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うたた寝をしていた時、全てを私は思い出した。自分が誰なのか、ここはどこなのか、一体何をしているのか。と同時に身体がすっごく重くなった。よく見るととてつもなく太っているのだ。
 あれ?こんなんだったっけ。なんでモップとバケツを持ってるんだっけ。前までキャンパスライフ満喫してなかったか?よーく考えて整理して落ち着いて気づいたことがあった。私は以前とは違う人物になっているということだ。ということは私はトラックに引かれた時既に死んでいたということになる。色々と思い出していくうちに、生前の記憶、そして今の記憶も思い出してきた。
 私の名前はリリー。どうやら、王室の雑用係として仕えているらしい。現実が受け止めきれないが、体型はお世辞にも美しいとは言えず、醜く肥えている。荒れた肌にボサボサの髪。よくこんなんで王室に仕えられたものだ。
 この世界は私が生前よくプレイしていたゲーム「妃物語」に間違いない。城の内装も外装も、仕えている人たちの服装も全くもって一緒だ。そして驚愕の事実なのだが、私はそのゲームにキャラ登場しているのだ。いや、そりゃ当たり前でしょと思うだろうが、きちんと名前も設定も記されているキャラ、つまりモブではないということだ。けれど物語では対して登場しないし、重要人物でもない。一言で言えば、ゲームを進める際にプレイヤーにヒントを与えたり、部屋を移動する際に押すボタンの傍にちょこっといるキャラだ。だから、よくある このままではバッドエンドになる! とか 実は悪役令嬢でしたー! とかそういうのでもないため、焦りはしなかった。
 が、なんというか…せっかくこんな素敵な世界に転生できたのだからせめて満喫したいよねってのが私の願望だ。いつまでもこんな重くて醜い姿で死ぬまでここでこき使われるより、ダイエットして、今よりはマシな人生歩みたい!なんならイメチェンした状態でしばらく王室に仕えて主人公と他のキャラクターの恋路をササッとサポートしてみたい!なんかロマンがあるじゃん。所詮はゲームの世界だけど少しぐらいビジュアル設定変えたっていいじゃん。正直言うと今はただただ動き辛いし、周りの目が気になるしで仕事にならないし…。
 とりあえず今日すべき仕事を終わらせて早めに雑用係が生活する棟へ戻った。

 私はまず、外見をどうにかしようとした。リリーとしての記憶では仕事が終わってすぐに王室の皆様の残飯を同僚が引くほどの勢いでぺろりと平らげていたことが伺える。食事は控えめに取り、誰よりも先に皿洗いやその他の雑務をこなすようにした。そして、食事が終わると風呂に入り自由時間があるというのにすぐに就寝に着いていた。生前、美容についての勉強をしていた私はその知識をフル活用して、スキンケアや髪の手入れを今あるもので何とか行った。自由時間になると、人気のない空き部屋を使って適度な運動をしたり、ボランティアになってしまうが、荷物運びを率先してやった。
 そんな生活を初めて早2週間、見た目に変化が起こったらしい。
「あら、リリー。少し痩せたんじゃない?それにお肌も、、髪もサラサラになってきてるし!」
 同僚のルカがそう言ってきた。私はこの調子でダイエットを頑張った。

 ダイエットを初めて半年が経ち、私の姿は自分が言うのもなんだが見違えるほど綺麗になったと思う。力仕事をしたためか変にガリガリに痩せず、適度な筋肉もついた。俗に言う、ナイスボディと言うやつだ。生前の私でさえこんな姿にならなかったが、ゲームの世界ってすごい…。もう一つ問題であった肌と髪だが、ダイエット初期と比べるとマシになったのではないかと思う。ボサボサでわからなかったが私の髪は綺麗な栗色をしていた。
 ある程度イメチェンに成功したと思い、滅多に会わない雑用係の主任にあたる人に作業着の新調をお願いしに主任の部屋へ行った。
「君、ほんとにリリー・ホワイトか?」
「はい、正真正銘のリリー・ホワイトです。ここに雇われる前に書いた履歴書の内容も全部言えますが」
「その様子だと、本物のようだな。で、私に何の用だね」
「はい、自分で言うのもなんですが、体型が大幅に変わりましたので作業着を新調していただきたいのですが」
「いいでしょう。…ところでリリー、君、本館へ移動したらどうだ」
「はい?」
 私が今まで働いていたのは別館で王室の人とは全く関わりのない場所である。そのため私は事実上このゲームのメインキャラクターとは接触したことがないということだ。(まあ生前、ゲーム内でさんざんあっているのだが)しかし、今私が本館へ移動してしまうと別館へ逃げてきた主人公と出会えなくなる。つまり、存在意義がなくなってしまう。(あと、働き始めた時は普通に優秀だったたため本館にいたのだが、姿が見にくいためすぐに別館へいどうさせられたのだ。それがショックでヘマをするようになったし…)
「主任、なぜ私が本館に…」
「君の最近の働きは私の耳にも届いている。以前まではドジばかりで役に立たないため解雇を検討していたが、ここまで優秀となれば話は別だ。それに以前とは見違えるほど綺麗になっていると私は思う。どうだ?もしかすると雑用から昇格するかもしれないぞ?」
「是非とも移動させていただきます!」
昇格するかもしれないという言葉にまんまと流された私は即答した。
「そうとなれば作業着も本館のものに変えなければな。すぐに手配する。そうだな…明日の夕方にもう一度この部屋に来て欲しい」
「はい!」
 ゲームのストーリー的に色々やばいかもしれないが、私の人生には結果的に良い方向に向かっていることになるので、素直に主任の言うことを聞くことにした。
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