異世界転生局の裏仕事

銀木扇

文字の大きさ
7 / 26

第六話 性癖

しおりを挟む
 血溜まりにうつ伏せになっている冬美を見た綾人は、頭を抱えその場に座り込んでしまった。桜子も壁に背中を預け、うつむく。

 血溜まりは冬美の顔付近から波打っている。それに合わせてぴちゃんと雫が液体に落ちるときの音が静かな部屋に響き渡る。

 しばらく時間が過ぎ、心を締め付けられるような重い空気を切り裂くように、冬美の体がゆっくりと仰向けになった。


「わぁ、綾人くんと桜子さんだぁ」


「「…………」」


 名前を呼ばれた二人はびくともしない。体を起こした冬美の服は当たり前だが黒いスーツでもわかるほどに血が染み込み、顔、特に口周りは特に血液の付着が多い。そして、冬美の表情は恍惚としており、まるで媚薬でも飲んだかのようになっている。


「ふたりとも、むししないでくださぁぃ」


 冬美は舌足らずな言葉で二人に話しかける。それに対して二人は、ただただため息を付くばかりだ。

 冬美には特殊な性癖がある。(ここで言う性癖とは、性的嗜好のことではない)血液を見ると興奮してしまう性癖だ。ここで多少興奮してしまうのは別に構わないのだが、時間が過ぎていくとだんだんエスカレートしていき死体から血液を抜いて集めたり、舐めたり飲んだりする。

 現に今この場においてある二つのバケツには、持ち上げればすぐ零れそうなほどに血液が溜まっており、完全にモザイク案件だ。もちろんそばにはミイラもどきもセットだ。


「冬美、いつも言ってるよね? なるべく服を汚さないことと血で遊ばないこと」


「そうだっけ~?」


 無邪気に笑い声を上げる冬美からは悪びれた様子はまったくない。綾人は後始末のことを考え、更にうなだれる。少し前の時間まで自分がその立場だったことはすっかり忘れているようだ。


「鎮痛剤持ってたよね?」


「あるよ~」


 そう言って冬美はスーツの前ボタンを開け、内側に大量の試験管が差し込まれてるうちの一本を綾人に差し出す。差し込まれてる試験管の九割五分に血液が収められていることには言及する様子はない。いつものことなのだろう。

 綾人は試験管のキャップを開け、勢いよく飲み干す。空になった試験管をキャップとともに冬美に渡すと、その試験管を持ってバケツに向かおうとする。


「いくぞ」


「みゅっ!」


 桜子は、冬美の襟首を後ろから掴み、そのまま引きずる。


「あと一本、あと一本だけ!」


「だめだ。 それ以上勝手なことをすると試験管全部割るぞ」


「うぅ」


 冬美は容姿性格いずれも完璧なのに、変な性癖を持ってしまっているのは残念だな。どこで育ち方間違えたんだろうと綾人は幼いときの記憶をたどるがなにも思いつかない。

 綾人は肺の痛みが引いてきたことを確認し、桜子の後を追いかける。


「帰路は私が援護射撃を行ったビルの屋上だ」


「わかりました」


「本部に戻ったらそのままコスモポリタンを家までおくれ」


「………………わかりました」


 綾人は渋々頷いた。隣の廃ビルにつくと、流石に階段で冬美を引きずる事はできないので桜子は冬美をお姫様抱っこし、階段を進んだ。冬美は興奮しすぎると、酒に酔ったかのようにろれつが回らなくなり、足取りがおぼつかなくなるので回復してくるのを待つしかない。

 完璧に見える人でも、ひとたび興奮してしまうと人格ががらりと変わるものである。そうなると普段呆れられている人と立場が逆転してしまうこともある。冬美は今まさにその状況だ。自分自身自覚はあるがコントロールができないので周りの人が抑制してあげることが必要である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...