。
店員「濃厚チョコステッキ一点138円です。」
高めの声なのは以外だった。
店員「あざした~。」
吹き替えではないかと疑いながら店を後にした。

 習慣は良いと思う。僕の習慣はこうだ。

1.何があっても日付が変わる前に寝る。
2.登下校中は歩幅65cm、BPM90くらいで歩く。
3.かばんの中には『濃厚チョコステッキ』を一つ常備しておく。
4.毎日下校中に公園へ行き、ベンチで『濃厚チョコステッキ』を食べる。

 今から四つ目、公園へ行く。その公園には野良猫がいるので毎回お菓子を食べた後に頭を撫でる。
 公園に行く一番の理由は子どもの声だ。聞くだけで元気が出る。自分の下校時間に子どもたちが公園に集まるのでちょうどいい。目の前で子どもが転んだりするとつい感情移入してしまう。
子ども「うえ~~ん!痛~い!」
表には出さないが心の中では
「そうやねぇ、痛いね。痛いの痛いの飛んでけ~!」
などとキモい事を考えている。一応、ロリコンとやらではなく、例えるならば、ベビーカーで寝ている赤ちゃんを見て可愛いと思う感情に近いものだ。というか赤ちゃんはもともと可愛い生物か。

 ——でたまに川端というクラスメイトの女子が勝手に公園にやってくる。
川端「あの子、よく転ぶやんね。」
鳩本「さぞかし丈夫な膝ができるんやろうね。」
川端「あっちもなんか騒がしいな。」
 別に少し遠くの方で揉め事が起こっているらしい。
八才の男の子「ここからは俺らのテリトリーや!入ってくるんやねぇぞ!」
五才の男の子「僕らもそっち行きたい。」
 僕もやったことがある。自分の陣地を作って他の誰も立ち入らせない。今になってなぜああいう事をしていたのかわからないが、もし誰かが立ち入ろうもんなら大声をあげて怒り狂った。
八才の男の子「ダメ!入ってくんな!」
五才の男の子「ええやん。」
八才の男の子「ダメなもんはダメ!」
 急に甲高い声で叫んだので公園中に響いた。
川端「わからんけどさ。あの子ちょっと過敏やんね。我慢ができひんというか他人とのコミュニケーションとか苦手なんやろうな。」
鳩本「勝手に決めつけるのは良くないよ。」
五才の男の子「うーん。もうわかったよ、いこーぜ。」
 あの子は賢そうだ。諦めることを知っている。
川端「そういえばあの猫に名前とか付けた?」
鳩本「付けへんて。野良猫やで。」
川端「え~。可哀想。毎日撫でてんのに。白猫やからユキちゃんとかは?」
鳩本「オスやし。それに名前付けたら本格的に愛着が湧いちゃうし。」
川端「ユキちゃんで。」
鳩本「聞いてる?」
 するとまた別の子がテリトリーの近くに走っていった。しかもテリトリーだと気づかずに無邪気に飛び込んだ。
四才の男の子「わーい!」
八才の男の子「もう!入らんとってって言ってるやろ!」
四才の男の子「なんで?公園はみんなのもんやで。」
八才の男の子「ダメ!ダメ!ダメ~~!」
 明らかに土地の所有権を主張している方が年上に見えるので、譲ってあげてよ、という気持ちが心の中で湧き出てきている。
 もう我慢できなくなったのか、年下の方が無理やりバリケードを突破しようとした。しかし、年上の男の子が止めようとして年下の子を突き飛ばした。年下の子はケガをし泣きじゃくり、土地の所有権どころの話ではなくなった。
鳩本「帰ろう。」
川端「今日は早いね。」
鳩本「あまり気分がよろしくないのでね。明日良かったらどうなったか教えて?」
川端「え。居残り?まぁいいや続き気になるし。」
 本当は子どもの日常をこんなサブスクみたいに見るのはあまり趣味がよくないことだとはわかっている。


 翌日、授業でやる内容がないという理由で体育でドッヂボールをすることになった。理由がおもしろくて笑ってしまった。
川端「どこでウケたん?」
鳩本「いや、先生もう授業の内容考えんのめんどくさくなったんやなって。ドッヂボールって比較的教師が何もしなくても生徒が勝手に盛り上がってくれるからさ。」
川端「たしかに?」
鳩本「同じチームやね。」
 僕はあまりボールにぶつかりたくない。もちろんゲームとしても当たりたくはない。それに、投げるのが下手くそなのでメインで戦う訳にもいかない。逆境には立ち向かわない主義なので避けに徹することにした。
 昨日の事件がどうなったか気になったので訊いてみた。
鳩本「そういえば、あの子たちどうなった?」
川端「あ…えっと、あの後ちっちゃい子の友だちがおっきい子をめっちゃ責めたんよね。そんでおっきい子は五分くらいすごく慌てふためいて、そんで逃げたね。」
鳩本「もう当分あの公園には来れないね。」
その瞬間、川端の背中に豪速球が当たった。
川端「いった。手加減しろよもうちょっと。」
小声の口調が怖すぎるよ。
鳩本「またね。」
 人数が少なくなり、投げうまと避けうまが残っている。投げうまの人は一生懸命ボールをキャッチしては投げ、キャッチしては投げを繰り返し、疲労が溜まりついには当てられてしまった。避け続けている僕は永遠に残った。逆に迷惑ではないかと思ってしまうほど。ただ内野、外野からの豪速球に当たりたくないのでひたすらに避け続けた。結果足をかすってアウトになった。
川端「あのさ、凄いんやけどさ、どんだけ当たりたくないの?」
鳩本「痛いやん。」
川端「ほんと。凄いね。」


 今日は川端の方から打診があった。
川端「今日も公園?」
鳩本「習慣だからね。」
川端「ついていっていい?」
鳩本「断ってもついてくるやろ。」
川端「そりゃあね。」
 いつも通りコンビニに例のお菓子を買いに行った。今日はあの男性店員しかいなかったのでしかたなく。
店員「くじ引けますけどやります?」
鳩本「じゃ、一応。」
店員「チョコステッキ好きなんすね。」
鳩本「まぁ。あ。当たった。」
店員「おめでとうございます。で…はこれ、ナマケモノキーホルダー差し上げます。」
 いらない。
店員「あざしたー。」
 店員の名札から姫崎さんという名字だとわかった。可愛い。コンビニを出て川端にキーホルダーを見せた。
川端「なにこれ。」
鳩本「ナマケモノ。」
川端「それはわかってるけども。」
鳩本「くじで当てた。いる?」
川端「いらない。無駄にリアルなのがより嫌。」
 川端が見てくる。ジロジロ見てくる。何が目的なのか質問してみたいが、このまま黙っておいたときの反応も気になる。視線を大きく動かしてみたらその方を見て、目を合わせてみると目の奥までじっと見てくる。
川端「何考えてんの?」
鳩本「え?何も?」
川端「んじゃ逆に私が何考えてるかわかる?」
鳩本「わかんないから探ってる。」
川端「同じだ。」
 ちなみに今は姫崎さんの名字が可愛くて面白いという感情を引きずっている。
 ずっと見られながら公園についた。
川端「もう映画館みたいやね。」
鳩本「4DX?」
川端「フッ。」
鳩本「あ。あの子今日も来てる。」
川端「強いね。」
 今日は何もないといいけど。
 開封したばかりの濃厚チョコステッキに手を伸ばした瞬間横から手が飛んできた。
川端「パクッ。ん~、普通。」
鳩本「おいしいって言ってくれへんかな?」
川端「ごめん。おいしい。」
鳩本「信じがたいね。」
 子どもの声はいつも通り元気だ。あの無邪気さを僕は失ってしまったと思うが同時にその無邪気さを子どもたちから補給している、ということにしている。
 今僕は左肩に重みを感じている。川端がもたれかかっている。距離がとても近い。まだ見られている。僕の足、胴体、手、しまいには首をジロジロ見られている。他の男子は喜ぶのだろうか。と考えている僕もそっち側なのだろうか。
川端「膝枕。」
鳩本「今日はすごいね。何かあった?」
川端「膝、あったかい。」
鳩本「そういう事言わんほうがいいよ。」
川端「私の推しがね、炎上してんの。」
鳩本「そりゃ災難やね。」
川端「他人事。」
鳩本「他人事だよ。受け流すのが一番だよ。アシとオリーブの木っていう話、知ってる?アシとオリーブがどれだけ強風に耐えられるか勝負するんやけど、オリーブの木はあまりの強風にポキっとおれちゃう。でもアシはしなって生き残る。アシが勝つんよ。」
川端「つまり?」
鳩本「しなった方がいいってことやね。」
川端「なるほど。ちなみにアンチにすごく腹が立ってるんやけど、しなった後に反動ではたいていい?」
鳩本「お好きにしていただいていいけどたぶん効果ないよ。ネットのやつら、無駄に信念堅いからね。」
川端「結構なこと言うね。」
鳩本「人って変わらないよ。ほらあの子また喧嘩してる。」
川端「懲りないね。」
鳩本「まぁあの子くらい炎上のこと気にしないことやね。」
 絶対に表には出さないが早くどいてほしい。よほど傷ついているのだろう。それも、自分の応援している人が炎上なんて、他人事には思えないだろう。
川端「十五分。寝ていい?」
鳩本「はぁ。いいよ。」
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