足枷《あしかせ》無しでも、Stay with me

ゆりえる

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1.

絶望感と……

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「助け……て……」

 こんなに声が枯れるほど叫んでも、誰からも気付かれない。
 もう何時間、ここにこうしているのだろう?
 日がかなり西向きに傾いて来たから、もう夕方。
 いい加減、誰か一人くらい通りがかってくれてもいいのに……。

 右足首が痛い……

 骨折した事が無いから、よく分からないけど、ぶつけて腫れた程度では無いような痛みが、さっきからジンジンと右半身を貫いている。

 誰がこんなものを作ったの……?

 大きな深い落とし穴にはまった事だけは分かった。
 深さ2.5mくらい?
 何度か脱出しようと試したけど、右足首が内側にクニャリと曲がってしまっていて、両手と左足だけでは落とし穴の側面を登られない。

「助……け……て……」

 近くの道路は車の往来が激しいから、さっきから何度叫び続けても、ただ落とし穴の中で煩く響いているだけで、上までは声が届いてないんだ。

 お腹も空いた……

 朝ご飯食べ損ねて、昨日の夜からずっと何も食べてなかったから、そりゃあお腹も空くよね……

 私、もう誰にも気付かれないまま、ここで、白骨死体になるのを待つだけなのかな?

 昨夜……
 見たかった動画をつい夜遅くまで見てしまって、今朝は、お母さんが早番、お父さんも夜勤でいなかったから、大寝坊!
 急いで制服に着替えて、適当に髪の毛を手櫛して家を出てから走った。

 第一中学校まで、いつも通りの通学路で行くと、遅刻間違い無しだから、近道の草原を横切って行こうとした。
 ここを通ると5分は短縮出来て、途中疲れて小走りになっても、ギリギリ遅刻しないで教室に辿り着ける予定だったのに……

 走っていて、何か普通とかなり違う踏み応えがすると感じたが最後……

 暗く深い穴の中へと急降下していた……

 その後は、多分、頭も強打していて、しばらく気を失っていた。

 気付くと、ずっと空腹だったのを忘れるほどの唸るような頭痛と、それにも増して激しい痛む右足首。
 かなり腫れていて、靴がきつくなったから脱いだ。
 右の足首が、自分のものと思えないほど太さが違っている。
 まるで、象さんみたい……なんて思っている余裕なんか無い!
 早く、ここから助け出してもらわないと。

 「た……す……け……て」

 もう5時間くらいは叫び続けている。
 自分では叫んでいるつもりなんだけど、もう声が枯れてしまって叫べてなんかいない。
 この草原は、通る人もまばらだけど、犬の散歩には持って来いの広々とした開放的な場所なんだから、せめて1人くらいは気付いてくれても良いはずなのに……
 車の騒音のせいで、見事なほど、私の声はスルーされてしまっている。

 そんなほとんど諦めかけた時に、かすかに聴こえて来た声。

「だから、僕は、この後、塾だから無理だよ」

 なんだか、聞き覚えある声……
 多分、この声は、クラスメイトの北岡君……?

「そんなこと言うなよ、塾の前に少しだけ手伝ってくれ~、凌空りく。昨日、弟とBB弾してる時に、隠れる山と穴を同時に作ろうとしたら、思ったより大きな穴を掘ってしまっていて、誰か落ちたら、さすがにヤバイからさ……」

 1人じゃない!
 もう1人いる!

 声が大きくなってくる!
 こっちに、近付いているんだ!

 しかも、この声は……
   聴き間違えるはずのない、矢本君の声!
 
 こんな絶望的な時に、大好きな矢本君の声が聴けるなんて、嬉し過ぎる!

 でも、これって走馬灯ではないし……

 このまま若死にするのは可哀想だから、死ぬ前に一瞬だけ幸せ気分にさせてもらえる、というような天国からの計らいでもなさそうだよね……

 ううん、待って……

 聴こえて来た話によると、この穴、矢本君が作った?

   だとしたら、これはもう、絶望なんかじゃない!

 むしろ、超ラッキーかも!

「ヤバイよ~、瑞輝みずき。もう既に、誰か落ちてる! セーラー服の女子が……」

 良かった、気付いてくれた!

 もう痛い喉の状態で叫ぼうとしなくていいんだ!

 私、助かったんだ!!

 しかも、矢本君と北岡君に助けてもらえる!

 長時間この痛くて心細い状況に耐えた私への御褒美ごほうびのように、大好きな矢本君に助けてもらえる事になるなんて!

 一生分の幸運を今、この瞬間だけで使い果たしてしまいそうで怖いけど……

「マジかよ~! こんなのに引っかかるドンくせ~奴がいるとはな! 凌空りく、早く助けるぞ! おーい、大丈夫か?」


 あの時の私は、辛く長かった出来事の後にやって来た思いがけない幸運のおかげで、すっかり舞い上がってしまっていた。
 この後に振りかかる過酷な試練や失う物の多さなど、全く気付きもしないで……
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