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ブルースプリング
ブルースプリング 6ページ目
しおりを挟むマスターSの中に入っていたコントローラーのボタン配置を確かめる。やはりと言うべきかあまり細かな動きは出来そうにない。そもそも災害時や落雷時にロボットが自立して動けなくなった時に手動で動かすことを目的として作られたものであるのだから当然といえば当然である。
「おいおい、月島。まさかお前」
「そのまさかだよ。そんなにバトルがしたいってんなら俺が相手になってやる」
「……はっ、ははは、あーっはっはっは!」
心底嬉しそうな成宮の高笑いを無視して俺は手動操作モードを起動させる赤いボタンを軽く押す。
何かを訴えたそうに少しこちらを振り返っていたマスターの四角い顔のモニターから一度明かりが消えてがくりと項垂れる。直後、まるで何かに憑りつかれたかのように頭部モニターは緑の光を放ち眼前の敵を見据える。
「安心しろ。こんな奴に負けやしねーさ……行くぜマスターS」
「マニュアルモードがオンになりまシタ。以降の操作は全てパイロットに委ねマス」
「やっとだ、やっとバトルが出来る。思う存分ナイツを暴れさせてやれる」
シルバーナイツの後ろ腰から専用のコントローラーを抜き取り、成宮は赤いボタンを押す。当たり前だが向こうはケーブルの長さを気にせず動かせる無線タイプだ。
「バトルモードがオンになりまシタ。ストリートバトルのため周囲ノ安全ニ気ヲ付けて操作して下サイ」
西洋風のヘルムの隙間から赤い眼光がぎらりとこちらを睨みつけた。流石はバトル用に作られたロボットだ、威圧感がマスターとはまるで違う。
自らが持つ銀騎士の誇らしさと対戦相手である清掃係のみすぼらしさを互いに見比べた成宮が増々口の端を吊り上げた。
「バトルに不向きな生活用ロボットな上に満足に動かせない有線式コントローラー……そんなポンコツでよくこの僕に大口叩けたな月島ぁ」
「そのポンコツに負けたらお前はただの能無しだな」
「減らず口を……! 後悔するのはお前の方だってことを今教えてやる!」
赤外線通信でから送られてきたバトルの申し込みに対して再び赤いボタンを押して了承すると、対峙している2体のロボットはそれぞれ少し腰を落として戦闘態勢に入る。
両者の機体から合成音声のカウントダウンが流れ始めた。
「「5……4……3……」」
始まろうとしている。俺の、2年ぶりのバトルが。
「「2……1……」」
「「バトルだ!」」
俺と成宮の掛け声と共に体育館裏で鋼鉄の闘いは始まった。
先に仕掛けてきたのはシルバーナイツの方だ。重苦しい雰囲気のボディに似合わず素早い踏み込みであっと言う間に間合いを詰めてパンチを繰り出してくる。
「先手必勝だ! くたばれポンコツ!」
「うおっ!?」
こちらも咄嗟に操作レバーを親指で後ろに倒して回避しようとするも間に合わず、ナイツの拳が少しマスターの脇腹を掠める。
旧型の薄いボディにはそれだけでも凹みが生じてしまう。幸いへこんだのは空洞部分だったため一撃で勝負が決まる事はなかった。
成宮の初心者丸だしな粗い操作にも救われたが、まさかあんな大振りのパンチ一つ満足に避け切れないとは。
「そうか、流石に生活用ロボじゃ攻撃は避けられねーよな。アイツだったら今のパンチくらい余裕で躱せるんだが」
回避主体の戦い方は出来ない。しかしパワー差と頑丈さも相手が上と来ている。おまけにこちらは有線操作、前後左右と無闇に動けばあっと言う間にケーブルがマスターの足に絡まってしまう。
なかなかに絶望的な状況だ。
「どうしたどうした? 開始7秒でもう手詰まりか!?」
ムカつく成宮の声を無視して俺は考える。
回避も防御も出来ない。縦横無尽に駆けまわることも出来ない。
と、くれば打つ手は一つしかない。
これからマスターSは回避も防御もしない。ただ前に歩かせる。
「な、なんだ貴様……何の真似だそれは!?」
ガードを下げた状態でゆっくりとナイツに向かって行くマスターS。まるで倒してくださいと言わんばかりの無防備さに成宮は逆に奇妙な恐れを感じた。
一歩、また一歩俺の操る清掃ロボは相手に近づいていく。もはや完全に両者の拳が届く範囲まで近づいているがこちらからは一切攻撃しない。
「どうした成宮、まさかこんなに隙だらけなポンコツが怖いのか?」
「こいつ……ほざくな!」
やがて、痺れを切らせたシルバーナイツが再びパンチを繰り出そうと右拳を脇の下まで引き締めた。俺はこの瞬間を待っていた。
ナイツが拳を突き出すより先にマスターSを前方にダッシュさせ、パンチが出ないように左手で相手の右腕を押さえつける。
どんなに強い機体でも腕を掴まれた状態では鋭い攻撃を打てはしない。
スピードも装甲も敵よりも遥かに劣っているが、積載したゴミの運搬も視野に入れて開発されたこの清掃ロボはパワーだけならバトル用ロボとも少しだけ渡り合えるのだ。ほんの少しだけだが。
「何だ!? 放せポンコツ!」
こうも両者の体が密着していては打撃攻撃が繰り出せない。焦った成宮は一度距離を空けようとシルバーナイツを一歩後退させようとした。
しかしそれこそが俺の真の狙いだ。相手の左足下がった瞬間に俺はマスターSの右足を大きく前に出して足を引っかけさせる。
成宮の操縦するシルバーナイツは見事にそれに引っかかって体制を大きく後ろに崩した。
「バカ、倒れるなナイツ!」
慌てて体制を立て直そうとする成宮だったが右腕を押さえつけられているためか全くバランスが取れない。やがて誇り高き銀騎士はその大きな背中を重厚感のある音と共に地面にぶつけるのだった。
「1ダウン。なぁ、公式戦だと3ダウンで試合終了って知ってるか?」
「……そんな馬鹿な、こっちは最新の機体を使ってるんだぞ!? そんなお掃除ロボなんかに倒されるなんて」
「いくら切れ味の鋭い刀でも使い手がヘボならナマクラ同然だ。成宮、お前がその機体を扱うには3年早いぜ」
「黙れ! 根暗で陰気な転入生が僕に偉そうに説教するんじゃない!」
がちゃがちゃとせわしなくレバーを動かしてシルバーナイツを再び立たせた成宮は一度機体を下がらせて十分な距離を保つ。
こちらの挑発に対して怒り心頭といった風に顔が耳まで真っ赤に染まっている。
「俺の扱うナイツがナマクラかどうか……試してみろ」
完全にキレたバカはコントローラーの黄色いボタンを3度押し、必殺技コマンドを入力する。
それと同時にシルバーナイツの右腕のガントレットから鋭利な刃が勢いよく飛び出し、甲高い振動音を響かせた。
「怯えろ……これがナイツ究極の技、銀騎士の剣だ!」
その時、急に吹いた強い風と共に舞ってきた緑の葉が高速で振動する刃の部分にふわりと触れる。右腕をピクリとも動かしていないにも関わらず木の葉はその場で真っ二つに割れて地面に落ちていく。
ブレードから伝わる威圧感。あの刃ならマスターSのボディだって豆腐のように両断してしまうだろう。
「どうだビビったか!? ビビったろう!? だが今更謝ったって貴様は絶対にゆるさーー!?」
しかし、それが何だと言うのだ。こちらがやる事は変わらない。
ただマスターSを真っすぐ前に歩かせる。それだけだ。
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