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第12章 耳にする
耳にするⅡ
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アルフレッドは呆れながら口を開く。
「載ってないだけ良いだろ。悪い意味で、昔よりも有名人になるぞ?」
「そ、それは嫌ですねぇ」
ゼインは頭を掻き、苦笑いをした。
「出来るなら、僕が何をしてるのか、公爵家だけには知られたくないですから」
わざとらしく「あはは」と漏らし、下を向く。
「こうなったら、コンタクトレンズなんていらないよね? どっちにしても、外には出られないし」
「そうだな。俺も髪色は諦めた」
姿を偽る必要がなくなり、清々とした気分になったのだ。コンタクトレンズは目に違和感が残るし、不快でしかなかった。
部屋に戻ったらコンタクトレンズは捨ててしまおう。心に決めて、口角を上げた。
「ん……? 号外の裏に何か書いてあるぞ?」
アルフレッドは号外を広げたまま、目を見張る。私もそれを覗き込んでみると、デカデカと『ハルネイオ王国に女王論』と書いてある。
ドキドキしながら、記事を読んでみる。
――先日、ハルネイオ王国の王女が事故死したのはご存知だろう。今、ハルネイオ王国は揺れている。王女が亡くなったのは、政略結婚を無理強いされたからだとの見方が広がっているからだ。ハルネイオ国民は、女王を認めなかった今までの考えを否とし、女王賛成を掲げている。ハルネイオ国王が、上層院がどう動くのかが、これからの見所だ。
――何が女王だ。私の存在を否定しておいて、何を今更言っているのだろう。ドキドキが消えた代わりに、脳が熱を帯びて僅かな鈍痛が響く。
「勝手なこと言ってくれちゃって」
国の身勝手な言い分に、溜め息が漏れそうになる。
「私は、絶対に女王になんてならないんだから」
踵を返し、部屋の外へと出てしまった。ドアを締め、細い息を吐く。
幼い時には女王に憧れたことだってあった。どうして父王のようにはなれないのか、侍女にぶつけたこともあった。でも、何故、それが今なのだろう。私が諦めた途端に手のひらを返す。そのやり方に嫌悪感を覚え、目の前が揺らいだ。
王女ではなく、普通の少女でいたいのに考えてしまった。その場にしゃがみ込み、涙目で頬を膨らませる。すると、背中に軽い衝撃を受けたのだ。
「あ痛っ!」
振り返ってみると、ドアを開けたアルフレッドが慌てた表情で私の腕を掴んだ。その後ろでゼインもあたふたしている。
「ティア、大丈夫か?」
「背中がぁ……」
地味にじんじんと痛む。背中を手で擦ってみたものの、痛みは引きそうにない。
「すまない、ちょっとティアが心配になってな」
しゃがみ込んだアルフレッドの顔が近い。いきなり現実に戻されたようで息が詰まる。
「今更、女王論なんて馬鹿げています。どうして王女が存命とされてる時から議題にならなかったんでしょうね」
私の意見をゼインが代弁してくれて、胸が熱くなる。その通りなのだ。何度も頷き、口をへの字に曲げた。
「私は国に勝手に殺されて、勝手に持ち上げられて……どう振る舞えば良いの?」
「ティアの言い分は分かる。でも、これが世論ってものなんだろう」
世論なんてどうでも良い。そう言ってしまえたら、どれほど楽だっただろう。思い切り目を瞑り、唇を尖らせる。
「デッキで気分転換でもしよう。ここじゃ狭くて憂鬱になるだろ?」
アルフレッドが一緒に来てくれるなら、行ってあげても良い。唇は尖らせたままで、小さく頷いた。
アルフレッドに手を引かれて階段を上り、風の強いデッキへと出る。空は昨日までの悪天候はどこに行ってしまったのだろう。羊が寝そべっているかのような雲が所々にぷかぷかと浮かんでいる。その雲を見て、連想したのだろうか。
「あの白猫は元気にしてるだろうか」
アルフレッドが呟いた。
「散歩してた時に見つけた猫ですか?」
「ああ」
「心配には及びませんって。あの伯爵のデレ具合を見たでしょう?」
「まあな」
ゼインの言う通り、あの伯爵が猫を大事にしないとは思えない。心を落ち着かせ、手摺りに背中を預けた。
「それよりレイン。あれからアネモネとは連絡を取ってるのか?」
不意なアルフレッドの問いに、ゼインは吹き出してしまった。一瞬にして頬は薔薇色に染まる。
「取ってませんし、取りません」
「彼女を放っとくのか?」
「僕は放任主義ですから。……って、違います! 僕がアネモネに相応しい男になったら、迎えに行きます」
「じゃあ、四人旅になるのかなぁ」
アネモネとは仲良くなれるだろうか。思いを巡らせていると、アルフレッドは私の隣で腕を組む。
「ティアは逃亡が終わっても旅がしたいのか?」
「私は……」
まだ、未来のことを考えられる余裕はない。それでも、王宮に閉じこもってばかりいた世界からは考えられない自由に触れてしまった。
「私は、もっと自由を楽しみたい。旅をするにしても、どこかに定住するとしても」
「そうか」
アルフレッドは何度か小さく頷き、にこっと微笑んだ。
「少しだけ、未来が見えた気がする」
アルフレッドが見た未来とはどんなものなのだろう。世界を共有してもらいたくて首を傾げてみる。しかし、答えは返ってこない。私とアルフレッドの間を、風が吹き抜けていくだけだ。
「載ってないだけ良いだろ。悪い意味で、昔よりも有名人になるぞ?」
「そ、それは嫌ですねぇ」
ゼインは頭を掻き、苦笑いをした。
「出来るなら、僕が何をしてるのか、公爵家だけには知られたくないですから」
わざとらしく「あはは」と漏らし、下を向く。
「こうなったら、コンタクトレンズなんていらないよね? どっちにしても、外には出られないし」
「そうだな。俺も髪色は諦めた」
姿を偽る必要がなくなり、清々とした気分になったのだ。コンタクトレンズは目に違和感が残るし、不快でしかなかった。
部屋に戻ったらコンタクトレンズは捨ててしまおう。心に決めて、口角を上げた。
「ん……? 号外の裏に何か書いてあるぞ?」
アルフレッドは号外を広げたまま、目を見張る。私もそれを覗き込んでみると、デカデカと『ハルネイオ王国に女王論』と書いてある。
ドキドキしながら、記事を読んでみる。
――先日、ハルネイオ王国の王女が事故死したのはご存知だろう。今、ハルネイオ王国は揺れている。王女が亡くなったのは、政略結婚を無理強いされたからだとの見方が広がっているからだ。ハルネイオ国民は、女王を認めなかった今までの考えを否とし、女王賛成を掲げている。ハルネイオ国王が、上層院がどう動くのかが、これからの見所だ。
――何が女王だ。私の存在を否定しておいて、何を今更言っているのだろう。ドキドキが消えた代わりに、脳が熱を帯びて僅かな鈍痛が響く。
「勝手なこと言ってくれちゃって」
国の身勝手な言い分に、溜め息が漏れそうになる。
「私は、絶対に女王になんてならないんだから」
踵を返し、部屋の外へと出てしまった。ドアを締め、細い息を吐く。
幼い時には女王に憧れたことだってあった。どうして父王のようにはなれないのか、侍女にぶつけたこともあった。でも、何故、それが今なのだろう。私が諦めた途端に手のひらを返す。そのやり方に嫌悪感を覚え、目の前が揺らいだ。
王女ではなく、普通の少女でいたいのに考えてしまった。その場にしゃがみ込み、涙目で頬を膨らませる。すると、背中に軽い衝撃を受けたのだ。
「あ痛っ!」
振り返ってみると、ドアを開けたアルフレッドが慌てた表情で私の腕を掴んだ。その後ろでゼインもあたふたしている。
「ティア、大丈夫か?」
「背中がぁ……」
地味にじんじんと痛む。背中を手で擦ってみたものの、痛みは引きそうにない。
「すまない、ちょっとティアが心配になってな」
しゃがみ込んだアルフレッドの顔が近い。いきなり現実に戻されたようで息が詰まる。
「今更、女王論なんて馬鹿げています。どうして王女が存命とされてる時から議題にならなかったんでしょうね」
私の意見をゼインが代弁してくれて、胸が熱くなる。その通りなのだ。何度も頷き、口をへの字に曲げた。
「私は国に勝手に殺されて、勝手に持ち上げられて……どう振る舞えば良いの?」
「ティアの言い分は分かる。でも、これが世論ってものなんだろう」
世論なんてどうでも良い。そう言ってしまえたら、どれほど楽だっただろう。思い切り目を瞑り、唇を尖らせる。
「デッキで気分転換でもしよう。ここじゃ狭くて憂鬱になるだろ?」
アルフレッドが一緒に来てくれるなら、行ってあげても良い。唇は尖らせたままで、小さく頷いた。
アルフレッドに手を引かれて階段を上り、風の強いデッキへと出る。空は昨日までの悪天候はどこに行ってしまったのだろう。羊が寝そべっているかのような雲が所々にぷかぷかと浮かんでいる。その雲を見て、連想したのだろうか。
「あの白猫は元気にしてるだろうか」
アルフレッドが呟いた。
「散歩してた時に見つけた猫ですか?」
「ああ」
「心配には及びませんって。あの伯爵のデレ具合を見たでしょう?」
「まあな」
ゼインの言う通り、あの伯爵が猫を大事にしないとは思えない。心を落ち着かせ、手摺りに背中を預けた。
「それよりレイン。あれからアネモネとは連絡を取ってるのか?」
不意なアルフレッドの問いに、ゼインは吹き出してしまった。一瞬にして頬は薔薇色に染まる。
「取ってませんし、取りません」
「彼女を放っとくのか?」
「僕は放任主義ですから。……って、違います! 僕がアネモネに相応しい男になったら、迎えに行きます」
「じゃあ、四人旅になるのかなぁ」
アネモネとは仲良くなれるだろうか。思いを巡らせていると、アルフレッドは私の隣で腕を組む。
「ティアは逃亡が終わっても旅がしたいのか?」
「私は……」
まだ、未来のことを考えられる余裕はない。それでも、王宮に閉じこもってばかりいた世界からは考えられない自由に触れてしまった。
「私は、もっと自由を楽しみたい。旅をするにしても、どこかに定住するとしても」
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「少しだけ、未来が見えた気がする」
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