23 / 26
第二十二話 魔法と男
しおりを挟む
血痕の状態と新たに入手した発見当時のより詳細な情報が書いてある写真から、犯人は被害者を殺害したあと、しばらくそのままにしてからバラバラにしたと考えられる。
情報を入手したあと、再び綾人と冬美は現場に戻ってきた。
「結構あっちこっちに散らばっているな」
「魔法か何かで浮き上がらせてからバラバラにしたんじゃない? 血しぶきもそんなにないみたいだし」
「でも転入者は魔法が使えないはず」
調べていくうちに新たな謎が増えていくばかりだ。このままでは埒が明かないと思った綾人と冬美は、現場から一度離れることにした。
しばらく歩くと、冬美は被っていたフードを上げ、空を見上げた。
「晴れてきたね」
「そうだな。 ……いや、あれは魔法?」
「嘘でしょ?」
雨粒がなくなった原因は天気が良くなったからではなかったらしい。たしかに空は青々としているように見えるが、まだ中心からは雨雲が見えている。だがそれは少しずつ幅が狭まっている。
耳を澄ますと、かすかに雨音が聞こえている。しかしそれは地面に雫が叩きつける音とは違って、中が空洞な器に雫があたっている音に近い。
「あ、雨雲が見えなくなった」
「こんなに大規模な魔法があるのか」
雨が暫くの間降っていたのは魔法の展開に時間がかかったからと予測する。おそらく犯行現場を覆っていたものと同じ原理なのだろう。
綾人達が思っていたよりも、魔法のことに関してだけはものすごく発展している世界だったらしい。
「おばあちゃん、あの魔法はどこからでてるの?」
冬美は好奇心を押さえることができず、つい近くを歩いていたおばあちゃんに声をかけていた。
声をかけられたおばあちゃんは親切に教えてくれる……と思いきや、首を傾げ不思議そうな表情を浮かべた。
「何を言ってるんだい?」
「いや、今空の上にある、雨を凌いでいる魔法のことだよ?」
「魔法? ただ雨がやんだだけじゃないか。 おかしなことを言う子だね」
おばあちゃんはくすくすとおかしそうに笑いながら去ってしまった。どうやら一般人にとっては当たり前のことで、魔法が関係しているとは知られていないらしい。
大規模すぎるあの魔法は、人の手で行われているのではなく機械かなにかで行っているのだろうか。それとも秘密裏に行われていて、実は重要な役割を担っているのだろうか。
「いずれにせよ、任務には関係ないな」
綾人は広がりかけていた思考を打ち切り、呆然と空を見上げたままの冬美の肩を叩く。
「とりあえず、役所に行くぞ」
「わかった。 もし仕事が早く終わったら、この謎解明しようねっ」
「終わったらな」
冬美の今の様子をあんずの姿と重ねてしまった綾人は、あまりにも似ている様子だったものでつい妹であるあんずにしているのと同じように頬を両手で挟み込んでしまった。
「…………今、あんずちゃんのこと考えてるでしょ」
「あ、ごめんつい」
「いいよ~」
自分の無意識な行動に恥ずかしさをおぼえた綾人は、すぐに手を離そうとしたが冬美に手首を捕まれ、両頬に戻される。
「そんな悪い気はしないし」
冬美の表情は綾人からは見えないが、少しうれしそうな気配を感じた。綾人は苦笑しながら、冬美の頬を挟む手に少しだけ力を入れた。
****
そんな二人の様子を、建物の影から覗いている男がいた。
男はリゴンを弄びながら鋭い視線を向け続ける。その後ろには果物屋の店主が血を流しながら倒れている。息をしている様子は、残念ながらない。
男が店主を一瞥すると、死体は血溜まりとともに、まるで路面に溶け込むように消えていった。まだ昼前で見つかる可能性が高いと感じたのか、魔法で隠したらしい。
「こんなに早くネズミが追っかけてくるとは。 上の奴らは何をしてるんだ?」
弄んでいたリゴンを下に思いっきり叩きつける。男は舌打ちをしながら歩き始めた。
「もう少し遊んでから相手してやるからゆっくりこいよ」
