家族をまた1人失った時に......

ゆりえる

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父の葬儀にて

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 中学に入学してようやく慣れて来た頃、父が帰宅途中に交通事故で亡くなった。
 元々、母がいなかった上、唯一の肉親である父まで亡くした私は、絶望に打ちひしがれ、同じ思いを共有している祖父母宅に引き取られる事になった。
 祖父母は隣町に住んでいて、年に数回ほどしか会ってなかったが、会う度に優しく接してくれていた。
 祖父母に面倒を見てもらえるのは有難かったものの、馴染みのあるこの町を離れるのは辛かった。
 
 葬儀の参列者は、ほとんどが父の会社の人々だったが、どこで知ったのか、その中に根元さんの姿が有った。

「この度はご愁傷様でした。お父さんがこんな事になって、亜子ちゃんは、これから、どうやって生活するの?」

「隣町のおじいちゃんおばあちゃんの所でお世話になるんです」

「そう、隣町に......」

 根元さんが話し続けようとした時、祖父母が現れた。

「あなた、どうして、こんな所にいるの?亜子と会うのは禁じていたはずでしょう!」

 我が子を失い、失意のどん底にある祖母が、根元さんの姿を見るなり、金切り声をあげた。

「おばあちゃん、根元さんを知っているの?」

「知っているも何も......」

 と言いかけたが、祖父に止められ、それ以上を話すのを思い止まった祖母。
 根元さんの困惑ぶりと、祖父母の様子を見て察した。

「根元さんが、前に話していた、死にかけた赤ちゃんって、もしかして私......?」
 
 お母さんは、死んでいなかった!

 お父さんは、それを隠し通そうとして、児童館に行って、根元さんと会うのを止めさせた!

「ごめんなさい、亜子ちゃん......」

「私、根元さんがお母さんだったら、どんなにか幸せなのにって、いつも思っていた」

 祖父母は必死になって、私を根元さんから引き離そうとしたけど、私の気持ちは、もう祖父母の方に向いてなかった。

 葬儀が終わり落ち着いた頃、私は隣町に引っ越す事無く、慣れ親しんだこの町で、約15年ぶりに母と同じ屋根で暮らし始めた。
 余分な物の無い殺風景な室内だけど、窓辺には、母の日に初めて私がプレゼントしたカーネーションが飾られていた。

    【 完 】
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みんなの感想(1件)

ひょん
2022.02.21 ひょん

子供にしてみれば母親への思慕は止められないけれど、周りの大人は軽率な母親の行動は許せないのは分かる
自分が母親になった時に、赤子を一人置いてカラオケに行くという浅はかな暴挙がどれだけ赤子の生命をおびやかしたか、気づくのでは?
いくら育児ノイローゼだとしても、根元さんがやった事は許されるべきではない

2022.02.23 ゆりえる

ひょんさん
感想をありがとうございます!

何も無かったから良かったものの、育児に悩んでいたとはいえ、彼女の取った行動は、母親として有るまじきもので、後々悔い続け、母と名乗る事も出来ずにいました。
その母親の愚行を反面教師とし、自分が母になった時には、子供を危険に晒すような真似は、繰り返さない事でしょう。

解除

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