好きな人とエレベーターに閉じ込められました。

蒼乃 奏

文字の大きさ
5 / 42
好きな人とエレベーターに閉じ込められたら、人はどうなりますか。

トイレに行きたくなったらどうしますか。(陸くんの場合)

しおりを挟む

成瀬がこっちに来ようと立ち上がっただけで不自然に動揺する俺を見て、成瀬は困ったように笑う。

「そんな怯えんなよ…取って食う訳じゃねぇし」

「ご、ごめん。そんなんじゃないんだけど」

成瀬は角にあるコーナーに置いてある椅子の蓋を開けて、中身を確認してるようだった。

「あった。よし、伊藤ちょっと避けて」

成瀬は防寒用アルミシートを手際良く広げて、床に二つ折りにして敷いた。

「ほら、靴脱いでここ座れよ」

アルミシートはもう一枚あったけどそれは使わず、シートの端に畳んだまま置いた。

俺がアルミシートの端に遠慮がちに座ると、成瀬は中にあった物をシートの上に並べた。

「ふーん、ミネラルウォーターと乾パン。ポケットティッシュとランタンと…ラジオと電池か。あ、クッキーもあるけど食う?」

「お腹、空いてないから…」

「そっか。喉乾いてたら、水飲む?ちょっとぬるいけど」

そんなの飲んだら、トイレ行きたくなるんじゃないだろうか…。

「簡易トイレあるから、少しくらい飲んでも大丈夫だぞー?」

「簡易トイレって使った事ない」

「大丈夫だ、俺も使った事ないから」

簡易トイレの使い方を興味深そうに読んでる成瀬の横顔はもう、めちゃくちゃカッコいい。

成瀬の割と何も気にしない大雑把な所とか、俺にない決断力とか頼りになる所とか。

好きになる所がいっぱいで、嬉しくて俺も簡易トイレを一つ持って、一緒になって説明書を読んだ。

それにしたって、やっぱりこのエレベーターの中で用を足すしか道がないわけで、出来れば使いたくないからギリギリまで我慢する事に決めた。

丸山んちから出る時、トイレを済ませておいて良かったと、心の底から思った。

「あのさ、使いたくなったらアルミシートに吸盤つけて、壁に貼って隠せるから。後、音気になるならその時大音量でスマホで音楽流してやるよ。それなら出来そうだろ?」

真剣な声でそう言ってくれる成瀬に、俺は思わず頷いたけど…。

「でもやっぱ、出来れば使いたくないから水はまだいらない」

そう言うと、成瀬はミネラルウォーター2本とランタンとラジオを残してとりあえず他の物はしまったようだ。

「ほら、カイロあったぞ」

袋を破いて何度か振った後、カイロを投げてよこしてくれて、それから一枚だけ入ってたブランケットも迷う事なく俺にくれた。

「いいのかな、勝手に使って…」

「おい。何言ってんだよ。今が使うべき時だろ」

そう言われるとそうだと思って、ブランケットを掛けて壁にもたれる。

カイロがじんわりあったかくなってきて、やっと少し余裕が出てくる。

「少し落ち着いたな。そこ、横になれるスペースあるだろ?しんどかったら寝てていいぞ」

成瀬はさっき座ってた場所にまた座り直して、災害グッズの中にあった非常用クッキーの箱を眺めてる。
あ、それ、食べるんだ。

「成瀬、お前もアルミシートに座んないの?床、硬くない?」

「いいんだよ。まだケツ痛くねぇし…眠くもない。あ、ちょっとこのクッキー食ってみていい?」

「お腹空いてるのか?」

「いや、味に興味があるだけ」

成瀬はクッキーを一つ取り出して食べてみて、うん、めっちゃ普通って笑った。

さっきまで余裕なくてひどい態度を取っていた俺の事を怒りもせず、至れり尽せりで優しくしてくれる成瀬にドキドキする。

アルミシートは二つ折りにしてくれたから硬くなくて座りやすいし、パーカーもブランケットもあるから寒くない。

パーカー返そうかな…って名残惜しそうにチャックに手を掛けて悩んでると、成瀬は俺の心を読んだ様に言ってくれる。

「あ、俺寒くないから、パーカーも着とけよ。風邪引いたら困るし」

くっ、俺の好きな人だけあって、気が利くしめちゃくちゃ優しいし、俺ほんとやばい。

本当はこっち来て欲しいけど、隣に座ったら心臓の音が聞こえて俺の気持ち絶対バレるから誘えない!!

「おーい、顔赤くない?熱とかないよな?」

「だ、大丈夫。急にあったかくなったから、それで…」

このまま何事もなく助けが来るまで待てるか不安を感じつつ、俺は成瀬の綺麗な顔を盗み見ながら時間が過ぎるのを待った。

成瀬は、時々目が合うと笑ってくれる。
心臓に悪過ぎて、そのせいで何かの病気を発症しそうだ。

こういうとこだぞ!無自覚タラシ!



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

発情薬

寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。  製薬会社で開発された、通称『発情薬』。  業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。  社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。

鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。 死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。 君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

処理中です...