31 / 74
閑話 王太子殿下
しおりを挟む――その頃。
この国の王太子、カインは机に向き合っていた。
高位貴族や王家に多い、金髪。その金髪の中でもひときわ輝くような色味をしているのが『王家の色』と称えられる黄金の髪色であった。
風貌はいかにも優しげ。部下がどんな失敗をしても笑って許し、もう一度チャンスを与えそうな見た目をしている。
……もちろん、実際はそんなこともないのだが。
天使のような外見に、中々の腹黒さを持つ性格。それが次期国王であるカインという男であった。
そんなカインは今、書類仕事に没頭されていた。あの愚かな兄がやらかしてくれたおかげで、本来しなくてもいい仕事が発生し、その対応に日々忙殺されているのだ。
これほどまでに忙しく、油断のならない状況でもなければ、視察と称してリリーナに会いに行けたのだが……。
…………。
そろそろ暗殺してやろうか。
本気で検討しはじめたカインの元に、音もなく近づく執事姿の男がいた。
「殿下。ギュラフ公爵が亡くなられました」
「……へぇ、そうかい。となると、リリーナはどうなるのかな?」
書類を処理する手を止めないまま、執事に問いかけるカイン。
「それが……、次期公爵、ケイタス卿はレディ・リリーナを追放したようでして……」
レディ・リリーナ。
本来であれば既婚者であるリリーナは『ギュラフ公爵夫人』と呼ぶべきところ。だが、その呼び方はカインが一気に不機嫌となるので使用禁止というのが側近たちの共通認識であった。
「追放。追放か……」
ペンを動かすことを止めたカインはしかし、顔を上げることなく思考に没頭する。
「教会に確認を。この場合、リリーナの地位はどうなるのかと。……もちろん、嫁入り先から追放されたのだから、離婚状態と判断できるだろうけどね」
「……ははっ」
そういう風になるよう圧力をかけろ。優秀な執事はそのように判断した。
「さて。嫁入り先から追い出されたのだ。行く当てもないだろう。ここは早急に保護してあげないといけないな」
何としても見つけ出せ。
リリーナの実家・リインレイト公爵家より早く。
察しのいい執事はそう判断した。
優先順位を頭の中で確認しながら、執事が一つ問いかける。
「ギュラフ公爵家――ケイタス卿はいかがなさいましょう?」
「放っておけばいいさ」
「……よろしいのですか?」
「放っておけば、勝手に自滅するだろう。そもそも我が国に公爵家は多すぎるからね」
「…………承知いたしました」
ギュラフ公爵家は取りつぶし。
もはやそれは決定事項なのだろうと察した執事は、優先事項を片付けるために部屋をあとにした。
56
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる