ギャルとロボットアーム

初壱 始

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ブルースプリング

ブルースプリング 2ページ目

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 憂鬱だ。何もかも。

 教室の窓に反射して映る自分の顔を見つめてみると、無気力で目の下に少しクマを作った色白で黒髪の体が小さな学ラン姿の男子がこちらを睨んでいた。我ながら酷い顔だ。

 今まで住んでいた街を離れれば、新しい生活や新しい希望に出会えると思っていた。新しい夢と、生きる活力に繋がるものを見つけられると考えていたのに。

 浮かない顔でそんな事を考えていると不意に廊下の方から男性型の合成音声が聞こえてきた。視線をそちらにやると教室の入口に錆びた鉄のボディフレームがむき出しになった人型ロボットが国語の教科書を小脇に抱えた状態で直立していた。

「裕也様、オ忘れ物をお届けに参りましタ」

「おー、ワーカー。わざわざありがとう」

 学校までロボットが忘れ物を届けに来るのが当たり前の光景となった世界。

 2055年に人工AIと強化メタルフレーム技術が確立されてから今や政治、介護、仕事、軍事、スポーツ、観光、娯楽にメディアと生活のどの場面にも人型機械の姿は存在している。

 人々が自らが作り上げた創造物の恩恵にあやかり、熱狂する時代。

 そんな鉄臭い世界で、ロボット嫌いな俺はこれからどうやって生きていけばいいのだろうか。

「また何か探さなくちゃな……夢中になれること」

 冴えない台詞が口から零れてしまう。その小さな声を掻き消すように廊下の奥から大きな声が響いた。

「よぉ~っ、石上ぃ! 相変わらずシケたロボットにパシリさせてるなぁ」

 人を小馬鹿にするような甲高いその音は俺の死んだような瞳を更に細めさせる。

 声の主は俺と2年A組のクラスメイト、成宮なりみや修吾しゅうご。両親が医者の金持ちとかで毎日のようにブランド物のハンカチやら財布やらを自慢しているいけ好かない性格の男だ。

 だが今回、奴が石上に見せつけていたのはいつもの小物ではない。

 美しい銀のボディアーマーに西洋のヘルムを思わせるような威厳のある頭部パーツ。大手ロボメーカーであるイコライズ社が販売しているバトル用ロボ『シルバーナイツ』が重々しい雰囲気を漂わせながら成宮の傍に立っていた。

 傷一つ入っていないいかにも新品のピカピカボディを前にマニアである石上は目を輝かせる。

「す、すごい。ナイツじゃないか! どうしたんだこれ!?」

「ふふん、先週の日曜にドームで開かれたバトルを見て興味を持ってな。パパに頼んで買ってもらったのさ」

 自慢にならないようなセリフを自慢げに言えるこいつはある意味凄いと思った。

 よく見るとシルバーナイツの小脇には成宮のカバンが抱えられており、バトル用と生活用の区別もつけていない扱いに俺の眉根は更に中央へと寄ってくる。

「ソレデハ裕也様、私は家に帰りまス」

「ああ助かったよワーカー。気をつけてな」

 新品のロボに目を輝かせている主人を後目に忘れ物を届けると言う目的を果たしたワーカーがその場を離れようとした時だ。

 成宮はその進路を妨げるように立ちふさがる。

 机に突っ伏したままの俺にはこの馬鹿の次の台詞が大体予想できた。

「ちょっと待てよ石上、せっかくロボットが2体あるんだ。HRまで時間もあるし僕とバトルしろよ」

「……馬鹿かあいつ」

 まさか本当に予想通りの言葉を吐くとは。ほとほと奴には呆れたものだ。

 成宮とは同じクラスでも殆ど話したことのない間柄だが、こういう頭の悪い発言や親の脛をかじって優越感にひたっているこいつの性格が生理的に合わないため俺は一方的にこのお坊ちゃんのことを嫌っている。

「おいおい成宮。バトル用のナイツと生活支援用のワーカーとじゃ勝負にならないことぐらいわかるだろ? そんな一方的なバトルなんてやらないよ」

 突然の勝負申し込みに少し面食らっていた石上だが、すぐに冷静さを取り戻して適当にあしらう事にしたらしい。

 こいつのこういう落ち着いた所は好感が持てる。これで毎日ツバサとクィンの話をしなけりゃ友達にもなれたんだが。

 しかし、理屈が通じないのが馬鹿というものである。バトルを拒否された成宮はそれでも諦めなかった。

「なんだと石上。この僕がせっかく誘ってやってーー」

「知ってるだろ。この種島学園じゃ校内での無断バトルは禁止、この校則を破った奴は停学か最悪退学だ」

「た……退学……」

「そんな事になったらお前の親は大層怒るだろうな。だからやめとけ」

 そうなだめすかし、バトルを無事に回避した石上は自分の席に戻って国語の教科書を机の中に仕舞うのだった。

 頭の悪い成宮も自分の両親は怖かったのだろう。不満げな表情を浮かべながらも自分の席に着きナイツには教室の隅で待機するように命令する。

 ここ種島学園では自分のロボを教室内に置いても良いという決まりがある。これは主に補助や介助が必要な生徒の為の取り決めだったのだが、お坊ちゃんは身体に何の障害も抱えていないくせに臆面もなくこの制度を利用するつもりらしい。

 主人を助ける為に待機する介助ロボとは違い、何の使命もなくただ教室の隅に佇んでいる騎士の姿はただただ哀愁を感じさせる。

 機械にはプライドも恥じらいも無い。故にロボットに対して同情なんてするだけ無駄だ。そんなことは解っているのだが、今のナイツはあまりにも……。

「うわ……ナイツ超可哀そう」

 その時、まるで俺の心の声を代弁するかのように左隣の席に座っていた女子が小さく独り言を零した。

 目の覚めるような金髪にどぎついアイシャドウ、少し足を開けば下着が見えそうなミニスカートに時代錯誤のルーズソックス、いかにもギャルといった姿の星川《ほしかわ》泉美《いずみ》だ。

 元々派手な外見をしているせいで教室内でも少し浮いた存在のクラスメイトだが、彼女の姿で一番目を引くのは整った顔立ちでも豊満な胸でもなくその右腕である。

 星川泉美の右ひじから先はチタン製フレームで出来た義手だった。




 
 
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