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弟子・3
しおりを挟む「あてずり、という技法がある」
「あてずり、ですかい?」
「うむ。その名の通り木材の表面にズリ(ノコギリ)を当て、毛羽立たせるのだ」
「ほぅ、そのような技法があるんですかい。それは一体どうしてそのようなことを?」
「木材の表面を玄翁(トンカチ)で叩いたとき、木材が割れぬようにするのだ」
「玄翁で、表面を叩くんですかい?」
「うむ。木ごろしのためだ」
「あぁ、木ごろしですかい」
城大工の間でも、木材の継手(木材と木材を繋ぐための凸凹)を玄翁で叩き、圧縮させてからほぞ穴に差し込むという方法をとる。そうすると圧縮した分がほぞ穴に差し込んでから木の復元力で膨らみ、接続が強固になるのだ。
しかし、表面にズリを当てるというのは初めて聞く方法だ。確かに継手を叩きすぎると割れてしまうが、そうしないための力加減は大工であれば当然学んでいるものだからだ。
そんな宗光の疑問は承知の上なのか鉄介が解説する。
「船の場合は差し込む範囲が広いからな」
「あぁ、そういうことですかい」
例えば船体に貼り付ける板と板を接続させるときも、玄翁で叩く範囲が広いので割れやすくなってしまうのだろう。
「木ごろしをすると、海に浮かべたあとに水を吸って膨らみ、さらに強固に接続されるのだ」
水を吸ってさらに膨らむ、というのは城大工にはない考えだ。
「ははぁ、それはぜひ習得せねばなりませぬなぁ」
「うむ、頼もしいことだ」
鉄介は試しに宗光にやらせてみたが、さすがは岡部の孫。すぐにコツを掴んで習得してみせた。
(これは、中々に楽しいものだな)
自らの得た知識を、淀みなく習得してくれるというのは。
もしかしたら自分は教える側も性に合っているのかもしれない。そう考える鉄介であった。
「次は釘打ちを習得してもらおう」
「へぇ。釘打ちならお手のもんです」
「はは、それはどうかな」
「と、申しますと?」
「まぁ見ておれ」
そう言って鉄介は木材への釘打ちを実演してみせた。
木材の斜め上から、斜め下へと向けた釘打ち。それ自体なら特に珍しいものではないのだが、驚くべきは釘の形だ。
大きく、弧を描くように曲がっているのだ。
この釘を真っ直ぐ打ち付けては、すぐに曲がって木材から飛び出てしまうだろう。
しかし、船体の木材を固定するには適した釘だった。なぜなら船体自体も弧を描いているので、真っ直ぐな釘を真っ直ぐ打ち付けてはすぐに飛び出してしまうからだ。
宗光は釘を一本借り、釘を打ち付ける板と板の横に釘を沿わせてみた。
弧を描くように曲がった釘。
その釘とまったく同じ角度で曲がる木材。
これは打ち付けるのが難しい。少しでも手元が狂えばすぐに木材の外に釘が飛び出てしまうだろう。
「どうだ? できるか?」
挑発するような鉄介の問いかけに、宗光は負けん気を発揮しながら答えるのだった。
「無論、できますとも」
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