ギャルとロボットアーム

初壱 始

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ブルースプリング

ブルースプリング

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  2077年の日本はどうなっているか。もし気になると言うのならばこの俺、月島つきしま天麻てんまが教えてあげよう。

 答えはずばり、令和元年と何も変わっていない。

 車は相変わらずタイヤを回して道路を走っているし、携帯も相変わらずスマートフォンが主流のままだ。

 まぁ令和元年に比べれば自動車は無人運転が可能になったり、スマホの通信速度は爆速になったりと多少の進歩はあるけれど、かつての偉大な漫画家達が夢想したようなSFチックな世界にはなっていないのである。

 宇宙人との接触や、歴史を揺るがすような大事件も無いままに人々は緩い時間をただ生きているというのが2077年日本の現状だ。

 しかし、しかしである。たった一つだけこの時代にあって昔にはなかったものがある。それは今、教室で項垂れている俺の机の上に置かれたスマホの動画に映っているものだ。

 画面には2年前のある戦いの映像が流れていた。

「第7回ワールドロボットバトル決勝! レディ……ファイ!」

 ゴングと共に四角いリングのコーナーから2体の人型ロボットが飛び出し、殴り合いを始める。

 その様子はドーム会場の巨大モニターに表示され、会場は席を埋め尽くす観客達の歓声で満ちていた。

 リング中央、全長1.6メートルほどの小柄で細身だが素早さと強靭な脚力を誇るクィン・ハーゼが対戦相手であるビッグ・ホーンの巨体から繰り出されるパンチの連打を悉く《ことごとく》躱していく。

 機体のトレードマークであるウサギの耳によく似た頭部デュアルアンテナを上下に揺らしながらクィンは自分のホワイトボディを優雅に宙へ舞わせながら相手を翻弄する。

 一方、百発以上も攻撃を繰り出すもそのどれもが空振りに終わったビッグジョーはとうとうエネルギーが尽きたのか2.5メートル以上ある大きな体の上半身がガクリと下がった。

「おおっと、ビッグ・ホーン遂にここでパワーダウン! 無骨な猛牛ヘッドから白い煙が立ち上っているー!」

 一転攻勢、疾風怒濤。

 敵が弱ったそのチャンスを逃してなるものかとクィンはビッグ・ホーンの周りを時計回りに移動しながら前後左右、あらゆる方向から相手の脚部へ蹴りを放っていく。

 通常ならば軽量級ロボから繰り出される攻撃など重量級のボディに受けても大したダメージにはならない。しかし、クィンの操縦者パイロットは的確に装甲の薄い膝の関節部に狙いを澄ましてローキックの連打を決める。

 やられっぱなしでなるものかとホーンも遮二無二しゃにむに腕を振り回すものの、冷静さを欠いた攻撃が相手を捕らえることは無く、遂にその時は訪れた。

「これはぁーっ!? 執拗なクインの猛攻にホーンの右ひざがとうとうくの字に折れ曲がるー!」

 電線がショートしたかのような炸裂音と共に大きな脚部から火花が上がる。

 それと同時にビッグ・ホーンは自らの体制を支える事が出来なくなり、リングの中央で尻もちを付いてしまった。

「「「ラビッツハイ! ラビッツハイ! ラビッツハイ!」」」

 片方が弱ったのを見て会場に巻き起こるフィニッシュブローのコール。

 それに応えるかのようにクィンは地面に向けて伸ばした両手を徐々に横へ広げながら腰を落としていく。

「さぁ、体制を低く構えたクィン。ここから繰り出されるのは白き女王の必殺技……!」

 操縦者の少年が握るリモコンスティックが親指で弾かれると同時に白い機械の脚は鋭く地面を蹴りつけ、華奢なボディがふわりと宙に浮かび上がった。

「ラビッツハイ!」

 少年の叫び声と共にクィンの頭部に設置された2つのアイカメラがエメラルド色に発光し、ビッグ・ホーンの無防備な頭部に慣性の力が加わった強烈な飛び蹴りがヒットする。

 数秒後、リングマットに後頭部を叩きつけられた巨体の至る所から火花と黒煙が噴出した。

 10カウントを待つまでもなく会場の巨大モニターには試合終了を告げる文字と勝者である2名の文字がデカデカと表示される。

〝WINNER Quin・Hase/Tubasa Kouduki〟

「試合終了ー! 僅か1ラウンド、電光石火の早業で相手を沈め第7回ロボットバトルを制覇したのはクィン・ハーゼ、そして無敗の天才少年パイロット光月《こうづき》ツバサだぁー!」

「「「クィン! クィン! クィン!」」」

「「「ツバサ! ツバサ! ツバサ!」」」

 最高にヒートアップした観客達のコールが鳴り響く中、一人の少年がリングに上がり嬉しそうに手を振る。

 紫のメッシュが入った派手な長髪に数々のスポンサーのステッカーが貼られた紫袖のパーカーがトレードマークの14歳。100戦以上のファイトを勝利してきた有名動画配信者にして天才パイロット、光月ツバサだった。

 令和元年にはない、この時代だけに有るもの。

 2077年。ロボット文化は人間にとって既に身近なものとなっていた。

「やっぱすごいよなー、2年前の大会決勝でのツバサの操縦テク。こうして動画見てるだけでも鳥肌立ってくるよ。月島もそう思わん?」

 ようやく教室内に響く大音量での動画視聴を止めた前席の同級生、石上《いしがみ》裕也《ゆうや》が馴れ馴れしく俺に話しかけてくる。差し出されたスマホの画面には眩しいほどの笑顔を浮かべた少年、光月ツバサの姿が映し出されていた。

「……興味ない。よく飽きもせず2年前の動画で毎日盛り上がれるな」

「お前ってやつは、この種島たねしま学園に転入してからというものずーっとそんなぶすくれた顔してんな」


 2077年、人混み溢れる東京の大都会から買い物には困らんくらいの中都会である永礼ながれ町に越してきて早数か月。

 月島つきしま天麻てんまという不愛想な転入生に話しかけてくれるのはこの短髪爽やかイケメンだけだが俺は正直石上の事があまり好きじゃない。

 ガタイもよく活発な印象のあるこいつと話していると身長も低く色白で中途半端に髪が長い、いかにも陰キャな自分の事を余計惨めに感じてしまう。

 更に、こいつは大のロボ好きであり口を開けば2075年のワールドロボットバトルの話をノンストップで始めるからだ。

 その大会では石上お気に入りの人気動画配信者であり天才ロボ操縦士の光月ツバサが大活躍したという理由もあってその話題を話し始めるとしばらくは止まらなくなる。1度や2度ならば相槌くらい打ってやることもやぶさかではないが、こう毎日同じような話題ばかりだと流石にうざったい。

「俺達と同い年なんだよなぁーツバサ。すごくないか」

「同い年は別に凄い事じゃないだろ」

「天才と同じ年齢って何かわくわくするだろ。今頃どこで何してんだろうな、動画更新されなくなって結構経つけど」

「だから興味ねぇって」

 このままではいつまでもこいつの長話に付き合わされそうだったので、俺はわざとらしく欠伸をすると机の上に突っ伏して寝たふりをした。

 話し相手を失った石上が前に向き直ったのを確認してからゆっくりと目を開く。

    窓の外では掃除用人形ロボットの『マスターSスイープ』が校門の周りで箒をはわいていた。
 
    数週間前まで咲いていた桜の花はすっかり散り、校内に植えられた木の枝には新葉が芽吹いている。

「もうすぐ……春が終わるな」
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