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3rd round after
第77話「三周目〜真名〜」
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「マサムネ、マサムネいるんだろうっ。出てこいよ!」
斗哉の低く通る声が、神社裏に響いた。その声は、あたりの木々に吸い込まれていく。斗哉はじっと前を見据えた。
しばらくすると前方の木々が消えていき、長い石階段がフェードインし、上に伸びていく。この石階段には見覚えがある。忘れるわけがない。
「お前が、その名前を口にするなっ」
階段の上部付近から声がした。小さな黒い影が姿を現した。黒猫だ。斗哉はニヤリと口角を上げた。
***
「やっと会えたな、会いたかったよ」
「ボクはもう二度と会いたくなかったよ。そんなことより」
黒猫は石階段の上から、ギラッと斗哉を睨みつけた。
「どうしてお前が、その名前を知ってる」
「名前って、すごいな。呼ぶだけでそのものを支配できる。まるで呪いだ」
『名前』というのは、名付けられたものが、最初にこの世で受ける、縛りのような呪いなのだ。名前をつけられたものは、その名前に支配される。自分の名前を呼ばれれば反応してしまうだろ? そういうことだ。
「この神社の人が覚えてた。まさか本当の名前を呼ぶだけで、お前に会えるなんて思わなかったよ」
「その名前は生前の名前だ。今はマサムネじゃない」
「でもお前、呼ばれて出てきたじゃんか。この名前に未練があるってことだ」
斗哉は得意気に目を細めた。黒猫は対照的にさらに眉間に皺を寄せる。
「お前、本当に性格悪いな。さらに意地悪さに磨きがかかったんじゃないか」
黒猫はシャーツと威嚇するように吐き出したが、斗哉は意に介さない。
「性格の良し悪しをどう感じるかは、お前の主観だろ。太々しさに磨きもかかるさ、四ヶ月も耐えてきたんだ。マサムネ、聞きたいことがある……」
黒猫は背を伸ばし身構えた。
「如月はどこにいる?」
斗哉を黒猫は静かに睨みつけた。
「もうこの世にはいない。諦めろ。代償として消えたんだ。もう会うことはできない」
「……でも、死んだわけじゃないんだろ」
「命が終わっていようが、いまいが、別の世界のものは、見ることすらできないよ。それは死別と同じことだ」
黒猫の声があたりに低く響いた。斗哉はその言葉を聞き確信した。
「見ることはできない。でも『存在』してるってことだ?」
***
「諦めが悪いな。おんなじことなんだよ。存在してたって、違う世界の人間だ。幽世は、現世からは絶対見えないんだ」
「かくりよ?」
斗哉は馴染みのない言葉に、目を瞬かせた。
「現世とまったく違う時間軸で動いてる。というか幽世には時間は存在しないけど。永久に変わらない、因果律のない神域みたいなところだ」
斗哉はその時、フッと出雲の神域を思い出した。
「オレたち、お前を追いかけて神域に入ったことあるぞ」
「あそこは厳密には幽世とは違うよ。現世と幽世を繋ぐ、煉獄みたいなところだ。ごく稀に現世のものが迷い込むことがあるってだけだ」
「でも煉獄は幽世と繋がってるんだろ。だったら、ワンチャンあるだろっ」
黒猫は、斗哉のポジティブ思考にうわっと嫌そうに顔をしかめた。
「無理って言ってんじゃんっ。しつこいぞ!」
「無理や無茶は承知だよっ、絶対諦めないからな!」
黒猫と斗哉は顔を突き合わせて、睨み合った。乾いた風が凪いで、周囲の木々がざわめいた。
「……じゃあなんで、あの時オレを助けてくれたんだよ」
つづく
斗哉の低く通る声が、神社裏に響いた。その声は、あたりの木々に吸い込まれていく。斗哉はじっと前を見据えた。
しばらくすると前方の木々が消えていき、長い石階段がフェードインし、上に伸びていく。この石階段には見覚えがある。忘れるわけがない。
「お前が、その名前を口にするなっ」
階段の上部付近から声がした。小さな黒い影が姿を現した。黒猫だ。斗哉はニヤリと口角を上げた。
***
「やっと会えたな、会いたかったよ」
「ボクはもう二度と会いたくなかったよ。そんなことより」
黒猫は石階段の上から、ギラッと斗哉を睨みつけた。
「どうしてお前が、その名前を知ってる」
「名前って、すごいな。呼ぶだけでそのものを支配できる。まるで呪いだ」
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「この神社の人が覚えてた。まさか本当の名前を呼ぶだけで、お前に会えるなんて思わなかったよ」
「その名前は生前の名前だ。今はマサムネじゃない」
「でもお前、呼ばれて出てきたじゃんか。この名前に未練があるってことだ」
斗哉は得意気に目を細めた。黒猫は対照的にさらに眉間に皺を寄せる。
「お前、本当に性格悪いな。さらに意地悪さに磨きがかかったんじゃないか」
黒猫はシャーツと威嚇するように吐き出したが、斗哉は意に介さない。
「性格の良し悪しをどう感じるかは、お前の主観だろ。太々しさに磨きもかかるさ、四ヶ月も耐えてきたんだ。マサムネ、聞きたいことがある……」
黒猫は背を伸ばし身構えた。
「如月はどこにいる?」
斗哉を黒猫は静かに睨みつけた。
「もうこの世にはいない。諦めろ。代償として消えたんだ。もう会うことはできない」
「……でも、死んだわけじゃないんだろ」
「命が終わっていようが、いまいが、別の世界のものは、見ることすらできないよ。それは死別と同じことだ」
黒猫の声があたりに低く響いた。斗哉はその言葉を聞き確信した。
「見ることはできない。でも『存在』してるってことだ?」
***
「諦めが悪いな。おんなじことなんだよ。存在してたって、違う世界の人間だ。幽世は、現世からは絶対見えないんだ」
「かくりよ?」
斗哉は馴染みのない言葉に、目を瞬かせた。
「現世とまったく違う時間軸で動いてる。というか幽世には時間は存在しないけど。永久に変わらない、因果律のない神域みたいなところだ」
斗哉はその時、フッと出雲の神域を思い出した。
「オレたち、お前を追いかけて神域に入ったことあるぞ」
「あそこは厳密には幽世とは違うよ。現世と幽世を繋ぐ、煉獄みたいなところだ。ごく稀に現世のものが迷い込むことがあるってだけだ」
「でも煉獄は幽世と繋がってるんだろ。だったら、ワンチャンあるだろっ」
黒猫は、斗哉のポジティブ思考にうわっと嫌そうに顔をしかめた。
「無理って言ってんじゃんっ。しつこいぞ!」
「無理や無茶は承知だよっ、絶対諦めないからな!」
黒猫と斗哉は顔を突き合わせて、睨み合った。乾いた風が凪いで、周囲の木々がざわめいた。
「……じゃあなんで、あの時オレを助けてくれたんだよ」
つづく
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