思いがけず、生き延びて

ゆりえる

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劣等感と戦った時間⑶

思いがけず、生き延びて

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 女性上司の家族は、ご主人と、多分そのご両親。
 お姑さんは要介護状態らしい椅子に座っていた。
 私より一回りほど年上の息子さんがいたが、私の方を向いていない。
 
「気を悪くしないでね。富原さんを無視しているわけではないのよ」

「そんな風に思っていないので安心して下さい。私は、男性達からそういう扱いはされ慣れていますから」

 慌てて、自分の身の程の自覚くらい有る旨を伝えた。

「いえ、この子、わたるは絶対にそんな風に、富原さんを思ったりしないから安心して」

「はぁ......」

 女性上司の言葉を半信半疑でいると、女性上司は言葉を続けた。

わたるは目が見えないのよ」

 そう言われて納得した。
 目が見えて無いなら、私の容姿も分からなくて、見下されなくても当然だった。

「そうだったんですか......」

 気の毒に思えて、つい同情を向けてしまった。

「それで、あなたのように優しくて、思いやりのある人に是非、わたると一緒になってもらいたくて。富原さんとだったら、親の介護も一緒に頑張って行けそうだし」

 えっ、一緒にって......?
 結婚って事?

「あの、私そんなまだ......」

 自分はまだ30代前半だ。
 一昔前なら、売れ残りだのオールドミスなどという言葉も有ったようだが、今は、男女とも結婚年齢が遅くなっていて、生涯独身という人だって多い世の中だ。

「もう30も半ばでしょう、あなただって。出産とか考えているなら、もうとっくに焦ってもいい状態よ!結婚したら、お仕事辞めて専業主婦でいいわよ。家の事も大変だし、私は、あなたを気に入っているし、上手くやっていけるわ、私達」

 勝手にそんな風に話を進められても!
 家の事って、目の見えない伴侶の世話と、要介護の義祖母の世話?
 仕事なんか出来なくて当然じゃない!
 専業主婦で許してあげるみたいな恩着せがましい言い方は、何なの?
 
「私、まだ、結婚とか考えて無くて......」

「あなたのような容姿の人は、結婚を考え出してからでは手遅れよ!こうして、良い話が有るうちに承諾しておかないと、後で後悔する事になるわよ!」

 私の人生をこの女性上司に勝手に決められて、目の見えない息子や要介護のお姑さんの世話を私に押し付けようとしているようにしか思えない!

「後悔する事になるとしても、構わないです!私は、まだ自分から、結婚に飛び込む心の準備は出来てません」

「強情ね!自分の姿、鏡でよく見た事有るのかしら?後で泣きついても遅いわよ!」

 もうこの家にいても、無駄でしかないと思い、まだ食事が始まってもいなかったが、慌てて飛び出した。

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