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予兆
二
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地面に裾がつかないようにスカートを持ち上げ、きょろきょろしながら歩く。
ここからも樹海へは入れる。うねる道なりに進めば、大和で使われる特別教室が点在するエリアへ着くはずだ。
体育館を出てすぐ左は、学食や第三棟校舎(橘舎)へ通ずる渡り廊下がある。右はグラウンドだ。
樹海からの木が生い茂る中に、俺は獣道を見つけ、踏み入った。もっとスカートを持ち上げる。
土を踏み固めて作っただけの道をしばらく進む。やがて、細いながらも舗装されているところに出た。
特別教室のある開けたところまでは割合すぐだった。あの一角の裏側は、このあいだ稲を刈った田んぼにあたる。
俺の歩いてきた道と、きれいな芝生が敷き詰められてあるところの境目にきたとき、少し遠くの木々の中で人陰を見つけた。弓道場の建物のそばだ。
柳さんと、オレンジさんこと津田さんだった。
維新といるはずの柳さんが、もうべつな人と話をしていたのにも驚いたけど、相手がオレンジさんだったからもっとびっくりした。
なにかを察知したらしく、二人してこっちを向く。
その瞬間、俺の体は後ろへ引っ張られた。もつれる足でなんとか辿り着いたのは、大木の陰。口を手で塞がれる。
見覚えのある顔が近づいてきた。
「これはこれはお嬢さん。こんなところをほっつき歩いてると、悪い狼に食われちまうぜ」
鷲尾さんだった。
声もにやにやもひそめている。
その目が離れ、どこかへ移る。たぶん、あそこだ。
「柳と津田か。あんまり見ねえコンビだな」
俺に同意を求めるかのように目配せして、鷲尾さんは呟いた。
そしてまたあそこに目をやった。
でも、その目をさ迷わせているから、二人はいなくなったのかもしれない。
ようやく俺の口が解放される。早速投げつけたい言葉もあったけど、まずはどきどきな胸を押さえた。
「それにしてもたっクン。またすごいカッコしてんな」
鷲尾さんは一歩、二歩と下がり、俺の全身を舐めるように眺めた。
俺は肩をすくめ、身を縮める。
「あ、まあ。劇のやつで……」
「ああ、そかそか。それでか。んで? こんなとこでどうした」
「鷲尾さんこそ。ここ、バレー部とはなんの関係もねえし。離れてるし」
「うん? 俺はあれだ。ただのお散歩だ。つうかさ──」
鷲尾さんが胸の前で大きく手を動かした。
「でかくね」
「は?」
「おっぱいな」
「お……!」
「まあ、俺好みの大きさではある。よし。ちょっと揉ませろ。どんなもんか確かめてやる」
俺はスカートをむんずと持ち、鷲尾さんの背後へ回ると足を振り上げた。早くどっかいけと、しかし空を蹴る。
鷲尾さんは振り返ると同時に顔をもっとにやつかせ、指をもみもみと動かした。俺と距離を詰めようとして、急に背を反らした。
木刀が目に入る。
ミツさんだ。
ミツさんは俺の前に体を入れると、鷲尾さんのみぞおちへ木刀の先をずらした。じりじりと後退させる。
「みっちゃんみちみち~。久しぶりだってのに、ずいぶんじゃねえか」
「こんなとこでなにしてる」
「なんもしてねえよ。つかよ、みっちゃんこそ、このあいだからなに怪しいことしてんの。俺は知ってんだぜ。お前らがなにかを探って──」
ミツさんは、黙れと言うように木刀をもっと突きつけた。
そのぶんを、鷲尾さんは下がる。
「卓」
前へ前へといきながら、ミツさんはあごをしゃくって、戻れを示す。
俺は軽く頭を下げて、またスカートを持ち上げ、踵を返した。
しばらく歩いてから振り返れば、ミツさんは木刀を下ろしていて、なにやら鷲尾さんと話をしていた。
樹海を抜ける前、グラウンドへ通ずるほうの道へ目をやったら、少し遠くに見覚えのある背中が二つあった。
でこぼこワンツーコンビだ。
俺に気づく様子はなく、真剣な表情で言葉を交わしている。
マキさんは、デニムのサロペットにビッグスポットのガウンを羽織っている。黒澤は、グレーのピンストライプのスラックスに藍色のミリタリージャンパーを着ている。
ニコイチとして見るには合っているとは言えない服装だけど、それぞれのスタイルにははまっていて、結構いいコンビだと思った。
やがて二人が俺の存在に気づく。揃ってぱっとこっちを見た。
ここからも樹海へは入れる。うねる道なりに進めば、大和で使われる特別教室が点在するエリアへ着くはずだ。
体育館を出てすぐ左は、学食や第三棟校舎(橘舎)へ通ずる渡り廊下がある。右はグラウンドだ。
樹海からの木が生い茂る中に、俺は獣道を見つけ、踏み入った。もっとスカートを持ち上げる。
土を踏み固めて作っただけの道をしばらく進む。やがて、細いながらも舗装されているところに出た。
特別教室のある開けたところまでは割合すぐだった。あの一角の裏側は、このあいだ稲を刈った田んぼにあたる。
俺の歩いてきた道と、きれいな芝生が敷き詰められてあるところの境目にきたとき、少し遠くの木々の中で人陰を見つけた。弓道場の建物のそばだ。
柳さんと、オレンジさんこと津田さんだった。
維新といるはずの柳さんが、もうべつな人と話をしていたのにも驚いたけど、相手がオレンジさんだったからもっとびっくりした。
なにかを察知したらしく、二人してこっちを向く。
その瞬間、俺の体は後ろへ引っ張られた。もつれる足でなんとか辿り着いたのは、大木の陰。口を手で塞がれる。
見覚えのある顔が近づいてきた。
「これはこれはお嬢さん。こんなところをほっつき歩いてると、悪い狼に食われちまうぜ」
鷲尾さんだった。
声もにやにやもひそめている。
その目が離れ、どこかへ移る。たぶん、あそこだ。
「柳と津田か。あんまり見ねえコンビだな」
俺に同意を求めるかのように目配せして、鷲尾さんは呟いた。
そしてまたあそこに目をやった。
でも、その目をさ迷わせているから、二人はいなくなったのかもしれない。
ようやく俺の口が解放される。早速投げつけたい言葉もあったけど、まずはどきどきな胸を押さえた。
「それにしてもたっクン。またすごいカッコしてんな」
鷲尾さんは一歩、二歩と下がり、俺の全身を舐めるように眺めた。
俺は肩をすくめ、身を縮める。
「あ、まあ。劇のやつで……」
「ああ、そかそか。それでか。んで? こんなとこでどうした」
「鷲尾さんこそ。ここ、バレー部とはなんの関係もねえし。離れてるし」
「うん? 俺はあれだ。ただのお散歩だ。つうかさ──」
鷲尾さんが胸の前で大きく手を動かした。
「でかくね」
「は?」
「おっぱいな」
「お……!」
「まあ、俺好みの大きさではある。よし。ちょっと揉ませろ。どんなもんか確かめてやる」
俺はスカートをむんずと持ち、鷲尾さんの背後へ回ると足を振り上げた。早くどっかいけと、しかし空を蹴る。
鷲尾さんは振り返ると同時に顔をもっとにやつかせ、指をもみもみと動かした。俺と距離を詰めようとして、急に背を反らした。
木刀が目に入る。
ミツさんだ。
ミツさんは俺の前に体を入れると、鷲尾さんのみぞおちへ木刀の先をずらした。じりじりと後退させる。
「みっちゃんみちみち~。久しぶりだってのに、ずいぶんじゃねえか」
「こんなとこでなにしてる」
「なんもしてねえよ。つかよ、みっちゃんこそ、このあいだからなに怪しいことしてんの。俺は知ってんだぜ。お前らがなにかを探って──」
ミツさんは、黙れと言うように木刀をもっと突きつけた。
そのぶんを、鷲尾さんは下がる。
「卓」
前へ前へといきながら、ミツさんはあごをしゃくって、戻れを示す。
俺は軽く頭を下げて、またスカートを持ち上げ、踵を返した。
しばらく歩いてから振り返れば、ミツさんは木刀を下ろしていて、なにやら鷲尾さんと話をしていた。
樹海を抜ける前、グラウンドへ通ずるほうの道へ目をやったら、少し遠くに見覚えのある背中が二つあった。
でこぼこワンツーコンビだ。
俺に気づく様子はなく、真剣な表情で言葉を交わしている。
マキさんは、デニムのサロペットにビッグスポットのガウンを羽織っている。黒澤は、グレーのピンストライプのスラックスに藍色のミリタリージャンパーを着ている。
ニコイチとして見るには合っているとは言えない服装だけど、それぞれのスタイルにははまっていて、結構いいコンビだと思った。
やがて二人が俺の存在に気づく。揃ってぱっとこっちを見た。
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