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好きな人とエレベーターに閉じ込められたら、人はどうなりますか。
トイレに行きたくなったらどうしますか。(陸くんの場合)
しおりを挟む成瀬がこっちに来ようと立ち上がっただけで不自然に動揺する俺を見て、成瀬は困ったように笑う。
「そんな怯えんなよ…取って食う訳じゃねぇし」
「ご、ごめん。そんなんじゃないんだけど」
成瀬は角にあるコーナーに置いてある椅子の蓋を開けて、中身を確認してるようだった。
「あった。よし、伊藤ちょっと避けて」
成瀬は防寒用アルミシートを手際良く広げて、床に二つ折りにして敷いた。
「ほら、靴脱いでここ座れよ」
アルミシートはもう一枚あったけどそれは使わず、シートの端に畳んだまま置いた。
俺がアルミシートの端に遠慮がちに座ると、成瀬は中にあった物をシートの上に並べた。
「ふーん、ミネラルウォーターと乾パン。ポケットティッシュとランタンと…ラジオと電池か。あ、クッキーもあるけど食う?」
「お腹、空いてないから…」
「そっか。喉乾いてたら、水飲む?ちょっとぬるいけど」
そんなの飲んだら、トイレ行きたくなるんじゃないだろうか…。
「簡易トイレあるから、少しくらい飲んでも大丈夫だぞー?」
「簡易トイレって使った事ない」
「大丈夫だ、俺も使った事ないから」
簡易トイレの使い方を興味深そうに読んでる成瀬の横顔はもう、めちゃくちゃカッコいい。
成瀬の割と何も気にしない大雑把な所とか、俺にない決断力とか頼りになる所とか。
好きになる所がいっぱいで、嬉しくて俺も簡易トイレを一つ持って、一緒になって説明書を読んだ。
それにしたって、やっぱりこのエレベーターの中で用を足すしか道がないわけで、出来れば使いたくないからギリギリまで我慢する事に決めた。
丸山んちから出る時、トイレを済ませておいて良かったと、心の底から思った。
「あのさ、使いたくなったらアルミシートに吸盤つけて、壁に貼って隠せるから。後、音気になるならその時大音量でスマホで音楽流してやるよ。それなら出来そうだろ?」
真剣な声でそう言ってくれる成瀬に、俺は思わず頷いたけど…。
「でもやっぱ、出来れば使いたくないから水はまだいらない」
そう言うと、成瀬はミネラルウォーター2本とランタンとラジオを残してとりあえず他の物はしまったようだ。
「ほら、カイロあったぞ」
袋を破いて何度か振った後、カイロを投げてよこしてくれて、それから一枚だけ入ってたブランケットも迷う事なく俺にくれた。
「いいのかな、勝手に使って…」
「おい。何言ってんだよ。今が使うべき時だろ」
そう言われるとそうだと思って、ブランケットを掛けて壁にもたれる。
カイロがじんわりあったかくなってきて、やっと少し余裕が出てくる。
「少し落ち着いたな。そこ、横になれるスペースあるだろ?しんどかったら寝てていいぞ」
成瀬はさっき座ってた場所にまた座り直して、災害グッズの中にあった非常用クッキーの箱を眺めてる。
あ、それ、食べるんだ。
「成瀬、お前もアルミシートに座んないの?床、硬くない?」
「いいんだよ。まだケツ痛くねぇし…眠くもない。あ、ちょっとこのクッキー食ってみていい?」
「お腹空いてるのか?」
「いや、味に興味があるだけ」
成瀬はクッキーを一つ取り出して食べてみて、うん、めっちゃ普通って笑った。
さっきまで余裕なくてひどい態度を取っていた俺の事を怒りもせず、至れり尽せりで優しくしてくれる成瀬にドキドキする。
アルミシートは二つ折りにしてくれたから硬くなくて座りやすいし、パーカーもブランケットもあるから寒くない。
パーカー返そうかな…って名残惜しそうにチャックに手を掛けて悩んでると、成瀬は俺の心を読んだ様に言ってくれる。
「あ、俺寒くないから、パーカーも着とけよ。風邪引いたら困るし」
くっ、俺の好きな人だけあって、気が利くしめちゃくちゃ優しいし、俺ほんとやばい。
本当はこっち来て欲しいけど、隣に座ったら心臓の音が聞こえて俺の気持ち絶対バレるから誘えない!!
「おーい、顔赤くない?熱とかないよな?」
「だ、大丈夫。急にあったかくなったから、それで…」
このまま何事もなく助けが来るまで待てるか不安を感じつつ、俺は成瀬の綺麗な顔を盗み見ながら時間が過ぎるのを待った。
成瀬は、時々目が合うと笑ってくれる。
心臓に悪過ぎて、そのせいで何かの病気を発症しそうだ。
こういうとこだぞ!無自覚タラシ!
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