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大筒作り
しおりを挟む「よし、鉄介。大筒造りを見に行こう」
評定(会議)が終わり、九鬼嘉隆からそんな誘いを受けた鉄介だ。
「21門も造れそうで?」
「うむ、滝川一益殿が1隻引き受けてくれたからな。おそらく大筒もあちらで何とかするであろうし、18門でいいのでは無いかと思う」
「……そのあたりは確認しておいた方がいいと思いやすが」
大工仕事もそうだが、「相手は分かっているだろう」と考えたことは後々酷いことになりやすいのだ。
「う、うむ。そうしよう」
経験から来る鉄介の凄みが効いたのか、大人しく頷く嘉隆であった。
この時代、日之本の大筒は数少ない。筑後(九州)ではいくつか輸入されているが、他には織田信長が羽柴秀吉に命じて作らせた大筒があるくらいだ。
そんな中、九鬼嘉隆は明から流れてきた一族を庇護下に置き、大筒の量産を目論んでいていた。先の伊勢長島一向一揆討伐の際も、船に乗せた大鉄砲が活躍したのだ。
何でも明の葉公という人物が開発に携わった大将軍砲、あるいは大神銃というものを作り上げた技術者の一族であるらしい。無論明の中でもかなりの腕を誇っているのだが、葉公が失脚した際に故郷を追われ、こうして日之本にまで流れてきたらしい。
鉄介も若い頃は鍛冶師をやっていたので、その縁で何かと親しくさせてもらっているのだ。
「や、これはヨシタカ様。テツスケ様。どうぞいらっしゃいください」
少々怪しい言葉遣いをしているのが技術者一家の長、陳葉だ。
鍛冶集団の長なだけあって隆起した筋肉を誇っており、人くらい易々と殴り殺せそうだ。
「陳。大筒の製造はどうだ?」
「はい。今から作ろうところかと」
「うむうむ、では見物してもいいか?」
「どうぞいってらっしゃい」
陳が案内してくれた先にあったのは、幾つもの巨大な鉄板だった。いわゆる瓦金と呼ばれるもの。形は四角で、厚さ自体は鉄砲の銃身に使う程度だが、とにかく数が多い。
「この瓦金を真金に巻き付けて。厚み出していくね」
真金というのは鉄でできた円柱のことで、鉄砲造りの際にも使われるものだ。この真金に瓦金(鉄板)を巻き付けて鍛鉄し、紐状にした鉄を巻き付けて強度を増したあと、真金を引き抜くのだ。そうすれば真金があった場所が空洞になるので、銃身として使えるようになるのだ。
どうやら陳たちはそんな鉄砲の製法を大砲にも応用するようだ。
ただし、大筒用の真金は大きく分厚いので、鉄板一枚では真金の回りを一周させることができない。一枚、二枚と繋げていくことでやっと一周させることができるのだ。
手際よく鍛鉄し、鉄板を繋げていく陳たち。
その中には日之本には珍しい女性鍛冶師も存在していた。
名前は铃。陳の娘で、おそらく20を超えたか超えないかくらいだろう。
明の国では女性鍛冶師も活躍しているのか、人手が足りないから手伝っているのか、あるいは铃が変わっているだけか。それは鉄介には分からない。腕がいいのなら女でも良かろうというのが鉄介の考えだ。
真金の周りに鉄板を巻き付けたあと、その上からさらに鉄板を巻いていく鍛冶師たち。どうやら何重にもすることで強度を増そうとしているようだ。
そうして鉄板を何重にも巻き付けたあと、陳たちは中心となっていた真金を引き抜いた。
「ほぉ、これは見事な」
砲口から砲身内を覗き込み、感嘆の声を上げる鉄介。見事なまでの真円。これなら砲弾も問題なく飛ぶだろう。
しかし、陳は出来栄えに不満があるようだ。
「この国の鉄。質悪いね。鉄砲は良くても大砲には適さない。すぐに暴発すると思うよ」
「む、そうか。どうにかならんのか?」
「なる。まずは砲身に竹を巻き付ける」
砲身が冷えるのを待ってから陳がどうするのかを実演してくれた。まずは砲身に沿うように竹束を巻いていき、ぐるりと一周させる。
(まるで巻物か竹簡のようだな)
鉄介がそんなことを考えていると、今度は竹ひごを使って輪っか(リング)を作り、砲身と竹束を巻き始めた。砲身の前部から後部まで何カ所も巻いていく。
「ああして竹ひごで砲身の周りを締めるね。すると砲身の膨張を抑えられる。気休め程度だけどね」
「ほほぉ、そのような技が……」
「ただし、発射後の排熱ができないね。あまり撃ちすぎると砲身壊れる。気をつけて」
「むむぅ……」
砲身が暴発するか。砲身が壊れるか。どちらにしてもそれほど多くの砲撃はできそうになかった。
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