1 / 7
短編小説集「春を待たずに」片山行茂
【Eraser】
しおりを挟む
ピピピピ ピピピピ ピピピピ
手探りで目覚まし時計のアラームを止め、ゆっくり目を開けると見知らぬ部屋の天井が見えた。
ベッドから、むっくり上半身を起こすと、やけに頭が痛む。
「あれ?此処は、いったいどこだろう?」
白い壁に大きな絵が掛けられただけの、とても殺風景な部屋、かと言って病室という訳でもなさそうだ。
目覚まし時計は8時00分を指し、カーテンの隙間からは明るい空が覗いている。
ぼんやりとした頭のまま、辺りを見渡していると部屋のドアが開き、1人の女が部屋に入って来た。
「おはようございます」
「えっ?」
「あ、驚かしちゃいましたね。ぐっすり眠れましたか?」
「あ、えっと、あの・・・?」
「慎一郎さん。今日は、とっても良い天気ですよ、お昼からお出掛けしましょうね」
「はい?えっと・・・?」
名前を呼ばれて、とても不思議に思った。
少し嫌悪感を抱く僕を見て、女はフフフと笑っている。
「誰、慎一郎って・・・?」
「はい、あなたの名前ですよ、慎一郎さん。」
「僕の名前?」
「はい、苗字が戸田で、名前が慎一郎です。」
何だか急に怖くなって、僕はベッドから慌てて飛び出そうとした。
「慎一郎さん、じっとしておいて下さい」
「いや、でも、ちょっと!」
「朝は、とにかくゆっくりしてください!」
押さえ付けようとする女の手を振り解くように、僕は激しく言った
「あなた誰?!僕は、どうしてここに?それに、慎一郎って誰だよ?」
「慎一郎は、あなたの名前です」
「いや・・知らないし!」
「そして、ここはあなたのお家です」
女は、まるで子供を諭すかのように、とても優しい声でそう言う。
「え?本当に意味がわからないし」
「とにかく少し落ち着いてください」
「落ち着くも何も・・・イテッ!」
激しい頭痛がして僕は、ベッドに座り込んだ。
「大丈夫ですか?!」
「一体、僕に何をしたんだ?!」
「朝ごはんの支度が出来てますから、一緒に食べましょう。」
確かに腹は減っている、扉の向こうから美味しそうな匂いも漂ってくる。
「食事をし終えたら、ちゃんとゆっくり説明します」
そう言って女は、クローゼットから部屋着のスエットとタオルを差し出した。
「さぁ、こちらに着替えて顔を洗ったらリビングの方へ」
とても頭が混乱したが、毅然とした女の態度に圧倒され、僕はひとまず着替えをする事にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
洗面台の鏡に映る自分はとても疲れた顔をしていた、少し目尻に皺が増えたなと思う。
渡された新品の歯ブラシを使いながら、様々な記憶を辿るが何も分からない。
タオルで顔を拭き、リビングに出ると白いテーブルの上には美味しそうな朝食が並んでいた。
焼き鮭、出汁巻きに、金平牛蒡、薄揚げの入ったお味噌汁、そして赤かぶのお漬物。
案内されるまま席に座ると、炊き立てのご飯が目の前に出された。
とても良い匂いがする。
「納豆も食べますか?」
「あ、いや・・」
「それじゃ、頂きます」
女は、笑顔で手を合わせ、僕の前に並ぶ同様の料理に箸を付けていく。
暫くそれを見ていたが特に変わった様子は無い。
「フフフ、さぁ早く冷めないうちに、毒なんか入ってないですから」
「あ、はい・・・頂きます」
思った以上に空腹だったようだ、ご飯のお代わりまで綺麗に平らげてしまった。
「ご馳走さまでした」
「じゃあ、次はこのお薬を飲んでください」
「薬?」
「はい、慎一郎さんの心のお薬です」
「あの、心の薬って?」
すると、女は立ち上がりカウンターの上から小さな写真立てを僕に持って来た。
「え?これは?!」
「去年の夏です」
見覚えの無いその写真には、笑顔の僕とその女が並んで写っている。
「なんだか、よく分からないな、何か狐につままれたような気分だ」
「そうですよね」
その笑顔に少しイライラした、騙されているような気持ちが心に充満してくる。
「そうですよねって!!?ところで、貴女はいったい誰ですか?」
「私は、真実"しんじつ"と書いて、まさみといいます」
「まさみ・・・さん?」
女は予めテーブルに置いてあったスケッチブックを見せる、そこには戸田慎一郎と真実という文字が並ぶ、
そしてそれを指で囲みながら言った。
「そして、私とあなたは夫婦なんです」
「え?!」
彼女は僕の左手を取り、自分の手と並べて見せた、2人の薬指には同じ指輪が嵌められていた。
僕は慌てて立ち上がる。
「いやいやいや、ちょっと待ってよ・・・」
「慎一郎さん、慌てないで、大丈夫です」
頭痛は一段と酷くなっていた、目眩がして僕はもう一度椅子に腰を落とす。
「僕は、誰ですか?あなたは誰ですか?そして此処は、一体どこですか?」
「薬を飲めば、必ず落ち着きますから。まだ夜まで時間はたっぷりありますから」
そう言って女は薬と水を僕に差し出した。
自暴自棄に陥いるように、僕はその薬と水を一気に飲んだ。
もし、これが毒ならば、これでいっそ死にたいと思ったからだ。
しかし残念ながら、これは毒薬では無かったようだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ソファに深く腰を掛けてリビングの天井をぼんやりと見つめる。
女の言う通り、薬のお陰か少しだけ不安な気持ちが和らいで来た。
自分の名前が慎一郎なのか分からないが、だからと言って本当の名前も分からない。
静かに傍にいるこの女も、初対面としか思えないが何かを企んでいるようにも思えない。
一体どうしたと言うのだろう?
いつの間にか時計は10時を過ぎていた。
女がふと口を開く
「イレイザー症候群」
「え?」
「あなたの病の名前です」
「消しゴムって事?」
「はい、先生はそう言ってました。過度の記憶喪失だそうです」
「記憶喪失?俺が??」
「断片的だったり、長期的だったり、記憶が消し去られてしまうの」
「そんな事って?!!」
「信じられないでしょうけど、とにかく落ち着いて」
「あぁ・・・」
「じゃあ、まずは、ビデオを見ましょう」
女がテレビを付けスイッチを押すとビデオが流れ始める、そこにはソファに腰掛ける僕とその女がいた。
ビデオの僕が静かに口を開く
「おはよう。えっと・・・きっと信じられないと思うけれど、僕は君・・・つまり昨夜の慎一郎です」
「慎一郎さん、おはよう、真実です。あなたのリクエストで赤かぶのお漬物と厚揚げのお味噌汁を
用意したのよ、朝ごはんは美味しかった?」
ビデオは10分程度だっただろうか?
まるで日記のように1日の出来事を振り返るように僕は僕に教えてくれた。
ビデオの僕の声は泣き声みたいに少し震えていた、無理して明るく振る舞っているようだ。
隣にいる彼女は、うんうんと笑顔で静かに頷いている。
最後にビデオの僕はこう締め括った。
「だから、慎一郎。今日も"まさみ"の言葉をしっかりと心に焼き付けて幸せな思い出を残すんだぞ」
「それじゃ、ご機嫌よう」
そう言いながら手を振る2人、そこでビデオは切れた。
まさみと呼び捨てにした時の微妙な空気が、青臭いというか見ていてとても恥ずかしい。
「はい。という事です」
「僕は、慎一郎、貴女は僕の奥さんで"真実"・・さん」
「はい、そうです。妻の真実です。今日も宜しくお願いします」
そう言って笑う、彼女はとても綺麗だった。
「それじゃあ、一緒にお散歩しましょう」
彼女はそう言いながら、にっこりと僕の手を掴んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
秋空の下、並んで銀杏並木の遊歩道をゆっくりと歩く。
