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第4話 ダンジョン内ではモブとは呼ばせない

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駅でマコトと合流する。
とりあえず説教が長々と始まってしまった。

「先輩?これは協定違反になりますっ!分かってるんスか?」
「いや、夏休みに入ってからの約束だったから、大丈夫かな~?って…」
なんで怒られているのかイマイチ良く分からないのだが、どうにもマコトに対して礼儀を欠いていたようだ。
何とか怒りを静めてもらうために四苦八苦しながら言い訳を考えているんだけど、逆に怒らせてばかりだった。

「あ~…?冒険者の格好良く似合ってるよ?」
「誤魔化さないで下さいっス!」

―はい!すみません!

俺は叱られつつ構内で会社員などの人波の流れに乗って切符売り場に着く。売り場ではギルドライセンスをパネルに当てるとダンジョン行きの切符が出てくる仕組みになっていて、階段を下ると『冒険者専用』の連絡通路を進む事で目当てのダンジョンに運んでくれる列車に乗れる訳だ。

―ダンジョンに行く為の装甲列車。

ダンジョンの入り口は完全にドーム状の建物で覆われていて、この地下鉄のみが交通手段だ。大規模なスタンピードが起きた場合は線路の各所に埋める為の爆薬が配置してあり、装甲列車の最後尾の車両も爆薬が満載となっている。

片道切符を覚悟出来る者だけが、ダンジョンを探索出来る冒険者と言う事だ。

この息苦しいプレッシャーに耐えきれず、冒険者を断念する者も少なくないそうだ。

冒険者専用の地下鉄のホームには一般人の姿は無くなり、剣呑な気配を放つ人々で一杯になる。この雰囲気の中で自然体で居られる冒険者は『腕が立つ』と見て間違いない。

そんなホームのベンチで軽口を叩き合う。

「どうしたら許して貰える?」
「許されないっスね!」
「何でもひとつ言う事を聞くから機嫌を直して欲しいんだけど?」
「ほんとっスか?」
「俺に出来る事なら。だけどな?」
「良い譲歩を引き出したっス。不問にするっス!」

―おぉ。機嫌が良くなった。

しかしマコトはダンジョン探索は初めてと言っていたが、雰囲気に呑まれて無いみたいだ。無理をして明るく振る舞っているのは当然分かるが、空元気をする余裕があるって事だな。

良い冒険者になる一歩目は無事クリアだな。(マコトって実は大物だな!)

日本には今現在、12のダンジョンが確認されていて、30年前から数えると5つ増えたことになる。
その内3つが関東圏内にあり、今日向かうのが比較的初心者向けの【習志野ダンジョン】だ。

―定刻通りに到着したな。

目の前に装甲列車が停止して扉が開く。ここからは生命のやり取りをする領域だ。
周りの冒険者達もピリピリとした雰囲気に切り替わる。
いわゆるスイッチが入ったと言うヤツだ。
覚悟を決めた者達から列車に静かに乗り込んで行く。

―さぁ気を引き締めて行こう。


◆◆◆


「これが冒険者って人達なんスね…?」

いつの間にか俺のジャケットをしっかりと握り締めていたマコトがボソリと声を漏らす。
列車内では誰も口を開かず、ただ到着するのを待っていた。

「そうだな。冒険者達はいろんな理由でダンジョンに潜るだろう?その理由を再確認する最後の時間だ」
生命をかける理由。2度と戻れないかも知れないと言う未練を断ち切る儀式。
ソコに着いたら、自ら死地に赴くために勢いをつける為の最後の助走。

―到着したみたいだな。

アナウンスなんて流れない。
ただ到着して、扉を開き、冒険者達を吐き出し、また呑み込んで走り出す。
そんな列車から降りると目の前には地下に誘う巨大な暗闇が口を開けて待っている。

異界構造体ダンジョンがあるだけだ。

マコトの呼吸が乱れ始め視線も泳ぎ出して来ているみたいだ。
俺は自分の胸にマコトの顔を押し付ける。
「…先輩…?」
「今は俺の鼓動に意識を集中するんだ。何も考えなくて良い。落ち着いたら言ってくれ」

――トクン――トクン――…。

「先輩の心臓の音。落ち着いてるっスね?」
「『慣れ』かな?マコトも慣れたらコントロール出来るようになるよ。その時は俺にも聞かせてくれ?」
「セクハラっスよ?」
マコトは笑いながら顔を上げてくる。大丈夫そうだな。

「行くか」
「了解っス!」

まずは地下1階で肩慣らしだ。シロの実力。マコトの実力。それを確認していこう。

改札口を抜けると、ダンジョン前の広場でシロをスポーツバッグから出して、装備を再確認する。

―異常無し。


幾人かの冒険者達がシロを嘲笑って行くが、実力で見返してやるから無視で良し。

―マコトの方も準備オッケーだな。

2人のギルドライセンスに俺とマコトのパーティー申請をすると、立ち上がってシロとマコトを見る。そして続けてダンジョン入り口を睨む。

―さぁ、冒険を始めよう!


◆◆◆


壁から吐き出されて来たモンスターは緑の肌を持つ人間の子供くらいの身長。
「マコト。ゴブリンだ。集団で狩りをする厄介な奴らだ。囲まれるなよ?」
そう言っている間にも壁に開いた放出口と呼ばれる穴からズラズラと這い出して来る。
「わっ!分かりましたっス!」
冷静に返事をするマコト。凄いな?俺が初めてダンジョンに降りた時はただパニックになってただけだったよな。
「奴ら目は暗闇でも良く見える。閃光弾が有効だ!目を閉じろ!シロはマコトのフォローに回れ!」
放出口が閉じるのを見計らって、ゴブリン共の上に閃光弾を投げる。
投擲された物をゴブリン達の目が追った。
奴らは目が良い。そして動く物体に視線を向けるクセがある。

―バシュ!

辺りが強烈なフラッシュに照らされてダンジョン内が真っ白に染まる。
ゴブリン達の悲鳴が聞こえた瞬間に奴らの足元に破砕手榴弾を投げ込んで、シロとマコトを抱えて壁面の窪みに身を投じて伏せた。

「マコト。対防爆姿勢だ」
「はいっス!」
「3・2・1…来る!」

頭の中と内臓を叩きつけるような衝撃が襲いかかる。
その衝撃が収まるとシロとマコトをその場に置いてパニック状態のゴブリンの生き残りに踊り掛かってトドメを刺して行く。

―吐き出されたゴブリンの数は9。奴らが残した魔力結晶石ませきの数も9個。全部だな。

魔力結晶石。通称【魔石】。死んだモンスター達が光の粒子となって消え去った後に残る生命の結晶だ。
様々な動力機関の燃料にもなる、需要の尽きないエネルギーで、換金用のアイテムなんだけど、テイマーには別の側面を持つ。

「さて、シロご飯だ!」

魔石を全てシロに与えるとマコトに近付いた。なんだか呆けているみたいなだけどケガしたのか?

「マコト?大丈夫か?」
「あっはい。僕は平気っス。先輩ってダンジョンでは見違えるっスね?」
「モブが本当は隠れた実力者なんて、物語では良くある話だろ?格好良かったか?」
「あ~…。それが無かったら惚れてた所っスよ~。先輩は残念キャラの立ち位置っス!」
肩を竦めて見せると笑顔が戻って来た。
そして2人で笑い合う。
するとシロから裾を引っ張られる感触が伝わって来た。どうやら食事が終わったみたいだな。
ギルドライセンスを取り出して確認してみる。

【赤ちゃんスライム】
【名前】:シロ
【性別】:無し
【年齢】:0歳
【LV】:12
【戦力】:42
【スキル】:無し

そして、戦力をダブルタップ。

【ステータス】
【HP】:16
【MP】:0
【攻撃力】:8
【防御力】:12
【魔力】:0
【抗魔力】:0
【俊敏】:6
【スキル】:無し

ふむ?魔石を食べた事でレベルが12まで上がったか。総戦力は42と低いな。まぁ予想の範疇だな。スキルは変化無しと。
まぁ問題はレベルアップじゃなくて、【種族進化時】の変化だよな?まずはそこをまで行こう。

―そう。テイマーにとって魔石は従魔のレベルアップアイテムとなる。

ダンジョンのモンスターが他種族を喰らってレベルアップしていくように、従魔も魔石を与える事でレベルアップして行くのだ。

「あっ先輩!レベルが上がったっスよ~」

【冒険者組合所属】:ランクF
【名前】:マコト
【性別】:女性
【年齢】:16歳
【職業】:精霊使いエレメンタラー
【LV】:3
【戦力】:89
【スキル】:コール
【契約精霊】:風精霊(小)

嬉しそうにライセンスを俺の目の前に持ってくる。まるで尻尾が右左と激しく動いている映像が見えた。

「おおやったな!レベル1つで戦力が7上がるのか?成長は遅いけど、伸び率高そうだ!」

顔を上気させて、嬉しそうにライセンスを見ていた。すると背後に嫌な雰囲気が盛り上がる。またダンジョンがモンスターを生み出すようだ。

―マコトがアドレナリンを分泌してる内に、後3回くらい行くか?

「マコト。モンスターだ。準備してくれ」
「了解っス!」

元気に返事されるけど、初ダンジョンなんだ。いつ緊張感が切れるか分からないな?シロ?マコトのフォロー頼んだぞ?

プルプルと震えるシロから『任せて!』みたいな感情が送られて来る。

―本当に頼りになる相棒だよ。






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