【完結】正統王家の管財人 ~王家の宝、管理します~

九條葉月

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ミアの兄

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 ミアとのお茶会を始めたのはいいけれど、誘ってきたミアは「あのバカはどこにいきましたの!? 少し目を離した隙に!」と忙しそうにしていたので、一人でお茶をしている現状だった。いやメイド姿のアズが後ろに控えているし、手首にはフレイルもいるから『一人』ではないのだけど。

 ミアの実家・アイルセル公爵家は武の一門。
 とはいえ、そこはさすがに公爵家なので出てくる紅茶は超一流だ。……本人たちに紅茶の善し悪しが分かってなさそうなのが残念だけど。

 そんなことを考えていると――背後から足音がした。

 ミアにしては静かな足音なので、メイドさんかなと私が振り向くと――騎士服に身を包んだ青年が近づいてきていた。

 ただの騎士服ではない。

 栄えある陛下直属・近衛騎士団の制服だ。胸から下げた勲章の数からして、数々の武功を立ててきた『英雄』であることが察せられる。

 どこかで見たことのある顔。
 真一文字に結ばれた口元や、瞬きすらしない鋭い眼光、頬に残された一本の刀傷……。その刀傷に見覚えはないけれど、四年という歳月を加味すれば、彼はきっとミアのお兄さんであり剣聖の――

「――ミツォタキス様、ですか?」

「……お久しぶりです、殿下。どうぞ以前のようにミッツとお呼びください」

 迷うことなく片膝をつき、ミッツ呼びを求め、私のことを『殿下』と呼んでくる。まるで王太子妃に対するような過剰な態度だ。
 その頑なさというか生真面目さについつい笑みがこぼれてしまう。

「ミツォタキス様。わたくしはもう――」

「ミッツと」

「え?」

「ミッツと」

「しかし、公爵家の嫡男であらせられる――」

「ミッツとお呼びください」

「…………。……はい、ミッツ様」

 ミツォタキス改めミッツ様の押しの強さに思わず頷いてしまう私であった。

≪押しに弱い≫

≪押しに弱いですね≫

 メッチャ押しまくってきた王家の宝二人(人?)が何か言っていた。

「ごほん……ミッツ様。わたくしはもう王太子殿下の婚約者ではありませんので。殿下などという敬称は過剰ですわ」

 そもそも王太子殿下の婚約者であっても『殿下』なんていう敬称はいらないんだけどね。

「いいえ。貴女様の気高さ、慈悲深さ、何よりその美しさ。殿下とお呼びせずに何とお呼びすればいいのでしょうか」

 真顔でそんなことをのたまうミッツ様だった。殿下と美しさは何も関係ないですよ?

 う~ん、これこれ。このズレた感じ。まさしく記憶にあるミッツ様って感じだ。剣聖に選ばれて、次期近衛師団長の地位も確実視されているというのに、人の本質というものは変わらないらしい。



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