終わりの時を貴方と一緒に

ゆりえる

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久しぶりの休日が

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その日は6日連続出勤後の休日で、何も知らず、昼過ぎまで寝ていた河西成茂なりしげは、インターホンの音で目覚めた。
 本当は、まだ寝ていたかったが、せっかくの休日が残り少なくなる事はもったいない気もしてベッドから起き上がった。
 インターホンの画像を見ると、職場の2つ年下のマドンナ的存在の阿部寿美香すみかの顔が映っていた。
 まだ夢の続きでも見ているのかと思い、頭を軽く片手で叩いたが、夢ではない事に気付いた。
 慌てて、寝癖の頭を両手でサッと整え、鏡で、よだれ痕や目ヤニが無いかチェックし、ドアを開けた。

「阿部さん、どうしたの?今日、仕事は?」

 お気に入りの寿美香が今日、仕事が入っている事はシフト表で確認済みだった成茂。

「休みになりました。河西さんって、お付き合いしている人がいるんですか?」

 唐突に思いがけない事を質問され、驚く成茂。

「付き合っている人なんていないけど」

 好きな人はいるとまでは、その時に言えなかった成茂。
 寿美香の事はお気に入りでは有るが、成茂には、福田瑛美えいみという同い年の意中の女性がいた。

「お付き合いしている人がいないんでしたら、私とお付き合いして下さい!ずっと河西さんの事が好きでした!」

 普段見た事も無い思い詰めたような寿美香の表情。
 エイプリルフールなら、とうに過ぎている。
 職場のマドンナからの告白とはいえ、こんな切羽詰まったような告白は、あまり真実味が感じられず困惑を隠せない成茂。

「告白は嬉しいけど、阿部さん、落ち着いて!これは、罰ゲームとかではないよね?」

「河西さん、ヒドイです!私が罰ゲームに負けて、おずおずと河西さんの家を訪ねて告白したとでも思っているんですか?」

 そうでもないと勤務中のはずの寿美香が、わざわざここまで来て自分に告白などするだろうか?それとも何か別のイベント事が社内で有ったのだろうか?寝起きの回転の悪い頭であれこれ考えを巡らせた。

「悪いけど、今、起きたばかりで、まだ夢うつつで頭が回らないんだ」

「今、起きたばかりって事は、まだ河西さんは知らないんですね!」

 自分と違い、成茂が落ち着いているのも納得出来た寿美香。

「知らないって、何か有ったのか?」

「チリ沖に小惑星が衝突して、その衝撃波で、既に南半球はほとんど水没したんです!10時間もしないうちに、日本にも大津波が何度も襲って、ここも水没する事になるんです!」

 寿美香の言葉に耳を疑った成茂。

 そんな重大な事を知らずに、自分は暢気に昼過ぎまで寝惚けていたのかと思い、寝ていた時間を取り返したいほど後悔した成茂。

「あと10時間も無いのか......」

「外はアメリカ映画のような無法地帯になってます。今までがどんなに平和だったかと実感させられるくらいに」

 そんな中、危険を冒してまで、自分を慕って尋ねて来てくれた寿美香なのだから、残り時間かけて守りたいと思った成茂。

 職場のマドンナである寿美香だが、今までは自分の中では瑛美の次点だった。
 好きな人にランクを付けていたという自分が愚かしく感じるくらい、最後の時に自分を選んで駆け付けてくれた寿美香が愛おしく感じられ、気持ちに答えたく思えた成茂。
 同期の瑛美は恋愛体質で、自分の知っている社員の中でも、今まで付き合って来た相手は5人はいた。
 自分も飲み会など、何度か瑛美を口説いた事は有ったが、いつもタイミング悪く、新しいパートナーと付き合い始めたホットな時期ばかりで相手にされなかった。

  この期に及んで、その瑛美が、寿美香のように自分を一途に慕って尋ねるような事が到底有るとは思えない。
 それならば、残された時間を寿美香の想いに応えるのが正道と思われた。
 例え嘘をついてでも、寿美香と幸せな最後の時を過ごそう。
 あと10時間くらい嘘をつき通すのは、成茂には容易に思えた。

「実は、俺も、阿部さんが入社した時からずっと、阿部さんの事が好きだった」

 取って付けたようなぎこちない言い方だったが、こんな時だから、動揺しているのだと思った寿美香。

「本当ですか?河西さんは、てっきり、福田さんが好きなんだと思っていたので」

「彼女は同期で、色々話しやすいだけで、俺が、好きなのは阿部さんなんだ」

「嬉しい!私の事は、寿美香って呼んで下さい。私も、成茂さんって呼びます」
 
 残り時間が少ないから、普通の付き合い始めた恋人同士よりも、進展が早くても当然だ。
 躊躇う事無く寿美香は抱き付き、成茂も抱き締めてから、唇を合わそうとした瞬間、再びインターホンが鳴った。
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