17 / 26
第十六話 紙一重
しおりを挟む
「とりあえずここからは夜中の準備をしよう」
「そうだね。 それじゃあ私は役所の事調べてくる」
「わかった。 俺はとりあえず道具の確認と諸々買ってくる」
「了解」
綾人達は食堂から出ると、再び分かれた。綾人は先に仮の家に戻り、転生するときに持ってきた鍵付きのキャリーケースを寝室に持ってくる。カーテンを全て閉めてドアにも特製の鍵を取り付けてロックする。
キャリーケースを開けると最初に出てきたのは通信傍受機。この世界には使えないものだ。それを取り出すと見えてきたのは不法侵入するための道具の数々だ。
「魔法世界だとあんま使えるもの持ってないんだよなぁ~」
綾人は魔法世界にあまり潜入したことがない。そのため道具が少し偏ってしまってる。かと言っておいそれと揃えることもできない。なぜなら一部の物は綾人のいる世界で作られたものではないからだ。
「刀も研がないとな。 そろそろどこかで新しいやつほしいな」
刀も残念ながら別の世界から購入したものだ。何なら冬美の担当している地球という世界にしか存在しない日本刀というものである。刀自体はそこら辺の世界にもあるがここまで頑丈で、切れ味がなかなか落ちないものとなるとそこしかない。
またあの世界で任務があったら買っていこうといつも思っている綾人だが、その時はなかなか巡ってこない。
「あそこの食べ物も美味しかったんだよなぁ~」
と、物思いにふけっていた綾人だったが、今やるべきことを思い出し、すぐ切り替えて作業に戻る。冬美の報告を受けてから最終的に何を使うか決めるが、とりあえず使いそうなものをベッドの上に並べていく。今回は極秘資料を入手するわけではないのでバッグを使わず腰ベルトに引っ掛けて持っていけるような道具を選定していく。
「まぁ、こんなところかな」
綾人は必要そうな道具を一通りベッドの上においたあと、キャリーケースをもとに戻す。鍵はつけたままにし、いつでもすぐロックがかけられるようにする。追加で購入しなければならないものはないようだ。
他にやることがなくなった綾人は、町を観察することにした。再び家を出て、治安の悪そうなところを中心に歩き回る。
「男、あんま見かけないな」
しばらく観察していると、いくつかの共通点が見つかった。まず一つは、ここにいるのはほぼ全員、魔法が使えない人たちということ。仕事が見つからないのだろう。生活の必需品のほとんどは魔法が関係している。冷蔵庫も、魔法が使えないものは使える人がいる知人や業者に魔力を込めるように依頼する必要があるらしい。
家族の中に父親の姿がないのも共通点の一つだ。恐らく出稼ぎのような形で力仕事や魔物討伐に向かっているのだろう。生活していくには、魔法に頼らなくてはいけない。そのたびにお金が発生するのだから魔法が使えるものの倍以上、財布の中身は消えていく。
「原因がわかったって、すぐにいなくなるから関係ないよな」
でももし、政治的な形で関わることが出来るのならば、助けてあげたいと思ってしまう綾人であった。かつて綾人が苦しんできた時期を思うと、手を差し伸べたくなる気持ちはわからないでもない。だけど命を奪う仕事を本職としている以上、その逆を行うための覚悟が必要だ。綾人にはその重みを背負うだけの覚悟はない。冬美と違って。
物をねだろうとするものや吐き出す場所のない恨みをぶつけようとする者たちを避けながら、綾人は再び日を浴びる場所に戻ってきた。案外裕福な人とそうでない人との境目は紙一重なものだ。
「おじちゃん、それ一つ頂戴」
「リゴンね。 あいよ」
綾人は適当な果物屋の店主に声をかけ、拳ぐらいの大きさの赤い果実を購入した。それを食べながら引き続き街を歩き回る。
「そうだね。 それじゃあ私は役所の事調べてくる」
「わかった。 俺はとりあえず道具の確認と諸々買ってくる」
「了解」
綾人達は食堂から出ると、再び分かれた。綾人は先に仮の家に戻り、転生するときに持ってきた鍵付きのキャリーケースを寝室に持ってくる。カーテンを全て閉めてドアにも特製の鍵を取り付けてロックする。
キャリーケースを開けると最初に出てきたのは通信傍受機。この世界には使えないものだ。それを取り出すと見えてきたのは不法侵入するための道具の数々だ。
「魔法世界だとあんま使えるもの持ってないんだよなぁ~」
綾人は魔法世界にあまり潜入したことがない。そのため道具が少し偏ってしまってる。かと言っておいそれと揃えることもできない。なぜなら一部の物は綾人のいる世界で作られたものではないからだ。
「刀も研がないとな。 そろそろどこかで新しいやつほしいな」
刀も残念ながら別の世界から購入したものだ。何なら冬美の担当している地球という世界にしか存在しない日本刀というものである。刀自体はそこら辺の世界にもあるがここまで頑丈で、切れ味がなかなか落ちないものとなるとそこしかない。
またあの世界で任務があったら買っていこうといつも思っている綾人だが、その時はなかなか巡ってこない。
「あそこの食べ物も美味しかったんだよなぁ~」
と、物思いにふけっていた綾人だったが、今やるべきことを思い出し、すぐ切り替えて作業に戻る。冬美の報告を受けてから最終的に何を使うか決めるが、とりあえず使いそうなものをベッドの上に並べていく。今回は極秘資料を入手するわけではないのでバッグを使わず腰ベルトに引っ掛けて持っていけるような道具を選定していく。
「まぁ、こんなところかな」
綾人は必要そうな道具を一通りベッドの上においたあと、キャリーケースをもとに戻す。鍵はつけたままにし、いつでもすぐロックがかけられるようにする。追加で購入しなければならないものはないようだ。
他にやることがなくなった綾人は、町を観察することにした。再び家を出て、治安の悪そうなところを中心に歩き回る。
「男、あんま見かけないな」
しばらく観察していると、いくつかの共通点が見つかった。まず一つは、ここにいるのはほぼ全員、魔法が使えない人たちということ。仕事が見つからないのだろう。生活の必需品のほとんどは魔法が関係している。冷蔵庫も、魔法が使えないものは使える人がいる知人や業者に魔力を込めるように依頼する必要があるらしい。
家族の中に父親の姿がないのも共通点の一つだ。恐らく出稼ぎのような形で力仕事や魔物討伐に向かっているのだろう。生活していくには、魔法に頼らなくてはいけない。そのたびにお金が発生するのだから魔法が使えるものの倍以上、財布の中身は消えていく。
「原因がわかったって、すぐにいなくなるから関係ないよな」
でももし、政治的な形で関わることが出来るのならば、助けてあげたいと思ってしまう綾人であった。かつて綾人が苦しんできた時期を思うと、手を差し伸べたくなる気持ちはわからないでもない。だけど命を奪う仕事を本職としている以上、その逆を行うための覚悟が必要だ。綾人にはその重みを背負うだけの覚悟はない。冬美と違って。
物をねだろうとするものや吐き出す場所のない恨みをぶつけようとする者たちを避けながら、綾人は再び日を浴びる場所に戻ってきた。案外裕福な人とそうでない人との境目は紙一重なものだ。
「おじちゃん、それ一つ頂戴」
「リゴンね。 あいよ」
綾人は適当な果物屋の店主に声をかけ、拳ぐらいの大きさの赤い果実を購入した。それを食べながら引き続き街を歩き回る。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる