足枷《あしかせ》無しでも、Stay with me

ゆりえる

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ファーストキスと……

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 (えっ……矢本君なの? でも、手がそのままで動いてないから……)

 若葉が暗中模索しながらも懐中電灯を壁から外し、室内がスポット的に明かりに照らされた。
 懐中電灯に照らされ、眩しさで目を逸らしたものの、 詩奈しいなの目の前には、 凌空りくの顔が有った。

(北岡君……! やっぱり、矢本君ではなかった。でも……)

 初めて異性と唇が触れ合った驚きと動揺で、胸の高鳴りが激しくなるのを感じられた 詩奈しいな

「 わ~っ! 凌空りく、大胆~!! 暗闇を利用したね~!」

 驚いた弾みで、懐中電灯を落としそうになった若葉。

「違うんだ! 危ないと思って、牧田さんの手を握ろうとしたら……」

 そう 凌空りくが言い訳しようとしかけた時、気付かれないうちに、 詩奈しいなから手を離した 瑞輝りく

「 凌空りくの好きな女子って、 詩奈しいなだったとは!  詩奈しいなが相手なら、あの小畑さんより大歓迎!!」

 若葉が手を叩いて喜び、そのせいで懐中電灯の明かりが揺れる。

「ホントに、そんなんじゃなくて……牧田さん、ごめん」

 済まなそうに謝る 凌空りくを見ていると、 詩奈しいなの脳裏には、それまでの 凌空りくの言動が蘇り、いたたまれない気持ちになった。

(北岡君は、同じクラスだから、あんなにキレイに分かりやすく書かれたノートを毎回届けてくれていた。矢本君や若葉より何度も、私がクラスメイト達に虐げられてきたのを見ていて、止めてくれたり庇ってくれた。矢本君達が1組に来てくれてからも、誰よりも気付いてくれていた。私は、矢本君が好きだけど、北岡君がいなかったら、きっと、あのクラスでもっと傷付いていたかも知れない。こんなに優しく接してもらっていて、北岡君に対して、私は何が出来るんだろう……?)

「そんなに、北岡君、謝らないで…….私、北岡君の事が好きだから」

  詩奈しいなの予期せぬ告白に、 凌空りくはもちろん、 瑞輝みずきと若葉も 唖然あぜんとなった。

「罰ゲームでも無いのに、 詩奈しいなが告白してる!  瑞輝みずき、ほら、気を利かせて、2人にしてあげて」

「あっ、うん、そうだった……」

 若葉に言われたが、意外過ぎたのと成り行きが気になり、2人から目を離したくない様子の 瑞輝みずき

「私達も停電の時に、キスしてたら良かったね~! 私は別に、停電じゃなくても構わないんだけど!」

「何言ってんだか! さっ、お邪魔虫は出よう!」

 若葉の手首を持って、室外に出た 瑞輝みずき

 それまでの騒々しさが嘘のように、シーンと静まり返った部屋に取り残された 詩奈しいなと 凌空りく

「牧田さん、かばってくれてありがとう」

「えっ……」

 2人っきりにされて、何を話したらいいのかと思っていると、 凌空りくの方から口を割った。

「牧田さんが、 瑞輝みずきを好きなのは、ずっと気付いてたんだ……」

 思いがけない言葉が、 凌空りくから飛び出し、焦った 詩奈しいな

「もしかして、矢本君にも気付かれている?」

 周囲に気付かれるような言動をしていたのかと、自分の今までを振り返ってみようとした 詩奈しいな

「 瑞輝みずきなら、多分、気付いてないよ。家でも慌ただしそうだし、性格的に気付き難いかも知れない」

  瑞輝みずきに関して、 凌空りくの推測は正しそうに思える 詩奈しいな

「ごめんなさい……私……とっさに、思い付いた事を言ってしまって。北岡君に見破られないわけないのに……」

「いや......本気じゃないって分かっていても、嬉しかった」

 凌空りくの言葉で、自分の浅はかさを感じさせられた詩奈しいな

「でも、北岡君の事は、友達として大好きだから! 矢本君がいなかったら、私、多分、北岡君が好きになっていたと思う……」

「ありがとう。僕は、瑞輝みずきの代わりでもいいから、牧田さんを支えたい。あのクラスメイト達からも、勉強面でも、僕が力になれる事が有るなら、いつでも頼って欲しい」

 凌空りく瑞輝みずきの代役にはなりようがないものの、そんなにまで自分の事を考慮してくれていると知り、心を動かされた詩奈しいな

「私は……今のまま、4人で一緒にいられたら、クラスメイト達も怖くないし、心強く思えている。ただ、私の怪我が治った時に……」

瑞輝みずきや若葉がまた元の4組に移動したり、牧田さんから離れてしまうのが不安だとしたら……偽装で、僕と牧田さんが交際宣言しようか? そうしたら、怪我が治っても、ずっと4人で一緒に行動できる!」

 凌空りくに提案されたものの、それを呑むのは自分にとって都合が良過ぎて、凌空りくに対し申し訳無く感じる詩奈しいな

「それは、嬉しいけど。でも、それじゃあ、本当に北岡君を利用してしまう感じだから……」

「そんな事で抵抗感じなくていいよ。利用されたとしても、僕も、牧田さんと一緒にいたいから」

 凌空りくと話しているうちに、涙がポトリと詩奈しいなの頬を伝った。

「ごめん。不快だったら、こんな話は止めよう」

 詩奈しいなの涙を見て、自分の言動で困らせていると思った凌空りくが前言撤回しようとした。

「ううん……北岡君に、そんなにまで私の事を考えてもらって、嬉しくて、つい、ごめんなさい。でも、少し考えてもいい? 芽里めりや他の北岡君の事を好きな女子に申し訳無いし……」

「そのクラスメイト達の件も有るから、交際宣言して公認にした方が、しつこく近寄られずに済むし、牧田さんへの嫌がらせも少なくなると思うんだ」

  凌空りくが見込み無いと分かると、彼女達は、執拗に追う事は止め、他の男子を物色し、詩奈しいなも眼中から無くなる可能性は否めなかった。

「でも、偽装って、クラスメイト達にも、若葉や矢本君にも隠しておくって事だよね?」

(矢本君の前で、北岡君と交際宣言する事になるんだ......)

「敵を欺くには、まず味方からって言うから、なるべく他言しない方が周囲への説得力あると思って、名案かと思ったけど、やっぱり、そこがネックか。瑞輝みずきには、そんな風に思われたくないよな」

「……ううん、矢本君には、若葉がいるし! 私、若葉の事も大好きだから! 2人はすごくお似合いだと思っているの、ホントに!」

 この先、瑞輝みずきと若葉が交際し出しても、凌空りくと一緒にいると、必然的に瑞輝みずきや若葉とも一緒に行動出来るというメリットは大きい。

「偽装だから、あまり無理無いように、今までと同じつもりで構えてくれていいよ。少し試して、精神的にきつそうだったら、また対策を考えよう」

「うん、北岡君、ホントにありがとう! 私、ボロ出さないように気を付ける」

 凌空りくを利用する後ろめたさが有りつつも、クラスメイト達からの迫害が、これを機に少なくなってくれたらと願う気持ちと、何より、瑞輝みずきや若葉とこれからもずっと一緒にいられる事で頭がいっぱいになった詩奈しいな
 少しして、ドアがノックされた。

「お邪魔しま~す! 凌空りく、そろそろ、部屋に戻らないと、浜口先生も戻ってそうで、奴がキレるぞ!」

「もう9時半、消灯10時だったっけ? 急ごう、瑞輝みずき!」

 2人が慌てて廊下を走って、男子用の大部屋に戻った。
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