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3 五月雨と蝉しぐれ
第4話
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「はぁん」
私は、しばらく向希の言ってる意味を理解するのに苦労したが、やがてピンときた。どうやら、向希は私よりもっと両親に離婚して欲しくないらしい。
向希は、この父と母の感情だけで繋がっている家族という覚束無い関係性を保つために、もうひとつのルートを開拓しようとしているってことか。
「うーん、向ちゃんそこまでしなくても良くない?」
私たちが結婚なんてしなくても、私は父と母が離婚してもこの父方の祖父母の家には堂々と来てやるくらいの図太さは持ちつづけるるつもりだった。
「今すぐじゃないよ、もちろん。親の二の舞は踏まない。あの二人は何もかも10年は早いから。今は、ほら、変だけど、付き合うってことになるのかな」
「だから、両親の問題を私たちがそこまで引き受けなくてもいいんじゃない? 私たちは私たちで。向ちゃんは向ちゃんで夢を叶えていいと思うよ」
「有ちゃん、何言ってんの?」
「両親が離婚しても、この家族の縁が切れないようにって考えたんでしょ? 確かにその方法は私には思いつかなかったから、向ちゃんさすがだね。でも、私は大丈夫だよ。結婚に夢はないけど、それなりに需要はあるし、いざとなったら婚活でもするし。多様性という意味では独身でも全然平気な世の中だと思う」
向希ははぁっとため息を吐くと、今度は思いっきり息を吸った。
「有ちゃん、俺は好きって言ってんの」
「家族に好きと言われても」
「有ちゃん、俺、ちゃんと告白してる」
そう言われても、信じられなくて、私は向希の気持ちを疑った。思春期独特の気の迷いか。本当に私を好きなのか、それともこの家族という繋がりを強化するための手段が感情として働いたのか。
「何で、また、そんなことを」
「まだ言うつもりなかったんだけどね、つい」
夏のせいかなと向希は少し顔を赤くした。
向希とこんなに話したのは、今年の夏が初めてだった。向希とは仲が悪くもないけど、良くもなかった。思春期の兄妹独特の気まずさと、実は他人だという気まずさを持ち寄る私たちはよそよそしい部分もあった。が、まさかだった。
「いつから好きなの? 本当に?」
だとしたら、少し不憫に思ってしまう。向希も父の影響を受けたのだろう。私が不細工かどうかも気付いていないのだから。
「一度、離れたからだと思う。何年かぶりに会うと全然違う女の子に見えて、そこから」
本気で?私はぱちくり向希をよく見ようと何度も瞬きをした。
「私も全然違う男の子に見えてるよ。えーっと、ここに来てから」
嫌味のつもりで言ったのに向希はニッと笑う。
「そう、じゃあ、考えてみてね」
私は向希に言われるがまま、考えてみた。
「あれ、向ちゃん。もう私が向ちゃんとの結婚受け入れる気でいたね?」
「うん。断る気?」
いや、選択肢として断るということはあって当然ではないだろうか。
「有ちゃん、彼氏いないじゃん。好きな人もいないじゃん」
言い切られたけど、事実なので反論はしない。出来ない。
「そうだけどさぁ、私は長く続く関係はしんどいというか」
「言っておくけど、俺とはどんな形であれ、一生縁が切れることは不可能だと思うよ」
「……うーん。でも……」
「有ちゃん、婚活っていうけどね。今は生涯独身の女性は15%近くいて、晩婚も進み、婚活ビジネスの市場規模は1800~2400億円とも言われるんだよ? お金かけて婚活。かけても結婚出来るかわからない。何とか結婚しても離婚する夫婦だって多い。俺たちの時代はもっとかもしれないよ? そんなみんなが苦労して苦労して結婚する時代に、有ちゃんはそんな労力から解放されてさ。先が約束されているということは、ということは、有ちゃんの労力は他のことに思いっきり使えるんだよ。そんな……相手がいるのは……よくない?」
途中までやっぱり向希って賢いなって思ったけど、雲行きが怪しくなってきて、語尾は小さくなって、ついには真っ赤になって俯いてしまった。それに追い討ちをかけるように、私は向希に言った。
「向ちゃん、私は別に結婚はしてもしなくてもどっちでもいい。多様性が認められる時代だよ」