彼女は、2人の出会いからこれまでの事を詳しく丁寧に教えてくれた。
2人の出会いから結婚に至るまでには、2度の別れがあり、
3度目の泣き落としに近い、僕の熱烈なプロポーズで彼女はゴールインを決めたという。
その中身だけでも30分ほど話は続いたが、まるで過去の自分が恥ずかしくて、信じられなかったし、
信じたくも無かった。
その後は、結婚してからの事になる。
僕の仕事は、絵描きでその収入で2人は生活しているらしい。
大学で絵を専攻した僕は、卒業して4年くらい普通にサラリーマンをしていたが、絵のコンクールで
入賞を果たし、会社も辞めて次第に画家として生計を立てれるようになったという。
最初の内は、彼女が生活費の殆どを稼いでくれていた事は間違いなさそうだ。
そして、今では年に数回個展を開いたり、絵本や小説などの挿絵を描いたり、インターネットで
絵を通信販売したりしているらしい。
絵を描く以外の事は、全て彼女がマネージャーとして切り盛りしてくれていると言うこと。
携帯で公式ホームページのWEB画面を開き、販売中だという幾つかの絵も見せてくれた。
「この絵は、私の一番のお気に入りなの」
そう言って見せてくれた絵は、何処かの外国の街並みを切り取った風景画だった。
「2人で行ったパリのホテルの窓からの風景なのよ」
言われて見ると確かに見覚えがある気がした。
「だからね、これは私の宝物として手放さない事にしているの」
そう言ってまた彼女はフフフと嬉しそうに笑った。
時刻はお昼に差し掛かり、街に出ると小さなカフェに行き着く。
「今日は此処でお昼にしましょう。此処にも、慎一郎さんの絵が飾ってあるのよ」
店に入ると奥の壁に幾つか絵が飾られていた。
どれひとつとして見覚えは無かったが全て僕が描いたものらしい。
「マスター、いつものやつをお願いします」
そう言ってテーブルに届いたのはトマトクリームスパゲティとバケットだった。
これがいつものヤツと言われると、やはり分からないが、とても美味しい。
マスターも店員もとても愛想がよく微笑み掛かるが、何かを問いかけるでも無く、淡々と2人の時間は
過ぎて行く。
「どうでしょう?今日は絵が描けそう?」
そう問いかける彼女に僕は何となく首を縦に振った。
「絵が描けるのかどうか・・・正直いうと分からないけど、自分が本当に絵描きなのかを確かめたいんだ」
「そう。じゃあ、このままアトリエに行きましょうか?」
「あぁ」
「アトリエは、ここから歩いて10分くらいのところにあるのよ」
会計を済ませ外に出ると心地よい風が頬をかすめる。
彼女に言われるままに僕は知らない道を付いていった。
その間も、彼女は2人の間にあった色々なエピソードを話してくれる。
暫くすると、雑居ビルの下についた。
「このビルの3階にあなたのアトリエがあるのよ」
3階のフロアに出ると細い廊下があって幾つかの扉が見える。
廊下を進むとそのひとつの扉に"Atelier Toda"という木のプレートが掲げられていた。
「はい、どうぞ」
扉の鍵を開き、彼女が手を差し伸べる。
恐る恐るアトリエに入ると独特の匂いがした。
沢山のキャンバスは乱雑に立て掛けられ、それぞれに白い布が掛けられている。
「ここでもう10年近く、慎一郎さんは絵を描き続けているのよ」
「へぇ、なんだか信じられないな」
「イーゼルに立てられものは、製作途中のもの」
立てられたイーゼルの白い布を彼女が順番に外すと、その3枚目に肖像画があった。
「これは・・・?」
「そう、あなたが去年の結婚記念日から描きはじめた私の絵です」
「結婚したのは、確か6月って言ってたから、1年経ってもまだ完成してないって事・・・」
「まぁ、それは、ゆっくりで良いのよ」
僕は暫くその絵を見つめた後に言った。
「良かったら、今から続きを描いても良い?」
「え?あ、う、うん。それじゃお願いします」
