微笑み係も悩まずにいられない

ゆりえる

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4.

手強い転校生

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「誰だよ、お前?」

 私を目にした、岸沼君の第一声。

 お前……って。

 そんな言われ方……されそうな気もしないでもなかったけど、ホント、岸沼君って、不愛想で取っ付き難い感じ!
 ほんわかして、いかにも天使天使している志原君とは、対極的過ぎる!

 志原君は、昨日のうちに、校舎の東棟の方を案内したようだから、今回、私は西棟を案内しようと思っているんだけど……
 対面して早々、こんな態度取られると、出鼻くじかれそう。

「私は、『微笑み係』の綿中です」

 ガタイのいい岸沼君を前にすると、何だか目上の人を相手にしているかのように、つい『ですます調』になってしまう……
 でも、せっかく私が名乗ったのに、私の名前なんて、全く耳に入れる様子など無い感じ。

「なんで、お前がいるんだ? 志原はどうした?」

 名乗っても、やっぱり、お前呼びが続いている!
 部外者は引っ込んでろ……みたいな目付きしてるし。
 はぁ~って、思いっきり溜め息つきたくなる!

「志原君は……どうやら、前回、禁止行為が発覚したようなので、急遽、私に交代しました」

 岸沼君相手に、とても説明しにくい。
 こんなニュアンスで、そっちにだって思い当たる節が有るんだから、分かってもらえるよね?

「禁止行為~?」

 最初は、何の事だか、分かんなそうな岸沼君。
 男子同士で、あんな不道徳な事を校内でしておきながら、昨日の今日で、もう忘れてる?

 有り得ない!

 それとも、しらばっくれているのかな?
 それくらい、岸沼君にとっては、mouth to mouthのキスなんて日常茶飯事的な行動って事なの?

 志原君はもちろん、聞かされた私だって、動揺しまくっているというのに、岸沼君からは、そんな扱いされるなんて心外過ぎる!!
 一体どういう育ち方したら、そうなるわけ?

「私の口からは、とても言い難いです......」

 口にしなくても、既に赤面ものの行為なんだから!
 昨日の自分の行いくらい、しっかりと覚えておいてよ!

「ああ、キスの事か! 志原から聞いてたんだな」

 まるで、取るに足らない事のような言い方の岸沼君。

「私と志原君は『微笑み係』同士だから、必要な連絡は、しっかりと取り合うようにしているんです」

「まさか、そんな事くらいで、ペナルティかよ?」

 ……って!

 キスなんて、スゴイ一大事なのに!
 岸沼君には、なんて言葉で、片付けられてしまうなんて!
 
「キスするのは、志原君も含めて、私達にとっては、って範疇じゃないです!」

「だったら、今度は、お前にキスすると、また元の鞘に収まって、志原が俺の担当してくれるのか?」

 そう言いながら、私の腕を引き寄せて、顎に手をかけてきた岸沼君。

 えっ、なに考えてるの.......?
 待って!!
 
 いくらイケメンとはいえ、こんなキス慣れしまくっている感覚の人に、こんな形で私の記念すべきファーストキスを奪われたくない!!

 思わず、反射的に手が動いて、岸沼君の左頬を引っぱたいていた!

「いってーな!」
 
 岸沼君の手が、私の顎から離れて、ホッ。

「ごめんなさい! つい手が、自然に動いてしまって。でも、こんなのって、絶対イヤだったから......」

 岸沼君は、イケメンで、何考えているのか分からないミステリアスさが魅力だって言う女子も多い。
 私だって、急に、こんなに接近すると、思わずドキドキしてしまうくらいなんだけど......

 ファーストキスは、この人と、こんなタイミングでなんかイヤ!

 だって、岸沼君の目的は『微笑み係』を志原君に戻す事!

 私は、その為の策略の一環として、ファーストキスなのに、ただ利用されるだけになってしまうなんて、絶対にイヤ!!

「お前、本気にしてたのか? そんなの、冗談に決まっているだろ!」

 お腹を抱えて笑い出した、岸沼君。

 なんという、信じられないくらいの無神経さ!
 こんな人を相手にドキドキして損した!

「そんなの、冗談かどうかなんて、私には分かるわけないですから!」

 この人は、キスくらい挨拶代わりに、何の思い入れも無く出来てしまう人なんだから。
 そんな風にキスを軽々しく考えている人と、未経験者である私の感覚は違うもの!

「志原から、もう聞いていたんだろ? 俺は、女には興味ねえーよ!」

 興味有るのは、志原君のような男子だけ?
 志原君は、女子も好きでバイだけど、岸沼君はゲイ専門って事?

 それなら確かに、私なんかには、全く危険の欠片も無いのかも知れない。

「そういう事でしたら、安心して『微笑み係』を続行できます」

 岸沼君があまりに唐突に想定外の行動に出たりしたから、自分が『微笑み係』だって事をすっかり忘れていた!
 さっきから、岸沼君相手に笑顔なんて見せられなかったけど、やっと安心して微笑む事が出来る!

「そりゃあ、良かったな! けど、お前、その敬語は何とかならね?」

「私だって、本来ならフレンドリーに接したいんです! ただ、なんていうか、その~、岸沼君の威圧感がけっこう強いので......」

 案内するのが、志原君じゃないと分かった時から、何だか、私に対して敵意むき出しにしてくるし……
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