男は人通りの少ない路地裏で、高らかに笑った。
情報を入手したあと、再び綾人と冬美は現場に戻ってきた。
「結構あっちこっちに散らばっているな」
「魔法か何かで浮き上がらせてからバラバラにしたんじゃない? 血しぶきもそんなにないみたいだし」
「でも転入者は魔法が使えないはず」
調べていくうちに新たな謎が増えていくばかりだ。このままでは埒が明かないと思った綾人と冬美は、現場から一度離れることにした。
しばらく歩くと、冬美は被っていたフードを上げ、空を見上げた。
「晴れてきたね」
「そうだな。 ……いや、あれは魔法?」
「嘘でしょ?」
雨粒がなくなった原因は天気が良くなったからではなかったらしい。たしかに空は青々としているように見えるが、まだ中心からは雨雲が見えている。だがそれは少しずつ幅が狭まっている。
耳を澄ますと、かすかに雨音が聞こえている。しかしそれは地面に雫が叩きつける音とは違って、中が空洞な器に雫があたっている音に近い。
「あ、雨雲が見えなくなった」
「こんなに大規模な魔法があるのか」
雨が暫くの間降っていたのは魔法の展開に時間がかかったからと予測する。おそらく犯行現場を覆っていたものと同じ原理なのだろう。
綾人達が思っていたよりも、魔法のことに関してだけはものすごく発展している世界だったらしい。
「おばあちゃん、あの魔法はどこからでてるの?」
冬美は好奇心を押さえることができず、つい近くを歩いていたおばあちゃんに声をかけていた。
声をかけられたおばあちゃんは親切に教えてくれる……と思いきや、首を傾げ不思議そうな表情を浮かべた。
「何を言ってるんだい?」
「いや、今空の上にある、雨を凌いでいる魔法のことだよ?」
「魔法? ただ雨がやんだだけじゃないか。 おかしなことを言う子だね」
おばあちゃんはくすくすとおかしそうに笑いながら去ってしまった。どうやら一般人にとっては当たり前のことで、魔法が関係しているとは知られていないらしい。
大規模すぎるあの魔法は、人の手で行われているのではなく機械かなにかで行っているのだろうか。それとも秘密裏に行われていて、実は重要な役割を担っているのだろうか。
「いずれにせよ、任務には関係ないな」
綾人は広がりかけていた思考を打ち切り、呆然と空を見上げたままの冬美の肩を叩く。
「とりあえず、役所に行くぞ」
「わかった。 もし仕事が早く終わったら、この謎解明しようねっ」
「終わったらな」
冬美の今の様子をあんずの姿と重ねてしまった綾人は、あまりにも似ている様子だったものでつい妹であるあんずにしているのと同じように頬を両手で挟み込んでしまった。
「…………今、あんずちゃんのこと考えてるでしょ」
「あ、ごめんつい」
「いいよ~」
自分の無意識な行動に恥ずかしさをおぼえた綾人は、すぐに手を離そうとしたが冬美に手首を捕まれ、両頬に戻される。
「そんな悪い気はしないし」
冬美の表情は綾人からは見えないが、少しうれしそうな気配を感じた。綾人は苦笑しながら、冬美の頬を挟む手に少しだけ力を入れた。
****
そんな二人の様子を、建物の影から覗いている男がいた。
男はリゴンを弄びながら鋭い視線を向け続ける。その後ろには果物屋の店主が血を流しながら倒れている。息をしている様子は、残念ながらない。
男が店主を一瞥すると、死体は血溜まりとともに、まるで路面に溶け込むように消えていった。まだ昼前で見つかる可能性が高いと感じたのか、魔法で隠したらしい。
「こんなに早くネズミが追っかけてくるとは。 上の奴らは何をしてるんだ?」
弄んでいたリゴンを下に思いっきり叩きつける。男は舌打ちをしながら歩き始めた。
「もう少し遊んでから相手してやるからゆっくりこいよ」
男は人通りの少ない路地裏で、高らかに笑った。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる