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相葉悠一 編

第9話「ウソ」

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 はっきり言って、面倒くさい。
 どうして、忘れなかったのだろう。

 このまま忘れてたことにして、帰ってしまおうかと昇降口まで降りたとき、あの梅野に呼び止められた。

 佐々木センセーが、罰当番サボるなって、相葉見掛けたら言っとけって、じゃ、僕は帰るから頑張ってよと、まったく心のこもっていないエールを、梅野はオレに投げかけた。

 鼻唄混じりで去って行くやつの姿は、前日の理科室での一件を、オレに思い出させる。芋蔓式に前日の嫌な出来事が、頭をズンドコ行進していった。
  
 オレは溜め息をついた後、すぐ後悔した。その行為が、幸せを逃がすと囁かれていることが、脳裏に過ぎったからだ。
  
 いやいや図書室に向かうオレに、残暑特有の湿った空気が、さらに追い打ちを掛けて来た。

***
  
 その日も渡辺明日奈は、図書室の窓から外を眺めていた。

 なにをそんな真剣に見てるんだ?
 
 不思議に思っていると、渡辺がオレの気配に気が付いた。
  
「遅いっ」
「おまえだって外眺めて、さぼってんじゃんかっ」
  
 う、みっともない言い訳が、口を突いてしまった。オレが軽く反省しながら、渡辺が座っている向かいの席を引いた時、バツが悪そうに困惑した彼女の顔が視界に入った。

 そんな顔もするのかと、オレは軽く驚いていた。それを気取られないように、オレはすかさず質問した。
  
「で、今日はオレ、なにをすればいいわけ」
「今日は、昨日やった色分け表を見て、ラベルを作って欲しいの」
  
 渡辺は、すぐに普段通りに戻り、淡々とオレに指示してきた。

「ラベル?」
「ああ、図書室の本の表に、分類ラベルが貼ってあるでしょ。それよ」
「あれか」
 
「じゃあ、よろしくね」と、渡辺は席を立とうとする。
 
「え、おまえは?」 
「私は他にも仕事があるんですっ、相葉君みたいに、暇じゃないのっ」

 相変わらずの、人を見下した渡辺の態度に、イラッと来た。

「オレだって、暇じゃないよっ」
「暇でしょ? もう下校するだけなんでしょ」

 渡辺は、胡散臭そうに目を細めた。

「……バイト始めたから」

 とっさに出た言葉がそれだった。もちろんウソだ。

「今日から?」
「ああ」

 細い指先を薄い唇に宛がって、ジッと渡辺はしばらく考え込んでいた。

「もしかして、昨日のこと気にして?」
「は?」

 昨日のこととはなんぞや、とオレは記憶を巡らせた。

「お金をためて、女を買うって話よ」
「えぇぇっ? えっと、まあそんなとこ」

 なにを口走ってるんだオレは。うまい答えが見つからず、適当なことが口から出る。きっと呆れてるだろうと、渡辺の顔を上目使いでのぞいてみた。

「そんなにしたいんだ。ふーん、まあ頑張れば。でも手伝いはきっちりやってよねっ。適当にやってると、佐々木先生に言いつけるわよっ」

 渡辺は、汚い物を見るようにオレをさげすみながら、返却カウンターの方に消えて行った。

 最悪。昨日に続いて、今日までも。
 
  
つづく
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