ギャルとロボットアーム

初壱 始

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ブルースプリング

ブルースプリング 4ページ目

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 恐らく彼女も本当はクラスの女子達と一緒にロボットを踊らせたいのではないだろうか。

 そう考えると仮病で授業を休んでいる自分の胸がほんの少し罪悪感で締め付けられた。
 
 やがて1限目開始のチャイムがグラウンドに響く。

 男子と女子はそれぞれ講師の近くに集合してアスリート用ロボの効率的な操作について講義を受ける。およそ2、3分だろうか本日の授業の主旨を聞き終えた女子達はそれぞれが操縦する鉄のダンサー達にエンジンを組ませる。

 しばらくして講師がスピーカーに繋いだスマホから陽気な音楽を流し始め、両手にカラフルなポンポンを持ったロボット達が一斉に躍動し踊り始めた。

「へぇ……すごいな」

 一糸乱れずジャンプ、ターンを繰り出す女子達の操縦テクニックに俺は素直に感心してしまう。

 自分の肉体ではない物を音楽に合わせて指先で自由に動かすこと、更にそのアクションの1つ1つを周りに合わせるという難しいテクニックを遠くにいる彼女達は楽しそうにこなしていく。

 恐らく俺が種島学園に転入する前から練習を頑張っていたのだろう。女子達の笑顔はどこか達成感のようなものさえ感じさせるほど眩しいものだった。

 何かに夢中になれる。そんな人間が羨ましくて、どこか妬ましい。星川の横顔にはまるでそう語っているかのように哀愁と儚さが漂っている。

「なぁ、もしよかったらでいいんだけど星川の右手について聞いてもいい?」

 我ながらなんでそんな事を口にしたのか解らないが、きっとただ何でもいいから話してみたかったんだと思う。

 今の自分と同じように、夢中になれるものなんて何もない虚しい青春を送っているのかもしれない彼女と。

「……なんか意外」

「意外? 何がだ」

「月島ってさ、どこか冷めてるっていうか他人に興味とか無い人間だって思ってた。もしかして本当にアタシにほれちゃった?」

 視線は手に持っているスマホの画面から外さず、星川が抑揚の無い声で呟く。

「俺だって心を持った人間だよ、ロボットとは違う。クラスメイトに興味を持つことくらいあるさ」

 そう答えながらそっと自分の胸に手を置いてみた。血の流れと共に心臓が動いているのが解る。

 だけど、ただ一定のリズムを刻むだけ。ただ生きているだけという気がしてきたので俺はすぐに自分の鼓動を聞くのを止めた。

「アタシの腕の話なんか聞いても楽しくないと思う」

「……星川が話したくないならいいよ。いきなり無神経なこと聞いちまったな」

「別に話したくないとかじゃないけど、ただ交通事故でってだけだからさ」

 振る話題を間違えたなとこちらが引こうとした時、星川はどこか諦めの付いたような渇いた笑みを浮かべながら自分の右腕について話し始める。

「5年前に信号無視して横断歩道渡ろうとしたら車に撥ねられて、病院で目が覚めた時には右ひじから先が機械になってた。この時代じゃよくある話だよ」

 やっぱり興味本位でいきなり彼女の右手について尋ねたのは間違いだったようだ。

 特に親しくもない俺は慰めることも茶化して場の雰囲気を明るくすることも出来ず言葉に詰まる。

「……ちょっと、無言にならないでよ。話し損じゃない」

「ごめん、その、聞いといてあれだけど、何て言っていいのか解んなくて」

「ぷっ! あははははっ! 何よそれ、それにその困った顔……くくくっ、あーおっかしい」

 いつの間にか眉が八の字になっていたらしいこっちの顔を指さしながら星川は腹を抱えて吹き出した。

 自分のコミュニケーション能力の低さを再度自覚したことと、同い年の女の子に馬鹿にされる恥ずかしが重なり自然と頬と耳が熱くなっていく。

「そんなに笑う事ないだろ」

「ごめんごめん。ちゃんと解ってるって、授業に参加出来ないアタシの事を月島なりに気遣ってくれたんでしょ?」

「別にそんなんじゃない」

 照れ隠しでもなんでもなく本当にただ俺は興味本位で尋ねただけだったのだが、どうやら星川は少し誤解しているようだった。

「でも心配してくれなくても大丈夫。この手じゃ皆みたいにロボットは操縦できないけど、アタシの夢にはけっこう役立ってくれてんだよね」

 夢。

 その単語を口にした星川の表情は先程スマホの画面を見ていた時とはまるで別人のように明るく、活力に満ち溢れ、そして美しかった。

 不覚にも今までいけ好かない奴だと思っていた彼女の笑顔に俺はちょっぴり見とれてしまうと同時に疎外感を覚える。

 何となく自分と同じだと思っていた。

 彼女も過去に何かあって、それで夢も希望もない平坦な人生を送っているのだと、そうであって欲しいと心のどこかで願っていたのかもしれない。

 だけど間違っていた。彼女は俺のように暗い青春など送っていない。自分の胸に、熱く輝く何かを持っているのだ。

 俺も、また何か夢を持てればこんな顔が出来るのかもしれない。過去を振り切って前に進みだすことが出来るかもしれない。

 星川の言う夢とは一体何なのか、気が付けばそのまま口に出そうとしていた。

「なぁ星川の夢ってーー」

「生徒様、申シ訳ゴザイマセン。前ヲ失礼致シマス」

 その時、俺の言葉を遮るように清掃用ロボットである『マスターS《スイープ》』がぺこぺことお辞儀をしながらベンチの前に落ちていた葉っぱや紙くずを手に持っている竹箒ではわき、素早く塵取りに纏めていく。

 恐ろしく早い手際でベンチ周辺の掃除を終えたマスターはもう一度こちらに頭を下げると、今度はグラウンド端まで移動して側溝付近の清掃を始めた。

 まったくロボットながらよく働く奴だ。

「月島? さっき何か言いかけなかった?」

「言いかけたけど……何て言おうとしたのか忘れた」

「ふふっ、何それ」

 先程言いかけた言葉。星川の夢とは何か。

 何故だか解らないけれど、それをもう一度改めて口に出すことが出来なかった。言ってしまえば自分に無いものを嫌でも直視しなければならないのではないかと急に怖くなったからだ。

「ねぇ、月島」

「なに」

「月島には何かないの? 将来の夢とか、高校生の内にやり遂げたいこととかさ」

 無垢で煌めいている可愛らしい黒い瞳がじっとこちらを見つめてくる。その視線から逃げるように俺は空を見上げて答える。

「……あったよ、昔は。夢も希望も。でも今は特に何もないかな」

 返答として口から吐き出されたのは雲一つない青い春の空におよそ似合わない曇った言葉だった。

「何それ? なんか失敗したってカンジなの?」

 こいつも大概無神経に人の事聞いてくるな。

 俺も人の事言えないけど。

「まぁそんな感じな訳ですよ」

「ふーん、そうなんだ。まぁ頑張れば次の夢なんてすぐ見つかるわよ」

「何だよ急に優しいじゃないか」

「そうじゃなくて、アタシを口説きたいならまずその死んだ魚みたいな目をやめなっつってんの」

「だから口説かねーっつーの」

 視線を上にやったのは良くなかった。

 こうして快晴を眺めていると、昔の事がどんどん蘇ってきてしまう。

 星川の目から逃げ、今度は自分の記憶からも逃げることに決めた俺は男子が機械ハードル走を行っている方に顔を向けた。

「ん? あれは……」



 

 

 


 

 

 
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