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第3話 ウチのシロは一味違う(親バカ)

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「先輩!お疲れ様っス!」
「ぬぁっ?!」

日射しの照り返しが眩しい屋上で1人階段室の壁面に背中を預けながら昼飯を食べていると、1年生の女子3人組の1人から突然声を掛けられる。ビックリして顔を上げるとマコトと知らない2人組だった。

「マコトも昼飯か?」
「そうっス。失礼するっスよ~」

マコトが俺の隣に腰下ろすと、2人もその隣に腰を下ろした。

「何だか後輩女子3人と昼飯を食べているリア充高校生に見えるな?」
「その通りの光景っスよ?可憐な花3輪と昼食を共に出来るなんてそうそう無い事なんスから」

―可憐な花3輪か…。

恐らくマコトの友人であろう2人に目を向け視線が合うと会釈された。委員長タイプとおっとりタイプかな?これまたレベル高いなぁ。
モブには過ぎた昼飯時だな。

「タンポポ、山百合、シロツメクサかな?」
「チョイスが野草っぽい所が先輩らしいっスね…?」
「失礼に聞こえたか?でもモブにはこれが限界だな」

2人から笑い声が上がる。初対面にしては良い雰囲気かな?

「眼鏡掛けてる方がミドリでユルフワの方がシオリ。2人共シロちゃんの話が聞きたいみたいだから連れて来たっス」
「もしかすると冒険者?」
「2人はまだ志望っスね」
なるほど。別に隠すつもりも無いから構わないだろう。弁当を食べ終わると俺はスライムの事について調べた事を話し始める。

「まずはwikiの方にはテイムしたスライムが魔力の発現とスキルの習得をしたって言う報告は無い。まぁ育成した情報が少なすぎて憶測が飛び交ってる状態だよ」
「ほとんどのテイマーはスライムを育成してないって事っスよね?」
マコトがサンドイッチを頬張りながら合いの手を入れてくれる。
「いや、テイムした事例もほとんど無いんだ。掲示板には嫌と言うほど『役に立たない』情報が載ってるんだけどな?あんまり信用しない方が良さそうだ」
「で、先輩はスライム育成の先駆けとなるべくシロちゃんを育てる訳っスか?」
思わず笑ってしまった。3人が不思議そうにこっちを見ている。
「そう言う訳じゃないんだよ。ただシロが気に入っただけだな。だからウチのシロは世界一のスライムだ!って言いたいだけ」
そうだよな。あんな下衆な風評のみでシロを見ないでくれ。こんなにも凄いヤツが俺の相棒だって!胸を張って言いたい。

「それと平行でマコトと風精霊の育成もやって行くぞ?からの夏休みは忙しくなるな」


◆◆◆


階段を下って行く先輩を見送りながら僕は1人呟いた。
「やっぱり先輩の反応って可愛いっス」
少し熱いため息をつく。すると幼馴染の1人であるクール系美人の相羽 水鳥あいば みどりが側にやって来た。
「あの先輩に対して踏み込み過ぎじゃないかしら?ほどほどにしないと痛い目見る事になるんじゃない?」
一応ミドリは心配して言ってくれているみたいだけど、これが違うんだなぁ?
「最初に会った瞬間、何となくわかったんスよ?何て言うか先輩の根っこは太くて揺るがない大木って感じで?表現がムズいスね…?ズンズンと踏み込んでも大丈夫な感じっスかね?」
もう1人の幼馴染である小路 栞こみち しおりが可笑しな事を言い出した。
「そっかぁ~。マコちゃんは素直に甘えさせてくれる人と会ったんだぁ。羨ましいねぇ~」
何を言っているんだこのユルフワ娘は?僕がいつ甘えたと言うんだろう?

「…?」

―甘えてる?そんなハズ…?

2日前に初めて会ったばかりなのだから、そんな無防備な事はしない。なんだけどコレは一体何なんだろ?