「多様性という意味では俺たちだって受け入れられるべきだ。俺たちみたいな、家族だって」
向希の言う家族が父と母の夫婦を主体にしたものなのか、それとも私と新たに築くものを指すのか。どのみち、私たちのことに違いはなかった。
私は、しばらく向希の言ってる意味を理解するのに苦労したが、やがてピンときた。どうやら、向希は私よりもっと両親に離婚して欲しくないらしい。
向希は、この父と母の感情だけで繋がっている家族という覚束無い関係性を保つために、もうひとつのルートを開拓しようとしているってことか。
「うーん、向ちゃんそこまでしなくても良くない?」
私たちが結婚なんてしなくても、私は父と母が離婚してもこの父方の祖父母の家には堂々と来てやるくらいの図太さは持ちつづけるるつもりだった。
「今すぐじゃないよ、もちろん。親の二の舞は踏まない。あの二人は何もかも10年は早いから。今は、ほら、変だけど、付き合うってことになるのかな」
「だから、両親の問題を私たちがそこまで引き受けなくてもいいんじゃない? 私たちは私たちで。向ちゃんは向ちゃんで夢を叶えていいと思うよ」
「有ちゃん、何言ってんの?」
「両親が離婚しても、この家族の縁が切れないようにって考えたんでしょ? 確かにその方法は私には思いつかなかったから、向ちゃんさすがだね。でも、私は大丈夫だよ。結婚に夢はないけど、それなりに需要はあるし、いざとなったら婚活でもするし。多様性という意味では独身でも全然平気な世の中だと思う」
向希ははぁっとため息を吐くと、今度は思いっきり息を吸った。
「有ちゃん、俺は好きって言ってんの」
「家族に好きと言われても」
「有ちゃん、俺、ちゃんと告白してる」
そう言われても、信じられなくて、私は向希の気持ちを疑った。思春期独特の気の迷いか。本当に私を好きなのか、それともこの家族という繋がりを強化するための手段が感情として働いたのか。
「何で、また、そんなことを」
「まだ言うつもりなかったんだけどね、つい」
夏のせいかなと向希は少し顔を赤くした。
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「いつから好きなの? 本当に?」
だとしたら、少し不憫に思ってしまう。向希も父の影響を受けたのだろう。私が不細工かどうかも気付いていないのだから。
「一度、離れたからだと思う。何年かぶりに会うと全然違う女の子に見えて、そこから」
本気で?私はぱちくり向希をよく見ようと何度も瞬きをした。
「私も全然違う男の子に見えてるよ。えーっと、ここに来てから」
嫌味のつもりで言ったのに向希はニッと笑う。
「そう、じゃあ、考えてみてね」
私は向希に言われるがまま、考えてみた。
「あれ、向ちゃん。もう私が向ちゃんとの結婚受け入れる気でいたね?」
「うん。断る気?」
いや、選択肢として断るということはあって当然ではないだろうか。
「有ちゃん、彼氏いないじゃん。好きな人もいないじゃん」
言い切られたけど、事実なので反論はしない。出来ない。
「そうだけどさぁ、私は長く続く関係はしんどいというか」
「言っておくけど、俺とはどんな形であれ、一生縁が切れることは不可能だと思うよ」
「……うーん。でも……」
「有ちゃん、婚活っていうけどね。今は生涯独身の女性は15%近くいて、晩婚も進み、婚活ビジネスの市場規模は1800~2400億円とも言われるんだよ? お金かけて婚活。かけても結婚出来るかわからない。何とか結婚しても離婚する夫婦だって多い。俺たちの時代はもっとかもしれないよ? そんなみんなが苦労して苦労して結婚する時代に、有ちゃんはそんな労力から解放されてさ。先が約束されているということは、ということは、有ちゃんの労力は他のことに思いっきり使えるんだよ。そんな……相手がいるのは……よくない?」
途中までやっぱり向希って賢いなって思ったけど、雲行きが怪しくなってきて、語尾は小さくなって、ついには真っ赤になって俯いてしまった。それに追い討ちをかけるように、私は向希に言った。
「向ちゃん、私は別に結婚はしてもしなくてもどっちでもいい。多様性が認められる時代だよ」
「多様性という意味では俺たちだって受け入れられるべきだ。俺たちみたいな、家族だって」
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