33 / 74
共闘の結果
しおりを挟む「――ごきげんよう。よい夜ですわね」
人の目では暗闇にしか見えないような、深い森。そんな森にミアが声をかけると、茂みの一つが大きく揺れた。
姿を現したのは――獣人。
丸太のような腕。巌のような胸筋。ともすれば鈍重になりそうな筋肉の付き方であるが、それでもなお不思議と俊敏さを感じさせる男である。
おそらく。噂に聞く獣人の戦士階級というものであろう。獣人は人間のような軍隊を編成することはなく、才能ある子供を幼い頃から徹底的に鍛え上げ、戦士とするのだという。その力は圧倒的で、獣人の戦士は騎士十人でも止められないとされている。
「……人間、殺す」
「あら?」
不思議と獣人の言葉を理解できるミアであった。獣人の言葉など、将来の王妃として複数の言語を習得させられたリリーナでも知らなかったのに。
≪臨時契約ということで、自動翻訳も発動するはずです。マスターと違い、私を手放せば効果はなくなりますが≫
さすがは聖剣。そのようなこともできるらしい。
言葉が通じるならまずは交渉をするのが知的生命体というものだ。
「……さて。名も知らぬ獣人様。こちらとしては誘拐された子供たちを引き渡す用意がありますが。もちろん、貴方様が保護者であると証明された場合に限りますが」
「人間の言葉など、信頼できるものか」
鋭い爪の伸びた指をボキボキと鳴らす獣人。たしかに人間が誘拐したのだからごもっともではあるのだが……。これは一度痛い目に遭わせないと交渉もできない展開であろう。
まぁつまり、ミア好みの展開である。
「――――っ!」
何とも言葉で表現しにくい絶叫を挙げながら、獣人がミアに突撃してきた。
ミアがその動きに合わせて剣を腰だめに構え、横薙ぎをした――瞬間、獣人の姿がかき消えた。
突撃の途中で地面を蹴り、空中に舞い上がったのだ。
突如として消えた姿。
生物として警戒しにくい空中。
ミアは獣人の姿を見失ったはずだった。
訳も分からぬまま剣を横に薙ぎ払い、その隙を突かれて空からの一撃を食らうはずであった。
しかし、ミアはその動きを読んでいた。
最初からそうするつもりだったのだろう。剣の横薙ぎを途中で止めたミアは華麗な動きで刀身を上に曲げ、剣を空へと跳ね上げた。
「―――っ!?」
空中からの攻撃は、奇襲であれば効果抜群だ。
だが、反撃されてしまえば、避けることすら難しくなる。
それでも獣人は恐るべき身体能力で身体を捻り、ギリギリで致命傷を避けてみせた。
鮮血が宙を舞う。
獣人が驚くほどの身軽さで地面に降り立った。
ミアには獣人を斬った手応えがあったが、致命傷ではなさそうだ。
そして、すでにその傷口はふさがり始めている。獣人の体質として回復力が高いのか、あるいはこの獣人が特殊なスキルを持っているのか……。どちらであるかミアには分からないが、まだまだ楽しめそうなのは確かなようだった。
そうして真夜中の第二幕が幕を開けようとして――
「――こういうのって、『チート武器をゲットした主人公が無双する!』っていうのがテンプレじゃないの? 異世界転生ものとしては。なぜ妹分が聖剣を振っているのかしら?」
外から溢れる殺気に気づいて起き出してきたリリーナが、そんな、どこか呆れたような声を上げたのだった。
54
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる