思いがけず、生き延びて

ゆりえる

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劣等感と戦った時間⑵

思いがけず、生き延びて

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 そんな私だけど、会社の年配の上司からは、真面目さゆえにわりと評判が良かったせいか、ある日、女性上司の1人が、夕食に誘って来た。
 私を食事に誘うという事は、ただ単に夕食だけではなく、何か魂胆が有るのでは?と思われた。
 それが男性だったなら、下心が有るのかもと勘違いしなくも無さそうだが、生憎と、男性からは誘われた事など1度たりとも無かった。

 女性上司はそれまで雑談を交えながら食事をしていたが、デザートの時間になると、少し躊躇いがちに話し出した。

「富原さんは、お付き合いしてる男性はいるの?」

 思いがけない事を尋ねられて、慌てた。

「いえ、いません。今までもずっと」

「そうなの?良かったわ!」

 女性上司は目を輝かせて、思った通りと言わんばかりの表情をした。
 その時から、あまり良い予感はしていなかった。

「それが、何か......?」

「富原さん、今度、我が家に食事に来ない?1人暮らしだと家庭料理に飢えているでしょう?」

 外食ではなく、女性上司の家で、食事というところで気付いて断るべきだった。
 家庭料理という暖かくて美味しそうな響きに、つい心が掴まれた!

「お家にお邪魔していいんですか?ご家族の邪魔になりませんか?」

「とんでもない!是非、来てくれると嬉しいわ!」

 善は急げというノリで、女性上司は、その週末の土曜日、私を彼女の家の昼食に誘って来た。
 夕食だったら、帰るタイミングがすぐ近付いて言い出し難そうだが、昼食なら、帰るタイミングが自分で選べそうに思えて快諾した。
 
 食事をご馳走になるのだからと思い、デパートまで行って、フルーツタルトを購入して向かった。
 迎えに来てくれるような事も言っていたが、そこまで上げ膳据え膳状態だと、恐縮してしまい、何か頼まれた時に遠慮してしまいそうだから、そこは断った。
 すると女性上司は、住所を教えてくれたから、家のパソコンでその住所を調べ、建物を見付けた。

 辿り着いてみると、羨ましく思えそうな庭付きの1軒屋だった。

「富原さん、待っていたのよ!」

 庭の草木に水やりをしている女性上司が、私の姿を見て手を振って来た。

「お邪魔します」

 玄関に並んだ靴を見ると5人分有ったが、夫婦2人として、残りの靴全てが子供という感じの靴には見えなかった。
 それとも、子供達は外出しているのだろうか?

「家族も待っていたのよ、富原さんが来るのを」

 私がリビングに案内されると、リビングにいた家族の視線が集中したように見えた。
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