油絵具をパレットに乗せ、絵筆になじませる。
そして椅子に腰掛ける彼女を見つめ、僕は新たに色をキャンバスに乗せ始めた。
確かに、この感覚は覚えている。
僕は没頭するようにいくつかの色をキャンバスに乗せていった。
彼女は何も言わず、ただ笑顔でこちらを見ている。
「ねぇ、僕がこの病気に罹ったのはいつから?」
「それは・・・3年くらい前かな?」
「そうなんだ・・・でも、今日の事は、まだ全て覚えているよ」
「そうね、今日は調子が良さそうね」
その時、頭に鈍痛が響いた。
「ごめん、少しトイレに行って来るよ」
「大丈夫?」
「うん、おしっこしたくなって」
「扉を出て右に行って、突き当たりを左に行けば共同トイレがあるわ」
「わかった」
扉を開けて長い廊下を進む、用を済ませトイレを出ようとした瞬間、衝撃が僕に走る。
「あれ?」
白く長い廊下、そのどこに向かえば自分のアトリエに戻れるのか分からないのだ。
僕はとてつもない恐怖を感じそこに座り込んでうめき声をあげた。
「あぁ!あぁ!・・うわぁぁぁあ!!」
「慎一郎さん!!!」
廊下の向こうから彼女が駆け寄って来るのが分かった。
「慎一郎さん!しっかりして、大丈夫ですか?!」
彼女に肩を抱かれながら意識が薄れて行くのがわかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目が覚めると寝室のベッドに横たわっていた。
すぐ隣で、妻の真実が心配そうに顔を覗き込んでいる。
「気がついたのね?良かった!」
安堵の表情を浮かべた真実の目には涙が溜まっていた。
「真実・・・ごめんね」
記憶は消されていない。
真実は、より一層、安心した顔をみせた。
トイレで気持ち悪くなった事もちゃんと覚えていた。
「カフェのマスターが迎えに来て、車で家まで送ってくださったのよ。
先生にもお越し頂いて特に心配はないみたい。取り敢えず、薬を用意しているから飲んでください。」
「どうも、有難う。本当にごめん。」
「ううん」
首を横に振る真実の目と鼻は、泣き腫らしたように真っ赤だった。
「今、何時かな?」
「もうすぐ10時過ぎるところ」
「俺、随分と眠ってしまったんだね」
「お腹空いていると思うんだけど・・夜8時以降の食事は先生に止められているのよ」
「いや、大丈夫。今日はこのまま眠るよ」
「うん、そうしましょう。きっと薬も効いて来ると思うわ」
「君の絵を完成させたかったな・・・」
「フフフ・・・また明日描いてください」
「そうだね」
僕は、ゆっくり目を閉じたが、大切な事を思い出した。
「ねぇ。今日は、ビデオは撮らなくて大丈夫?」
「大丈夫!今日はかなり疲れただろうし、ビデオも必ず毎日撮れる訳じゃないのよ」
「そうか。でも、ビデオが無いと明日の朝、また大変なんじゃない?」
「そこは、私に任せてください」
「明日、目が覚めて今日の事、全て覚えてたら良いな」
「そうだと良いね。あ、それでね!」
寝室に飾られた絵を真実が指さす。
「ほら見て、これがお昼に話したパリの窓から景色よ」
「へぇ、そうかこれが・・・君が大切だと言ってくれた2人の思い出の絵だ」
「また、いつか2人で行けると良いなぁ」
「真実・・・」
「ん?何?あ、ごめんなさい」
「いや、何て言うか・・・その・・・」
「何?どうしたの?」
「君は」
『こんな僕と居て、本当に幸せかい?』
シンクロするように僕と真実は同じ言葉を言った。
きっと僕はこれまで何度もこの言葉を吐いたのだろう。
そして真実は、一呼吸置いて言った。
「私は毎日あなたといて、それだけでとても幸せよ」
「本当に?」
「うん、本当に。慎一郎を愛しているから」
そう言って真っ直ぐに真実は僕の目を見つめた。
だから、もうこれ以上、何も言うまいと思った。
こんなにも妻を愛しいと思える瞬間が、一生で何度あるのだろうか?
そう思うと心が震えて涙が溢れそうになった。
「ねぇ、明日の朝も、お魚が良い?」
「え?」
「秋刀魚があるの」
「うん、秋刀魚食べたいなぁ」
「お味噌汁は?」
「豆腐が良いかな」
「畏まりました」
「それじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
暫くすると真実は、穏やかな表情で寝息を立て始めた。
出来れば、この顔を眠らずに見つめていたいと思ったが、さっきの薬が効いてきたようだ。
静かに、ゆっくりと、暗闇が僕を支配していく。
眠りにつくその瞬間まで僕は心の中で妻の名前を繰り返していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ピピピピ ピピピピ ピピピピ
手探りで目覚まし時計のアラームを止めて薄目を開ける。
ベッドから、むっくりと上半身を起こすと、頭がやけに痛んだ。
ゆっくりと僕は、殺風景なその部屋を見渡した。
「あれ・・・ここは、何処だ??」
見慣れない部屋、驚きながら見渡していると、扉を開けて1人の女が笑顔で部屋に入って来る。
僕は驚いて大声をあげた。
「うわっ!ちょっと!何?あなた誰ですか?」
女は、明るい笑顔のままで僕に、こう言った。
「おはようございます、慎一郎さん。今日もとっても良い天気ですよ。」
<Fin>
手探りで目覚まし時計のアラームを止め、ゆっくり目を開けると見知らぬ部屋の天井が見えた。
ベッドから、むっくり上半身を起こすと、やけに頭が痛む。
「あれ?此処は、いったいどこだろう?」
白い壁に大きな絵が掛けられただけの、とても殺風景な部屋、かと言って病室という訳でもなさそうだ。
目覚まし時計は8時00分を指し、カーテンの隙間からは明るい空が覗いている。
ぼんやりとした頭のまま、辺りを見渡していると部屋のドアが開き、1人の女が部屋に入って来た。
「おはようございます」
「えっ?」
「あ、驚かしちゃいましたね。ぐっすり眠れましたか?」
「あ、えっと、あの・・・?」
「慎一郎さん。今日は、とっても良い天気ですよ、お昼からお出掛けしましょうね」
「はい?えっと・・・?」
名前を呼ばれて、とても不思議に思った。
少し嫌悪感を抱く僕を見て、女はフフフと笑っている。
「誰、慎一郎って・・・?」
「はい、あなたの名前ですよ、慎一郎さん。」
「僕の名前?」
「はい、苗字が戸田で、名前が慎一郎です。」
何だか急に怖くなって、僕はベッドから慌てて飛び出そうとした。
「慎一郎さん、じっとしておいて下さい」
「いや、でも、ちょっと!」
「朝は、とにかくゆっくりしてください!」
押さえ付けようとする女の手を振り解くように、僕は激しく言った
「あなた誰?!僕は、どうしてここに?それに、慎一郎って誰だよ?」
「慎一郎は、あなたの名前です」
「いや・・知らないし!」
「そして、ここはあなたのお家です」
女は、まるで子供を諭すかのように、とても優しい声でそう言う。
「え?本当に意味がわからないし」
「とにかく少し落ち着いてください」
「落ち着くも何も・・・イテッ!」
激しい頭痛がして僕は、ベッドに座り込んだ。
「大丈夫ですか?!」
「一体、僕に何をしたんだ?!」
「朝ごはんの支度が出来てますから、一緒に食べましょう。」
確かに腹は減っている、扉の向こうから美味しそうな匂いも漂ってくる。
「食事をし終えたら、ちゃんとゆっくり説明します」
そう言って女は、クローゼットから部屋着のスエットとタオルを差し出した。
「さぁ、こちらに着替えて顔を洗ったらリビングの方へ」
とても頭が混乱したが、毅然とした女の態度に圧倒され、僕はひとまず着替えをする事にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
洗面台の鏡に映る自分はとても疲れた顔をしていた、少し目尻に皺が増えたなと思う。
渡された新品の歯ブラシを使いながら、様々な記憶を辿るが何も分からない。
タオルで顔を拭き、リビングに出ると白いテーブルの上には美味しそうな朝食が並んでいた。
焼き鮭、出汁巻きに、金平牛蒡、薄揚げの入ったお味噌汁、そして赤かぶのお漬物。
案内されるまま席に座ると、炊き立てのご飯が目の前に出された。
とても良い匂いがする。
「納豆も食べますか?」
「あ、いや・・」
「それじゃ、頂きます」
女は、笑顔で手を合わせ、僕の前に並ぶ同様の料理に箸を付けていく。
暫くそれを見ていたが特に変わった様子は無い。
「フフフ、さぁ早く冷めないうちに、毒なんか入ってないですから」
「あ、はい・・・頂きます」
思った以上に空腹だったようだ、ご飯のお代わりまで綺麗に平らげてしまった。
「ご馳走さまでした」
「じゃあ、次はこのお薬を飲んでください」
「薬?」
「はい、慎一郎さんの心のお薬です」
「あの、心の薬って?」
すると、女は立ち上がりカウンターの上から小さな写真立てを僕に持って来た。
「え?これは?!」
「去年の夏です」
見覚えの無いその写真には、笑顔の僕とその女が並んで写っている。
「なんだか、よく分からないな、何か狐につままれたような気分だ」
「そうですよね」
その笑顔に少しイライラした、騙されているような気持ちが心に充満してくる。
「そうですよねって!!?ところで、貴女はいったい誰ですか?」
「私は、真実"しんじつ"と書いて、まさみといいます」
「まさみ・・・さん?」
女は予めテーブルに置いてあったスケッチブックを見せる、そこには戸田慎一郎と真実という文字が並ぶ、
そしてそれを指で囲みながら言った。
「そして、私とあなたは夫婦なんです」
「え?!」
彼女は僕の左手を取り、自分の手と並べて見せた、2人の薬指には同じ指輪が嵌められていた。
僕は慌てて立ち上がる。
「いやいやいや、ちょっと待ってよ・・・」
「慎一郎さん、慌てないで、大丈夫です」
頭痛は一段と酷くなっていた、目眩がして僕はもう一度椅子に腰を落とす。
「僕は、誰ですか?あなたは誰ですか?そして此処は、一体どこですか?」
「薬を飲めば、必ず落ち着きますから。まだ夜まで時間はたっぷりありますから」
そう言って女は薬と水を僕に差し出した。
自暴自棄に陥いるように、僕はその薬と水を一気に飲んだ。
もし、これが毒ならば、これでいっそ死にたいと思ったからだ。
しかし残念ながら、これは毒薬では無かったようだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ソファに深く腰を掛けてリビングの天井をぼんやりと見つめる。
女の言う通り、薬のお陰か少しだけ不安な気持ちが和らいで来た。
自分の名前が慎一郎なのか分からないが、だからと言って本当の名前も分からない。
静かに傍にいるこの女も、初対面としか思えないが何かを企んでいるようにも思えない。
一体どうしたと言うのだろう?
いつの間にか時計は10時を過ぎていた。
女がふと口を開く
「イレイザー症候群」
「え?」
「あなたの病の名前です」
「消しゴムって事?」
「はい、先生はそう言ってました。過度の記憶喪失だそうです」
「記憶喪失?俺が??」
「断片的だったり、長期的だったり、記憶が消し去られてしまうの」
「そんな事って?!!」
「信じられないでしょうけど、とにかく落ち着いて」
「あぁ・・・」
「じゃあ、まずは、ビデオを見ましょう」
女がテレビを付けスイッチを押すとビデオが流れ始める、そこにはソファに腰掛ける僕とその女がいた。
ビデオの僕が静かに口を開く
「おはよう。えっと・・・きっと信じられないと思うけれど、僕は君・・・つまり昨夜の慎一郎です」
「慎一郎さん、おはよう、真実です。あなたのリクエストで赤かぶのお漬物と厚揚げのお味噌汁を
用意したのよ、朝ごはんは美味しかった?」
ビデオは10分程度だっただろうか?
まるで日記のように1日の出来事を振り返るように僕は僕に教えてくれた。
ビデオの僕の声は泣き声みたいに少し震えていた、無理して明るく振る舞っているようだ。
隣にいる彼女は、うんうんと笑顔で静かに頷いている。
最後にビデオの僕はこう締め括った。
「だから、慎一郎。今日も"まさみ"の言葉をしっかりと心に焼き付けて幸せな思い出を残すんだぞ」
「それじゃ、ご機嫌よう」
そう言いながら手を振る2人、そこでビデオは切れた。
まさみと呼び捨てにした時の微妙な空気が、青臭いというか見ていてとても恥ずかしい。
「はい。という事です」
「僕は、慎一郎、貴女は僕の奥さんで"真実"・・さん」
「はい、そうです。妻の真実です。今日も宜しくお願いします」
そう言って笑う、彼女はとても綺麗だった。
「それじゃあ、一緒にお散歩しましょう」
彼女はそう言いながら、にっこりと僕の手を掴んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
秋空の下、並んで銀杏並木の遊歩道をゆっくりと歩く。
彼女は、2人の出会いからこれまでの事を詳しく丁寧に教えてくれた。
2人の出会いから結婚に至るまでには、2度の別れがあり、
3度目の泣き落としに近い、僕の熱烈なプロポーズで彼女はゴールインを決めたという。
その中身だけでも30分ほど話は続いたが、まるで過去の自分が恥ずかしくて、信じられなかったし、
信じたくも無かった。
その後は、結婚してからの事になる。
僕の仕事は、絵描きでその収入で2人は生活しているらしい。
大学で絵を専攻した僕は、卒業して4年くらい普通にサラリーマンをしていたが、絵のコンクールで
入賞を果たし、会社も辞めて次第に画家として生計を立てれるようになったという。
最初の内は、彼女が生活費の殆どを稼いでくれていた事は間違いなさそうだ。
そして、今では年に数回個展を開いたり、絵本や小説などの挿絵を描いたり、インターネットで
絵を通信販売したりしているらしい。
絵を描く以外の事は、全て彼女がマネージャーとして切り盛りしてくれていると言うこと。
携帯で公式ホームページのWEB画面を開き、販売中だという幾つかの絵も見せてくれた。
「この絵は、私の一番のお気に入りなの」
そう言って見せてくれた絵は、何処かの外国の街並みを切り取った風景画だった。
「2人で行ったパリのホテルの窓からの風景なのよ」
言われて見ると確かに見覚えがある気がした。
「だからね、これは私の宝物として手放さない事にしているの」
そう言ってまた彼女はフフフと嬉しそうに笑った。
時刻はお昼に差し掛かり、街に出ると小さなカフェに行き着く。
「今日は此処でお昼にしましょう。此処にも、慎一郎さんの絵が飾ってあるのよ」
店に入ると奥の壁に幾つか絵が飾られていた。
どれひとつとして見覚えは無かったが全て僕が描いたものらしい。
「マスター、いつものやつをお願いします」
そう言ってテーブルに届いたのはトマトクリームスパゲティとバケットだった。
これがいつものヤツと言われると、やはり分からないが、とても美味しい。
マスターも店員もとても愛想がよく微笑み掛かるが、何かを問いかけるでも無く、淡々と2人の時間は
過ぎて行く。
「どうでしょう?今日は絵が描けそう?」
そう問いかける彼女に僕は何となく首を縦に振った。
「絵が描けるのかどうか・・・正直いうと分からないけど、自分が本当に絵描きなのかを確かめたいんだ」
「そう。じゃあ、このままアトリエに行きましょうか?」
「あぁ」
「アトリエは、ここから歩いて10分くらいのところにあるのよ」
会計を済ませ外に出ると心地よい風が頬をかすめる。
彼女に言われるままに僕は知らない道を付いていった。
その間も、彼女は2人の間にあった色々なエピソードを話してくれる。
暫くすると、雑居ビルの下についた。
「このビルの3階にあなたのアトリエがあるのよ」
3階のフロアに出ると細い廊下があって幾つかの扉が見える。
廊下を進むとそのひとつの扉に"Atelier Toda"という木のプレートが掲げられていた。
「はい、どうぞ」
扉の鍵を開き、彼女が手を差し伸べる。
恐る恐るアトリエに入ると独特の匂いがした。
沢山のキャンバスは乱雑に立て掛けられ、それぞれに白い布が掛けられている。
「ここでもう10年近く、慎一郎さんは絵を描き続けているのよ」
「へぇ、なんだか信じられないな」
「イーゼルに立てられものは、製作途中のもの」
立てられたイーゼルの白い布を彼女が順番に外すと、その3枚目に肖像画があった。
「これは・・・?」
「そう、あなたが去年の結婚記念日から描きはじめた私の絵です」
「結婚したのは、確か6月って言ってたから、1年経ってもまだ完成してないって事・・・」
「まぁ、それは、ゆっくりで良いのよ」
僕は暫くその絵を見つめた後に言った。
「良かったら、今から続きを描いても良い?」
「え?あ、う、うん。それじゃお願いします」
油絵具をパレットに乗せ、絵筆になじませる。
そして椅子に腰掛ける彼女を見つめ、僕は新たに色をキャンバスに乗せ始めた。
確かに、この感覚は覚えている。
僕は没頭するようにいくつかの色をキャンバスに乗せていった。
彼女は何も言わず、ただ笑顔でこちらを見ている。
「ねぇ、僕がこの病気に罹ったのはいつから?」
「それは・・・3年くらい前かな?」
「そうなんだ・・・でも、今日の事は、まだ全て覚えているよ」
「そうね、今日は調子が良さそうね」
その時、頭に鈍痛が響いた。
「ごめん、少しトイレに行って来るよ」
「大丈夫?」
「うん、おしっこしたくなって」
「扉を出て右に行って、突き当たりを左に行けば共同トイレがあるわ」
「わかった」
扉を開けて長い廊下を進む、用を済ませトイレを出ようとした瞬間、衝撃が僕に走る。
