29 / 48
29
しおりを挟む王宮の現状から目を逸らした私は大聖典を開いた。この大聖典はさすが秘蔵の書だけあって目次を使う必要がない。適当に開いただけで使用者が今一番必要としているものが浮かび上がってくるのだ。
羊皮紙に表示されたのは一つの祝詞。神々を称えし聖なる歌だ。
「――六根清浄 急急如律令」
疾く早く心身を清めよ。ってとこかな? 除霊する側の人間が汚れていたら意味ないし。ふふふ、前世からの中二病だから呪文には詳しいのだよ。
え? なんで中世ファンタジー風な世界観で“神々を称えし聖なる歌”の始まりが陰陽師が使うような呪文なのかって? ……そんなこと、私が知るか。文句なら大聖典を書いた人に言ってくれ。
「――朱雀 玄武 白虎 勾陳 帝禹 文王 三台 玉女 青龍」
これは確か前世で言うところの九字。
意味はよく知らない。だって私は神官じゃないし。
ただ、ゲームにおける未来の“聖女”である私が唱えたおかげか意味が分からないままでも十全の効果を発揮してくれた。
リッチの足下に円陣と、その中に記された五芒星が浮かび上がる。五芒星の周りに記された文字はこの世界のものよりむしろ古文の授業で見た文体に近く……やはり陰陽師っぽい。
そういえばソシャゲ版の職業に“陰陽師”があったな。中世ファンタジー風の世界観なのに。
そんな知識を思い出している間に円陣が光り輝き、光の粒子がリッチの身体を包み込んでいく。浄化にして浄火の光だ。
『ばかな!? こんな小娘に! わが二十年の恨みが――』
最後まで醜く。リッチとなった復讐者はあっさりとその物語を終えた。いやほんとにあっさりと。私でもビックリするほどに。ここは最後の力を振り絞って呪いでもかけてくる場面じゃないのかな?
「…………」
背後でお爺さまが微妙な顔をしているのが分かる。見なくても分かる。そういえば知り合いっぽい感じでしたものね。空気読めなくてごめんなさい。
さて。やらかしてしまったものはしょうがない。リッチのことは綺麗さっぱり忘れるとして……今は愛理さんのことを優先するか。
この世界は幽霊に対してある程度寛大だ。地縛霊や浮遊霊などは魔物として分類され、害がないなら放置されるのが基本。というか王宮の大図書館の司書長はリッチであるという噂もある。
だから愛理さんが望むなら幽霊として存在していてもいいし、成仏を望むならお手伝いもできる。この屋敷は解体するから地縛霊をやってもらうわけにもいかないけど、何だったら魔術を施しやすい宝石に他縛(・・)してしまって――
私が今後の対応を考えていると、状況が動いた。
私の後ろに隠れていた愛理さんが光の粒子に包まれ始めたのだ。
ゆっくりと、まるで成仏するかのように天に昇っていく愛理さん。
もしも愛理さんがこの世に止まっていた理由が地縛でも自縛でもなく、リッチによる他縛だった場合。そのリッチが成仏した以上愛理さんを縛り付けるものは何もなく。自然の摂理に従って魂が天に昇るのもおかしな話ではない。
そう、おかしな話ではない。
でも、それでいいの?
自分の意志に関係なく成仏してしまうだなんて……。
愛理さんは若くして死んだんだよ?
もっと人生を謳歌したかったんじゃないの?
二十年近くリッチに縛り付けられていたんだよ?
解放されてすぐ成仏してしまうなんて……そんなのはおかしいとは思わない?
「…………」
私は愛理さんと同じ時を過ごしたわけではない。親友だったのはあくまで前世の私であり、今世の私はその記憶を持っているというだけの話だ。
でも、私は覚えている。
夢を語った彼女の姿を。
楽しそうに笑う彼女の姿を。
失恋して泣いた彼女の姿を。
時には希望に満ちあふれ、時には喜びを爆発させ、時には思い切り嘆き悲しんでいた――親友。
私の親友は誰よりも素直に、誰よりもはっきりと感情を表現していた。
そんな親友の姿をもう少し見ていたいと思うのは……我が儘だろうか?
……我が儘でもいい。
私は子供なのだから、ちょっとくらいの我が儘は許してもらえるはず!
「愛理っ! ちょっと待っ――へぶ!?」
『へ!? 痛っ!?』
……ここで状況を説明しよう。
①天に昇る愛理さんをとりあえず引き留めようとして腕を引っ張った美少女リリアちゃん。
②急に引っ張られて体勢を崩した愛理さん。足場のない空中なのでそのまま倒れる。
③私の鼻と愛理さんの顎がごっつんこ。
④私、鼻血出す。
幽霊なのに堅いってどうなんだろうね? おかげで油断して鼻血出しちゃったよ。どうしてこうなった……。
結構な勢いで――それこそ鼻血が出るほどの勢いで――ぶつかってきた愛理さんは必然的に私に覆い被さるような格好となり、当たり前のように鼻血は愛理さんの身体にかかってしまって……。
『じゃじゃじゃじゃーん!』
『ここに血の契約は結ばれたー』
『妖精さんの名においてー』
『笹倉愛理をリリア・レナードの使い魔として認めようー』
『だってその方が面白そうだしー』
とんでもない爆弾発言を妖精さんーズがしてくれた。
いや魔法使いが血を使って契約するのは普通だし、超常的な存在である妖精さんが従僕契約の立会人になるのもまぁわかる。それに、この世界では幽霊も魔物扱いだから理屈的には使い魔にできるのだろうけど……いやいや『面白そうだから』ってなによ!? せめてその本音はひた隠してくれてもいいんじゃないのかな!?
私との契約でこの世界との繋がりができたおかげか愛理さんの昇天は止まった。彼女を取り巻いていた光の粒子も霧散する。
一応、左目で愛理さんを鑑定してみる。
名前 笹倉愛理
年齢 18歳(享年)
職業 リリア・レナードの使い魔
あーらしっかりとステータスに登録されていますね。なぜか頭の中で璃々愛が大爆笑しているし。
どうしてこうなった……。
12
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。
お嬢様の悩みは…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴッドハンドで世界を変えますよ?
**********************
転生侍女シリーズ第三弾。
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる