40 / 74
にぶい
しおりを挟む近くの街に到着したので、門番に事情を説明して山賊たちの身柄を引き渡す。ここはさすが貴族令嬢なだけあって、変な疑いを持たれることなく話が進んでいく。
「では、まことに恐縮では御座いますが、詳しいお話を聞かせていただきたく……」
恐縮しまくりな文官に連れてこられたのは、この街の代官の館。このあたりはライラック伯爵家の領地なのだけど、伯爵本人がいちいち統治なんてできないから代官を派遣する形となるのだ。
いかにもな代官。成長した腹部の肉で豪奢な服に悲鳴を上げさせている系中年男性だった。普段はきっと偉ぶっているのだろうけど、現在は公爵令嬢×2を前にして冷や汗だらだらだ。
「いやはや、まさか公爵家の馬車が襲われるとは……定期的に山狩りをしているのですが、余所から移動してきたばかりの賊はどうしても把握しきれず……」
謝罪よりも先に言い訳をする代官だった。そりゃあまぁ、自分が代理統治している土地で公爵令嬢が山賊に襲われたのだから冷や汗も出るでしょう。上手くいけば解任で、悪くいけばギロチンだもの。
しかし今回は断罪が目的じゃないし、襲われたのはミアなのでその辺のことはアイルセル公爵家にお任せしましょう。
ぎこちない笑みを浮かべながら代官が私に確認してくる。
「……リリーナ・リインレイト公爵令嬢。今回の件は王都に報告することになりますが、よろしいでしょうか?」
「えぇ、まぁ、獣人族の次期族長が誘拐されましたからね。この街だけで処理するわけにはいかないでしょう」
「……それももちろんありますが、令嬢についてはどんな些細なことでも報告を挙げるよう、王太子殿下からの命令が下っておりますので……」
「…………」
一体何をしているのか、あの子は……。
◇
「権力乱用。やはりあのような男にはお姉様を渡せませんわね!」
なにやら燃えるミアだった。あの男ってもしかして王太子殿下のこと? もしかしなくても不敬罪よ?
「…………」
事情説明の際、私と並んでソファに座っていたセナちゃんがギュッと服の裾を握ってくる。獣人自治区は実質的な独立国だけど、我が国の影響も強いからね。そんな我が国の王太子殿下へのヤバめの発言に不安になってしまったのだろうか?
≪マスターってビックリするほど鈍いですよね≫
≪自覚のないモテ女ほど厄介なものはありませんね≫
なぜか王家の宝×2から批難されてしまった。なぜに?
「……お姉ちゃんは、王子様と結婚するのですか?」
と、そんなことを尋ねてくるセナちゃん。お姉ちゃん?
お姉ちゃん。
おねえちゃん。
お・ね・え・ち・ゃ・ん。
ふ、ふふっ、いつの間にかセナちゃんからの好感度が天元突破していたみたいね?
「大丈夫よ、王子様との結婚なんて、そう簡単にはできないのだから」
「……では、叔父上にもまだチャンスはあるんですね?」
うん? チャンスって、なんの?
≪鈍い≫
≪鈍い≫
息ぴったりにツッコミを入れてくる王家の宝×2であった。いやいやどういうことよ?
52
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる