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渡辺明日奈 編
第49話「駅へ」
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「諦めないわっ」
私は、今度は迷うことなく即答した。
――今度?
以前にもこんな質問を、どこかでされた気がする。そんなことを考えていたら、赤いバラがウキウキと話し出した。
「あら素敵っ。その一途な“情熱”、嫌いじゃないわ」
赤いバラは、風もないのに陽気に揺れた。
「あの小高い丘を、ずっと進んだところにね、森へ行く汽車があるの。森の向こうに、なにか赤くて、不思議なものがあるって話よ。アテがないなら、行ってみたらいかが」
そのままずばり、本のある場所へは辿りつけないようだ。これじゃまるで、アドベンチャー、もしくはロールプレイングゲームね。
面白いじゃないっ。
いつもの私なら、もっとクールに無感動に、行動できるはずなのに、すっかりヤケになっていた。
クール? 無感動? 最近の私は、そうでもなかったか。
***
行けども行けども花畑。周りの景色が、まったく変わらない。まるで景色が、ループでもしているようだと思った。
本当に汽車なんて、運行しているんだろうか。あんな植物の言葉を、真に受けた自分に後悔していたころ、丘を登りきったところから向こう側は、清々しく青い草原が広がっていた。
花の甘い香りにウンザリしていた私は、一気に丘を駆け下りた。
加速した足は止まらず、息が切れるのも構わないで、滑るように草原を走った。途中ですっ転んでしまい、膝と肘を強く打ちつけてしまった。
でも気にならない。そのまま草原にしばらく仰向けで、倒れこみ空を眺めていた。
澄み切った青い空に、白く輝き流れていく雲。ずっと、ずっとこんな風に、寝転んでいれたらいいのに。
悲しいほどそう思った。
でも、そうはいかないのだ。仰向けの顔を仰け反らせてみると、キラッと何かが輝いた。向こうに銀色の線が二本確認できた。
***
銀色の線はやはり線路で、それに沿って歩いていくと、しばらくして小さな山小屋風の駅が見えた。
***
小さな駅にたどり着くと、レトロで重厚な黒い汽車が停まっていた。蒸気機関車というやつだろうか。初めてホンモノを見た。
博物館などでは見たことがあるが、こうやって煙突から煙をモクモクと上げている姿をみるのは、初めてだ。
すごい、圧巻だ。
驚いたことはそれだけではない。機関室後方の車内は満員だった。動物や昆虫で。
あまりぞっとしない光景だ。だが私は恐る恐る車内に乗り込み、空いている席に腰掛けた。
「切符を拝見っ」
ビクッとした。切符? やっぱり、切符がいるのか。切符なんて持ってないし、お金だってない。どうしよう。
「お客さん、切符は?」
車掌が苛立たしげに尋ねた。
「あ、切符は、その……」
「なんだい、持っているじゃないか。それ、そのスカートからはみ出している、赤いの」
「え?」
指差された先、今朝ロッカーに入っていた、あの赤い手紙が、スカートのポケットから、その姿をのぞかせていた。
「え、でも、これは……」
「いいから、早くっ」
私はためらいがちに、手紙を差し出した。車掌は事務的に手紙に判を押し、次の客の切符を確認していた。
切符って、これでいいの?
***
車窓の向こうに流れる景色は、どこまで行っても静かで退屈な平原で、私はウトウトしながら、それをただただ眺めていた。
しばらくすると、私は浅い眠りについていた。
つづく
私は、今度は迷うことなく即答した。
――今度?
以前にもこんな質問を、どこかでされた気がする。そんなことを考えていたら、赤いバラがウキウキと話し出した。
「あら素敵っ。その一途な“情熱”、嫌いじゃないわ」
赤いバラは、風もないのに陽気に揺れた。
「あの小高い丘を、ずっと進んだところにね、森へ行く汽車があるの。森の向こうに、なにか赤くて、不思議なものがあるって話よ。アテがないなら、行ってみたらいかが」
そのままずばり、本のある場所へは辿りつけないようだ。これじゃまるで、アドベンチャー、もしくはロールプレイングゲームね。
面白いじゃないっ。
いつもの私なら、もっとクールに無感動に、行動できるはずなのに、すっかりヤケになっていた。
クール? 無感動? 最近の私は、そうでもなかったか。
***
行けども行けども花畑。周りの景色が、まったく変わらない。まるで景色が、ループでもしているようだと思った。
本当に汽車なんて、運行しているんだろうか。あんな植物の言葉を、真に受けた自分に後悔していたころ、丘を登りきったところから向こう側は、清々しく青い草原が広がっていた。
花の甘い香りにウンザリしていた私は、一気に丘を駆け下りた。
加速した足は止まらず、息が切れるのも構わないで、滑るように草原を走った。途中ですっ転んでしまい、膝と肘を強く打ちつけてしまった。
でも気にならない。そのまま草原にしばらく仰向けで、倒れこみ空を眺めていた。
澄み切った青い空に、白く輝き流れていく雲。ずっと、ずっとこんな風に、寝転んでいれたらいいのに。
悲しいほどそう思った。
でも、そうはいかないのだ。仰向けの顔を仰け反らせてみると、キラッと何かが輝いた。向こうに銀色の線が二本確認できた。
***
銀色の線はやはり線路で、それに沿って歩いていくと、しばらくして小さな山小屋風の駅が見えた。
***
小さな駅にたどり着くと、レトロで重厚な黒い汽車が停まっていた。蒸気機関車というやつだろうか。初めてホンモノを見た。
博物館などでは見たことがあるが、こうやって煙突から煙をモクモクと上げている姿をみるのは、初めてだ。
すごい、圧巻だ。
驚いたことはそれだけではない。機関室後方の車内は満員だった。動物や昆虫で。
あまりぞっとしない光景だ。だが私は恐る恐る車内に乗り込み、空いている席に腰掛けた。
「切符を拝見っ」
ビクッとした。切符? やっぱり、切符がいるのか。切符なんて持ってないし、お金だってない。どうしよう。
「お客さん、切符は?」
車掌が苛立たしげに尋ねた。
「あ、切符は、その……」
「なんだい、持っているじゃないか。それ、そのスカートからはみ出している、赤いの」
「え?」
指差された先、今朝ロッカーに入っていた、あの赤い手紙が、スカートのポケットから、その姿をのぞかせていた。
「え、でも、これは……」
「いいから、早くっ」
私はためらいがちに、手紙を差し出した。車掌は事務的に手紙に判を押し、次の客の切符を確認していた。
切符って、これでいいの?
***
車窓の向こうに流れる景色は、どこまで行っても静かで退屈な平原で、私はウトウトしながら、それをただただ眺めていた。
しばらくすると、私は浅い眠りについていた。
つづく
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