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3rd round after
第49話「三周目〜また明日〜」
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裏手の道に面した階段――覚えがある。オレが転げ落ちた石階段だ。
オレはどこら辺だったかと、思い出そうとした。如月が「ちょっと、待ちなさいよっ」と声をかけながら追いかけていた。
「ここら辺か?」
「この電柱の、すぐ正面にあった筈なんだけど」
「何で如月は正確に場所が分かるんだ?」
「何でって、ここであんたが……」
そこまで言って、如月は急に口籠った。
「とにかく見当たらない以上、ないものはないんだし、私たち夢でも見てたのかもね」
「夢じゃねーよ。実際こんな訳が分からないことになってんだ、あの黒猫は絶対いたよ。前来た時も、随分探したんだ。何か、会うには条件があるのかも」
自分で言っておいて、オレはその閃きには説得力があると思った。
「あいつ自分を神様だって言ってたし、そう考えた方がポイだろ」
「そう言えばあの黒猫に会った時、鈴の音が、聞こえた気がしたのよ」
「鈴?」
そう言えばと、オレもその鈴の音に覚えがあった。確かにあの場所にたどり着く時、必ず鈴の音が鳴っていた気がする。
「それじゃ、その鈴の音が聞こえた時じゃないと、あいつに会えないのかもな。こっちからは、どうしようもないじゃんかっ」
神は気まぐれってやつか。あいつの気分次第ってことかよ。そう思いながら、暮れていく夕日にオレは目を遣った。もうすぐ日が沈んでしまう。
「あっ」
オレはさらにあることを思い出した。
「何?」
「そういえば、あいつと会う時いつも日が暮れてた気がする」
「確かに。私もそうだったかも。日が暮れるまで待ってみる?」
「ああ……」
日は落ちかけると、あっという間に暮れていく。オレたちはそのまま夕日を眺めながら、静かにその時を待った。
日が暮れた後もしばらくそこで待っていたのだが、鈴の音は聞こえてくることはなかった。オレは深夜まででも待つつもりでいたが、如月をこのままにはしておけないと思った。
「鈴の音も聞こえてこないし、猫も現れない。もう遅いから、送るよ」
「大丈夫よ。一人で帰れるから」
オレは、如月が消えてしまった時のことを思い出した。
「いや、送る。お前にまで消えられたら……」
あまりにオレが意気消沈しているように見えたのか、如月の口から発せられたのは、いつもの憎まれ口ではなかった。
「分かった。あんたも今日は、そのまま家に帰りなさいよ」
***
如月を送る為、二人で並んで歩く。オレは不思議な心持ちだった。祭りの日のことを考えると、まさかこんな日がくるなんて、思ってなかったからだ。もう二度と、彼女と関わることはないと思っていた。
一回目のフワフワした感情とも、三回目の虚しい気持ちとも違う。不思議な安心感のようなものを感じた。
「如月」
「何?」
「昼間のこと……ごめん」
「私は、謝らないわよ」
如月は冷ややかな表情ではっきりと呟いた。彼女の本性を知る今となっては「そうでしょうとも」と可笑しくなって、オレは自然と笑みが溢れた。
「でも、送ってくれてありがとう」
だからお礼を言われたことが意外だった。隣を歩いていた如月は、立ち止まっていた。その彼女の後ろに「如月」と書かれた表札が見える。こんなところに彼女の家はあったのか。
「それじゃ、また明日」
そう飄々と呟くと、彼女は玄関の先に消えていった。
オレはその『また明日』と言う言葉に、涙が溢れそうになった。
つづく
オレはどこら辺だったかと、思い出そうとした。如月が「ちょっと、待ちなさいよっ」と声をかけながら追いかけていた。
「ここら辺か?」
「この電柱の、すぐ正面にあった筈なんだけど」
「何で如月は正確に場所が分かるんだ?」
「何でって、ここであんたが……」
そこまで言って、如月は急に口籠った。
「とにかく見当たらない以上、ないものはないんだし、私たち夢でも見てたのかもね」
「夢じゃねーよ。実際こんな訳が分からないことになってんだ、あの黒猫は絶対いたよ。前来た時も、随分探したんだ。何か、会うには条件があるのかも」
自分で言っておいて、オレはその閃きには説得力があると思った。
「あいつ自分を神様だって言ってたし、そう考えた方がポイだろ」
「そう言えばあの黒猫に会った時、鈴の音が、聞こえた気がしたのよ」
「鈴?」
そう言えばと、オレもその鈴の音に覚えがあった。確かにあの場所にたどり着く時、必ず鈴の音が鳴っていた気がする。
「それじゃ、その鈴の音が聞こえた時じゃないと、あいつに会えないのかもな。こっちからは、どうしようもないじゃんかっ」
神は気まぐれってやつか。あいつの気分次第ってことかよ。そう思いながら、暮れていく夕日にオレは目を遣った。もうすぐ日が沈んでしまう。
「あっ」
オレはさらにあることを思い出した。
「何?」
「そういえば、あいつと会う時いつも日が暮れてた気がする」
「確かに。私もそうだったかも。日が暮れるまで待ってみる?」
「ああ……」
日は落ちかけると、あっという間に暮れていく。オレたちはそのまま夕日を眺めながら、静かにその時を待った。
日が暮れた後もしばらくそこで待っていたのだが、鈴の音は聞こえてくることはなかった。オレは深夜まででも待つつもりでいたが、如月をこのままにはしておけないと思った。
「鈴の音も聞こえてこないし、猫も現れない。もう遅いから、送るよ」
「大丈夫よ。一人で帰れるから」
オレは、如月が消えてしまった時のことを思い出した。
「いや、送る。お前にまで消えられたら……」
あまりにオレが意気消沈しているように見えたのか、如月の口から発せられたのは、いつもの憎まれ口ではなかった。
「分かった。あんたも今日は、そのまま家に帰りなさいよ」
***
如月を送る為、二人で並んで歩く。オレは不思議な心持ちだった。祭りの日のことを考えると、まさかこんな日がくるなんて、思ってなかったからだ。もう二度と、彼女と関わることはないと思っていた。
一回目のフワフワした感情とも、三回目の虚しい気持ちとも違う。不思議な安心感のようなものを感じた。
「如月」
「何?」
「昼間のこと……ごめん」
「私は、謝らないわよ」
如月は冷ややかな表情ではっきりと呟いた。彼女の本性を知る今となっては「そうでしょうとも」と可笑しくなって、オレは自然と笑みが溢れた。
「でも、送ってくれてありがとう」
だからお礼を言われたことが意外だった。隣を歩いていた如月は、立ち止まっていた。その彼女の後ろに「如月」と書かれた表札が見える。こんなところに彼女の家はあったのか。
「それじゃ、また明日」
そう飄々と呟くと、彼女は玄関の先に消えていった。
オレはその『また明日』と言う言葉に、涙が溢れそうになった。
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