「あれ?」
白く長い廊下、そのどこに向かえば自分のアトリエに戻れるのか分からないのだ。
僕はとてつもない恐怖を感じそこに座り込んでうめき声をあげた。
「あぁ!あぁ!・・うわぁぁぁあ!!」
「慎一郎さん!!!」
廊下の向こうから彼女が駆け寄って来るのが分かった。
「慎一郎さん!しっかりして、大丈夫ですか?!」
彼女に肩を抱かれながら意識が薄れて行くのがわかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目が覚めると寝室のベッドに横たわっていた。
すぐ隣で、妻の真実が心配そうに顔を覗き込んでいる。
「気がついたのね?良かった!」
安堵の表情を浮かべた真実の目には涙が溜まっていた。
「真実・・・ごめんね」
記憶は消されていない。
真実は、より一層、安心した顔をみせた。
トイレで気持ち悪くなった事もちゃんと覚えていた。
「カフェのマスターが迎えに来て、車で家まで送ってくださったのよ。
先生にもお越し頂いて特に心配はないみたい。取り敢えず、薬を用意しているから飲んでください。」
「どうも、有難う。本当にごめん。」
「ううん」
首を横に振る真実の目と鼻は、泣き腫らしたように真っ赤だった。
「今、何時かな?」
「もうすぐ10時過ぎるところ」
「俺、随分と眠ってしまったんだね」
「お腹空いていると思うんだけど・・夜8時以降の食事は先生に止められているのよ」
「いや、大丈夫。今日はこのまま眠るよ」
「うん、そうしましょう。きっと薬も効いて来ると思うわ」
「君の絵を完成させたかったな・・・」
「フフフ・・・また明日描いてください」
「そうだね」
僕は、ゆっくり目を閉じたが、大切な事を思い出した。
「ねぇ。今日は、ビデオは撮らなくて大丈夫?」
「大丈夫!今日はかなり疲れただろうし、ビデオも必ず毎日撮れる訳じゃないのよ」
「そうか。でも、ビデオが無いと明日の朝、また大変なんじゃない?」
「そこは、私に任せてください」
「明日、目が覚めて今日の事、全て覚えてたら良いな」
「そうだと良いね。あ、それでね!」
寝室に飾られた絵を真実が指さす。
「ほら見て、これがお昼に話したパリの窓から景色よ」
「へぇ、そうかこれが・・・君が大切だと言ってくれた2人の思い出の絵だ」
「また、いつか2人で行けると良いなぁ」
「真実・・・」
「ん?何?あ、ごめんなさい」
「いや、何て言うか・・・その・・・」
「何?どうしたの?」
「君は」
『こんな僕と居て、本当に幸せかい?』
シンクロするように僕と真実は同じ言葉を言った。
きっと僕はこれまで何度もこの言葉を吐いたのだろう。
そして真実は、一呼吸置いて言った。
「私は毎日あなたといて、それだけでとても幸せよ」
「本当に?」
「うん、本当に。慎一郎を愛しているから」
そう言って真っ直ぐに真実は僕の目を見つめた。
だから、もうこれ以上、何も言うまいと思った。
こんなにも妻を愛しいと思える瞬間が、一生で何度あるのだろうか?
そう思うと心が震えて涙が溢れそうになった。
「ねぇ、明日の朝も、お魚が良い?」
「え?」
「秋刀魚があるの」
「うん、秋刀魚食べたいなぁ」
「お味噌汁は?」
「豆腐が良いかな」
「畏まりました」
「それじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
暫くすると真実は、穏やかな表情で寝息を立て始めた。
出来れば、この顔を眠らずに見つめていたいと思ったが、さっきの薬が効いてきたようだ。
静かに、ゆっくりと、暗闇が僕を支配していく。
眠りにつくその瞬間まで僕は心の中で妻の名前を繰り返していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ピピピピ ピピピピ ピピピピ
手探りで目覚まし時計のアラームを止めて薄目を開ける。
ベッドから、むっくりと上半身を起こすと、頭がやけに痛んだ。
ゆっくりと僕は、殺風景なその部屋を見渡した。
「あれ・・・ここは、何処だ??」
見慣れない部屋、驚きながら見渡していると、扉を開けて1人の女が笑顔で部屋に入って来る。
僕は驚いて大声をあげた。
「うわっ!ちょっと!何?あなた誰ですか?」
女は、明るい笑顔のままで僕に、こう言った。
「おはようございます、慎一郎さん。今日もとっても良い天気ですよ。」
<Fin>
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる