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第1章 空を翔ける
空を翔けるⅡ
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アルフレッドがゼインに対して取っていた行動も頷ける。納得していると、ゼインはちょこんと首を傾げた。
「王女殿下は空を翔けたことはありますか?」
「いえ、これが初めてです」
王族は島から出る必要がない。必要があれば要人を島に集めて済ませてしまう。何より、船が墜落でもすれば命はないのだ。王族が自らそんな危険を犯すはずもない。
「空の上はとても心地良いですね」
涼しい風が吹き、鳥が船の横に並んで飛ぶ。この光景を見られただけでも逃亡した価値があったというものだ。
「王女殿下は相手の王子殿下の顔を知ってるんですか?」
「……知りません。情なんて、これっぽっちもありません」
成婚相手の王子は、自らの身の安全を理由に面会にすら現れなかった。相手国へ渡れば、移動手段のない私は祖国の地すら踏めないのだ。
それなのに、父王は婚姻を取り消そうともしなかった。私への関心のなさのあまり、怒りは昨夜、爆発してしまったのだ。
これで父王が考え直してくれるなら、逃亡し続ける必要はない。アルフレッドとゼインにも多大な迷惑はかけなくて済むだろう。
「私は、自国の貴族と結婚したいのです。自由が奪われるなんて、真っ平御免です」
「それなら、逃げて正解だと思いますよ。王女殿下にだって、拒否権はありますから」
言い切ると、ゼインは爽やかに笑う。図らずとも感動を覚えてしまった。
「ありがとうございます」
私も笑みが零れ、思わずゼインの手を取っていた。ゼインは背筋を伸ばし、「あはは」と笑う。
そこへ足音が近付いてきた。
「何をしていらっしゃるのですか?」
アルフレッドだ。その姿を見つけるとゼインは素早く手を離し、手を胸の前で振って慌てふためく。
「いえ、僕はただ、王女殿下と話を……」
「やましいことがあったとしか思えない反応だが」
アルフレッドは鋭い目をゼインに向ける。
ゼインは嘘は吐いていない。私が手を取ってしまったがために、照れているだけなのだから。疑惑の目がゼインに向かないように、口を開いてみる。
「アルフレッドも王子への不満を聞いてくださいますか?」
「興味はありますが……遠慮しておきます」
恐らく、王子への不満なんて予想はつくのだろう。笑顔でひらりと躱されてしまった。
「さて、明日の早朝にはグライゼル島へ到着予定です。メヌエッタ殿下の部屋は……ゼイン、どうする?」
アルフレッドは困ったようにゼインへ目配せをする。ゼインは目を泳がせてしまった。
「僕の部屋は狭すぎます。寝るならアルフレッド様の部屋しか……」
「だよな……」
二人とも肩を落とし、唸り声を上げる。
「私は眠れるならどこでも良いですよ?」
「そういう訳にはいきません」
アルフレッドはムスッとした表情で言い切ると、何かを決意したようにゼインに目をやった。
「ゼイン、床で寝ろ。俺はお前のベッドで寝る」
「そんなぁ……」
アルフレッドの提案に、一気にゼインは涙目になってしまった。多大な迷惑はかけないと思ったけれど、この船に乗ったことで、既に甚大な迷惑をかけているのかもしれない。急に申し訳ない気持ちが出てしまった。
「ゼイン、元気を出してください」
つとめて明るく言ってみる。すると、アルフレッドにやれやれと言わんばかりの表情で見られてしまった。
「お転婆なのは良いことですが、メヌエッタ殿下。鏡は持っていらっしゃいますか?」
「鏡、ですか?」
「ええ。お持ちでないなら俺の部屋にありますから、見た方が良い。今日は風が強いですから」
私の顔に何かついているだろうか。真意が分からず、両手で顔を拭ってみる。
「顔じゃないですよ。アルフレッド様の部屋はこっちです」
ゼインにも笑われてしまった。何なのだろうと膨れていると、ゼインは船内へのドアを開く。
階段を降りると、ドアが三つと操縦席を見ることが出来た。誰も座っていないのに、勝手に操縦桿が動いている。まさか、船が墜ちるのでは――。
「ゼイン! ゼイン……!」
操縦桿を指差して慌てていると、ゼインが足を止めた。
「何で操縦桿が動いているのです!?」
私の指を辿って操縦桿に目を向けても、ゼインは身じろぎ一つしない。
「機械が勝手に運転してくれているので大丈夫ですよ」
機械なのに、そんなことが出来るなんて。技術は進歩しているのだな、としみじみ感じた。
「王女殿下、こっちがアルフレッド様のお部屋ですよ」
一つのドアの前でゼインはキーカードを差し込む。小気味良い音が鳴ると、ドアの鍵が開いたようだ。
ゼインに誘われるまま、アルフレッドの部屋へと入る。窓からも外の眺めを一望出来て、飽きることはないだろう。
それよりも、鏡だ。狭い部屋の片隅に、姿見を見つけた。急いでそちらへ駆け寄り、自分の姿を映す。目の前のラベンダー色の瞳が見開かれる。
「きゃーっ! 何これーっ!」
悲鳴は船外にも漏れていただろう。
私の髪がわたあめのように爆発していたのだ。慌てて手櫛を通そうとしても、なかなか指が入っていかない。
「どうすれば良いのー!?」
泣きそうになりながら、髪を触ることしか出来ない。
何とか髪を整えた頃には、一時間ほどが経過していたように思う。デッキに出る時には髪は結ぼう。そう心に決めた。途中で誰かの視線を感じた気もするけれど、深くは考えないでおこう。
「王女殿下は空を翔けたことはありますか?」
「いえ、これが初めてです」
王族は島から出る必要がない。必要があれば要人を島に集めて済ませてしまう。何より、船が墜落でもすれば命はないのだ。王族が自らそんな危険を犯すはずもない。
「空の上はとても心地良いですね」
涼しい風が吹き、鳥が船の横に並んで飛ぶ。この光景を見られただけでも逃亡した価値があったというものだ。
「王女殿下は相手の王子殿下の顔を知ってるんですか?」
「……知りません。情なんて、これっぽっちもありません」
成婚相手の王子は、自らの身の安全を理由に面会にすら現れなかった。相手国へ渡れば、移動手段のない私は祖国の地すら踏めないのだ。
それなのに、父王は婚姻を取り消そうともしなかった。私への関心のなさのあまり、怒りは昨夜、爆発してしまったのだ。
これで父王が考え直してくれるなら、逃亡し続ける必要はない。アルフレッドとゼインにも多大な迷惑はかけなくて済むだろう。
「私は、自国の貴族と結婚したいのです。自由が奪われるなんて、真っ平御免です」
「それなら、逃げて正解だと思いますよ。王女殿下にだって、拒否権はありますから」
言い切ると、ゼインは爽やかに笑う。図らずとも感動を覚えてしまった。
「ありがとうございます」
私も笑みが零れ、思わずゼインの手を取っていた。ゼインは背筋を伸ばし、「あはは」と笑う。
そこへ足音が近付いてきた。
「何をしていらっしゃるのですか?」
アルフレッドだ。その姿を見つけるとゼインは素早く手を離し、手を胸の前で振って慌てふためく。
「いえ、僕はただ、王女殿下と話を……」
「やましいことがあったとしか思えない反応だが」
アルフレッドは鋭い目をゼインに向ける。
ゼインは嘘は吐いていない。私が手を取ってしまったがために、照れているだけなのだから。疑惑の目がゼインに向かないように、口を開いてみる。
「アルフレッドも王子への不満を聞いてくださいますか?」
「興味はありますが……遠慮しておきます」
恐らく、王子への不満なんて予想はつくのだろう。笑顔でひらりと躱されてしまった。
「さて、明日の早朝にはグライゼル島へ到着予定です。メヌエッタ殿下の部屋は……ゼイン、どうする?」
アルフレッドは困ったようにゼインへ目配せをする。ゼインは目を泳がせてしまった。
「僕の部屋は狭すぎます。寝るならアルフレッド様の部屋しか……」
「だよな……」
二人とも肩を落とし、唸り声を上げる。
「私は眠れるならどこでも良いですよ?」
「そういう訳にはいきません」
アルフレッドはムスッとした表情で言い切ると、何かを決意したようにゼインに目をやった。
「ゼイン、床で寝ろ。俺はお前のベッドで寝る」
「そんなぁ……」
アルフレッドの提案に、一気にゼインは涙目になってしまった。多大な迷惑はかけないと思ったけれど、この船に乗ったことで、既に甚大な迷惑をかけているのかもしれない。急に申し訳ない気持ちが出てしまった。
「ゼイン、元気を出してください」
つとめて明るく言ってみる。すると、アルフレッドにやれやれと言わんばかりの表情で見られてしまった。
「お転婆なのは良いことですが、メヌエッタ殿下。鏡は持っていらっしゃいますか?」
「鏡、ですか?」
「ええ。お持ちでないなら俺の部屋にありますから、見た方が良い。今日は風が強いですから」
私の顔に何かついているだろうか。真意が分からず、両手で顔を拭ってみる。
「顔じゃないですよ。アルフレッド様の部屋はこっちです」
ゼインにも笑われてしまった。何なのだろうと膨れていると、ゼインは船内へのドアを開く。
階段を降りると、ドアが三つと操縦席を見ることが出来た。誰も座っていないのに、勝手に操縦桿が動いている。まさか、船が墜ちるのでは――。
「ゼイン! ゼイン……!」
操縦桿を指差して慌てていると、ゼインが足を止めた。
「何で操縦桿が動いているのです!?」
私の指を辿って操縦桿に目を向けても、ゼインは身じろぎ一つしない。
「機械が勝手に運転してくれているので大丈夫ですよ」
機械なのに、そんなことが出来るなんて。技術は進歩しているのだな、としみじみ感じた。
「王女殿下、こっちがアルフレッド様のお部屋ですよ」
一つのドアの前でゼインはキーカードを差し込む。小気味良い音が鳴ると、ドアの鍵が開いたようだ。
ゼインに誘われるまま、アルフレッドの部屋へと入る。窓からも外の眺めを一望出来て、飽きることはないだろう。
それよりも、鏡だ。狭い部屋の片隅に、姿見を見つけた。急いでそちらへ駆け寄り、自分の姿を映す。目の前のラベンダー色の瞳が見開かれる。
「きゃーっ! 何これーっ!」
悲鳴は船外にも漏れていただろう。
私の髪がわたあめのように爆発していたのだ。慌てて手櫛を通そうとしても、なかなか指が入っていかない。
「どうすれば良いのー!?」
泣きそうになりながら、髪を触ることしか出来ない。
何とか髪を整えた頃には、一時間ほどが経過していたように思う。デッキに出る時には髪は結ぼう。そう心に決めた。途中で誰かの視線を感じた気もするけれど、深くは考えないでおこう。
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