―ガラスに映った自分は笑顔だった。


◆◆◆


学校が終わると俺は近所の加藤さんご夫婦の自宅に寄った。
自宅2人で年金暮らしをしている80歳近いお2人で、CMに出てきそうな仲睦まじい姿を良く見かける。
台風被害で傷んだ『庭の剪定』をするとの事で、シロを貸して欲しいと朝に頼まれ預けていた。『まだテイムして間もないから』と一度は断ったのだが、どうしてもとの事で了承していた。
まぁ、付き合いは短かかったけど、シロが誰かに害を及ぼすなんて思わなかったからなんだけど、まさか小さい子供相手にチャンバラしているとは思わなかったよ。

―しかも二刀流!?

気の棒2本を触手で振り回し、2人の子供を相手取り、冒険者ゴッコをしているとは夢にも思わなかった。
感情は『何だか仕方ないなぁ』みたいなモノが感じられるが、何かあったら大事になる。
止めに入ろうかと思った瞬間にご主人の加藤さんに遮られた。

「大丈夫だよテルト君。君に似て子供相手と言う事をちゃんと理解してくれとるよ」
「いや、しかしですね…?」
加藤さんの顔はいつもの穏やかなものだった。
「あの2人はワシの孫になる。心配せんでもええよ。シロ君に子守りして貰っとるだけじゃ」
ここに座りなさいと手で指示されたので、不承不承、庭にある白い椅子に腰を掛ける。
「君の従魔であるシロ君はとても頭が良い。スライムと言う存在は知能の低いモンスターだと認識しとったが、間違いじゃったようじゃ」
お茶とお菓子が目の前に出される。子供達は本気で冒険者の真似事をしているが、シロはまるで剣術の心得があるかの如く受け流していた。

―間違いなくスライムの知能は低い。

でも目の前の光景を見ると、まったく別の感想しか浮かばない。
子供達がケガをしない程度に配慮して立ち回っているのだ。別の人間がテイムしたスライムについても、こんな事は今までに無かったハズだった。

―高い知能を持つ?剣術の心得?

まるで、俺から知能と技術を引き継いだと言わんばかりの光景に驚くしかなかった。
可能性があるとしたら、シロの種族にあった『赤ちゃん』と言う項目だけだった。

―まさに名前の通りの白い紙に俺がテイムをしてインクを垂らした。そう言う事なのか?

だとすれば、様々な知識と技術を受け取るように育成して行けば、予想より遥かに早く強力な従魔に育つ?

―背筋がゾクっとする。

スライムには有り得ない強さに育てる。そう考えていた。しかしそれは間違いなんじゃないかと身体が震える。

―最強の従魔。

幻獣種と呼ばれるドラゴン属に引けを取らない程のスライム。頭の中でシロがモンスターの頂点に君臨する姿を夢想する。

―この時だろう。

俺がテイマーと言う職業とシロと言うスライムにハマり込んだのは…。


◆◆◆


翌日の早朝。明日には夏休みに入ると言うのに俺は学校をサボると言う暴挙に出ていた。

―あぁモブよ?目立ってしまうとは情けない。

我慢出来なかったのだから仕方ない。俺は既に冒険者らしい出で立ちになり、始発に乗るために駅までの道を歩いていた。
懐からスマホを取り出すとマコトにラインを送った。

『今からダンジョンに行く。学校サボり』

すると、直ぐに既読となり電話がいきなり鳴り始めた。起きていたみたいだな。

「おはようマコト」
『先輩今どこっスか?』
「あと少しで駅に着くかな?」
『30分下さいっス!あと、文句がありますんで逃げないで待ってて下さい!』

『ツー…、ツー…。』

「えっ…?マコトもサボるつもりか?」

俺は唖然としながら、通話の切れたスマホを見た。

「シロ?マコトも来るみたいだぞ?そして文句があるらしい?何故だ?」

冒険者用の背負い鞄とは別に、肩から掛けていたスポーツバッグに声をかける。
シロはプルプルと震えて『当然でしょ』みたいな感情を送って来る。

―当然なのか?

どうやら俺は鈍感力も凄いらしい。

―まぁ、モブだから仕方ないよな?







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