26 / 105
藍妃
瑾曦様とのお茶会は終始和やかな雰囲気で終了した。
……いや、隙あらば妃にしようとしてくるから緊張感はあったかもね。なんであんなに積極的なのやら。
雪花様みたいに、私が後宮に入ればその分梓宸の相手をしなくてよくなるから、と考えているとか? もしそうだとしたらさすがの私も梓宸に同情してしまうかもしれないわね。
まぁ梓宸って昔から女心ってものを理解してなかったからなぁ。なぁんて昔を懐かしんでいると、私が借りている部屋に侍女がやって来た。なんでも藍妃・海藍様の侍女らしい。
「……お茶会ですか?」
「はい。海藍様の御慈悲に感謝し、すぐに来るように」
「おぉー」
なんというか、『これぞ後宮の侍女!』って感じの態度だった。うんうん、やはり後宮はこうでなくちゃ。ドロドロした人間関係。女の醜い嫉妬。そんな中で成り上がっていく主人公……。
かつて『後宮小説』で読んだような状況の到来に、私は喜び勇んで海藍様の宮を目指したのだった。侍女さんを置き去りにする形で。
ちなみに神仙術を使えば海藍様がどこにいるかくらい分かるのである。
◇
海藍様の宮は、何というか、『大華国!』という感じの内装だった。
最近は欧羅との交易がますます盛んになり、欧羅風の家具や内装を取り入れるのが流行しているのだけど……海藍様の宮はそんな流れに真っ向から逆らう、伝統的な大華国様式だった。むしろここまで統一すると逆に高くなりそうな。
大華国内でも欧羅の文化はどんどん受け入れようという人間と、今こそ大華国の伝統を再認識し守るべきだという勢力が争っているみたいだけど……。正直、商人としては良い流れだったりする。だって双方が見栄のためにどんどん新しい調度品を買ってくれるし。争え……もっと争え……。
しかし、雪花様の宮と海藍様の宮を見比べるに、後宮内でもそんな争いはあるのかもしれないわね。雪花様はガチガチの西洋風。海藍様はご覧の通り。
そんなことを考えていると海藍様の待つ部屋に案内された。
「……よく来たわね」
歓迎の挨拶。
の、はずなのだけど。視線も合わせず、腕を組み、いかにも不機嫌そうな声の海藍様だった。まぁでも私だって大人だからね。ここは無難な挨拶をしておきましょう。
「お招きいただき大迷惑――ごほん、大変光栄ですわ」
「今大迷惑って言わなかった?」
「まさかそんな。偉大なる大華国の上級妃にして、偉大なる李家のお嬢様に招待されるなんて光栄ですわ。さすが偉大なる私ですね」
「ふん、分かっているならいいのよ。……うん?」
何か違和感があったのか首をかしげる海藍様だった。
空気の悪さを察したのか海藍様の侍女頭(いかにも苦労してそうな初老の女性)が促してくれたので、大人しく着席する。
茶器はもちろん欧羅のものではなくて大華国伝統のもの。宮廷の外で来客に使うと「これはまた年代物ですね」とか嫌味を言われちゃいそうなヤツ。
「…………」
一応鑑定して、毒が入ってないか確認。これは海藍様を特別警戒しているというわけじゃなくて、雪花様や瑾曦様とのお茶会でもやったことだ。神仙術でも魔術でも解毒はできるのだけど、だからといって毒を飲んで苦しみたくはないからね。
鑑定結果は無毒。安心してお茶を飲む。
しかし、お茶会のたびどころかお茶が注がれるたびに鑑定するのは面倒くさいから、やはりアレを作るべきね。と、考えていると、なぜだか海藍様は目を見開いて驚いていた。
「……毒味もなしにお茶を飲むとは、度胸があるのか阿呆なのか……」
「喧嘩売ってます?」
「売るまでもないわね。そんな警戒心のなさではすぐに死にそうだもの」
ハッ、と鼻を鳴らす海藍様だった。なるほどやはり喧嘩を売られているらしい。
いやしかし、ここは敵地。まずは無事生還することを第一に考えましょうか。
「ところで、今日はなぜお茶会に? まさか私と仲良くなりたいから――ですか?」
「…………」
睨まれた。
欧羅式冗句はお気に召さなかったらしい。
「…………」
そのまま私を睨め付けてくる海藍様。何か言いたそうな雰囲気を感じるけれど、それが言葉として発せられる様子はない。
ここで心優しい人間なら海藍様のご機嫌を取り、何を言いたいのか聞き出すこともできるのだろうけど……残念ながら私は好戦的な人間である。睨まれたら睨み返すぜー。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
しばらく無言で睨み合う私と海藍様だった。海藍様はどんどん目つきが厳しくなり、それに対応して私も目つきを鋭くし、それを受けてさらに海藍様が――という、何の生産性もないお時間だ。
「つ、次はお嬢様のお気に入りにしましょうか!」
と、空気の悪さに耐えきれなくなったのか慌てて新しいお茶の準備に取りかかる侍女頭さんだった。なんかすみません。
淹れられたお茶は、出がらしを使ったような薄い色をしていた。
その香りは……ほのかに甘い。
「木苺から作られるお茶ですね」
まぁ、正確には欧羅木苺――ラズベリーリーフから作られるお茶なのだけど。部屋の内装からして欧羅製品を忌み嫌っていそうだし、もしかしたら『欧羅』の名前を出さずに提供されているかもしれないので気を使ったのだ。さすがは私である。
「……ふん、飲んでもいないのに当てるなんて。中々やるじゃない」
「神仙術士なので。薬草を処方することも多いのですよ」
「なら、このお茶の効能を教えてもらおうかしら?」
「まず第一に。子宮収縮を促す効果があるので分娩時間が短くなるでしょう。妊娠期間中に飲み始めて気に入ったというところでしょうか? 他には喉の痛みや歯肉炎などの消炎作用。消化促進や下痢などにも効果があります」
「…………」
なぜか苦々しい顔をする海藍様だった。間違った知識を口にしたらこれ見よがしに批判するつもりでした?
ふっふっふ、いい度胸。ここは少し脅してあげましょう。
「それと……子宮収縮を促す効果は妊娠初期だと悪い方向に作用してしまいますので――妊娠初期には飲まない方がいいですね。また元気な子を産みたいのなら」
「…………」
うげ、という感じに顔をしかめる海藍様だった。いや~人のためになる良い助言をすると気分も良くなるわね!
にっこにっこの私と、色んな感情がない交ぜになった顔をする海藍様。これではどちらの地位が上なのか分からないわねーとか考えていると、
「お、お嬢様! そろそろお時間ですわ!」
と、空気に耐えきれなくなったのか侍女頭さんがそんなことを口にした。その顔は見事なまでにひくついている。
別に睨んできたわけでもない侍女頭さんを困らせる趣味はないので、私は辞去の挨拶をしてからお暇させてもらうことにした。
……いや、隙あらば妃にしようとしてくるから緊張感はあったかもね。なんであんなに積極的なのやら。
雪花様みたいに、私が後宮に入ればその分梓宸の相手をしなくてよくなるから、と考えているとか? もしそうだとしたらさすがの私も梓宸に同情してしまうかもしれないわね。
まぁ梓宸って昔から女心ってものを理解してなかったからなぁ。なぁんて昔を懐かしんでいると、私が借りている部屋に侍女がやって来た。なんでも藍妃・海藍様の侍女らしい。
「……お茶会ですか?」
「はい。海藍様の御慈悲に感謝し、すぐに来るように」
「おぉー」
なんというか、『これぞ後宮の侍女!』って感じの態度だった。うんうん、やはり後宮はこうでなくちゃ。ドロドロした人間関係。女の醜い嫉妬。そんな中で成り上がっていく主人公……。
かつて『後宮小説』で読んだような状況の到来に、私は喜び勇んで海藍様の宮を目指したのだった。侍女さんを置き去りにする形で。
ちなみに神仙術を使えば海藍様がどこにいるかくらい分かるのである。
◇
海藍様の宮は、何というか、『大華国!』という感じの内装だった。
最近は欧羅との交易がますます盛んになり、欧羅風の家具や内装を取り入れるのが流行しているのだけど……海藍様の宮はそんな流れに真っ向から逆らう、伝統的な大華国様式だった。むしろここまで統一すると逆に高くなりそうな。
大華国内でも欧羅の文化はどんどん受け入れようという人間と、今こそ大華国の伝統を再認識し守るべきだという勢力が争っているみたいだけど……。正直、商人としては良い流れだったりする。だって双方が見栄のためにどんどん新しい調度品を買ってくれるし。争え……もっと争え……。
しかし、雪花様の宮と海藍様の宮を見比べるに、後宮内でもそんな争いはあるのかもしれないわね。雪花様はガチガチの西洋風。海藍様はご覧の通り。
そんなことを考えていると海藍様の待つ部屋に案内された。
「……よく来たわね」
歓迎の挨拶。
の、はずなのだけど。視線も合わせず、腕を組み、いかにも不機嫌そうな声の海藍様だった。まぁでも私だって大人だからね。ここは無難な挨拶をしておきましょう。
「お招きいただき大迷惑――ごほん、大変光栄ですわ」
「今大迷惑って言わなかった?」
「まさかそんな。偉大なる大華国の上級妃にして、偉大なる李家のお嬢様に招待されるなんて光栄ですわ。さすが偉大なる私ですね」
「ふん、分かっているならいいのよ。……うん?」
何か違和感があったのか首をかしげる海藍様だった。
空気の悪さを察したのか海藍様の侍女頭(いかにも苦労してそうな初老の女性)が促してくれたので、大人しく着席する。
茶器はもちろん欧羅のものではなくて大華国伝統のもの。宮廷の外で来客に使うと「これはまた年代物ですね」とか嫌味を言われちゃいそうなヤツ。
「…………」
一応鑑定して、毒が入ってないか確認。これは海藍様を特別警戒しているというわけじゃなくて、雪花様や瑾曦様とのお茶会でもやったことだ。神仙術でも魔術でも解毒はできるのだけど、だからといって毒を飲んで苦しみたくはないからね。
鑑定結果は無毒。安心してお茶を飲む。
しかし、お茶会のたびどころかお茶が注がれるたびに鑑定するのは面倒くさいから、やはりアレを作るべきね。と、考えていると、なぜだか海藍様は目を見開いて驚いていた。
「……毒味もなしにお茶を飲むとは、度胸があるのか阿呆なのか……」
「喧嘩売ってます?」
「売るまでもないわね。そんな警戒心のなさではすぐに死にそうだもの」
ハッ、と鼻を鳴らす海藍様だった。なるほどやはり喧嘩を売られているらしい。
いやしかし、ここは敵地。まずは無事生還することを第一に考えましょうか。
「ところで、今日はなぜお茶会に? まさか私と仲良くなりたいから――ですか?」
「…………」
睨まれた。
欧羅式冗句はお気に召さなかったらしい。
「…………」
そのまま私を睨め付けてくる海藍様。何か言いたそうな雰囲気を感じるけれど、それが言葉として発せられる様子はない。
ここで心優しい人間なら海藍様のご機嫌を取り、何を言いたいのか聞き出すこともできるのだろうけど……残念ながら私は好戦的な人間である。睨まれたら睨み返すぜー。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
しばらく無言で睨み合う私と海藍様だった。海藍様はどんどん目つきが厳しくなり、それに対応して私も目つきを鋭くし、それを受けてさらに海藍様が――という、何の生産性もないお時間だ。
「つ、次はお嬢様のお気に入りにしましょうか!」
と、空気の悪さに耐えきれなくなったのか慌てて新しいお茶の準備に取りかかる侍女頭さんだった。なんかすみません。
淹れられたお茶は、出がらしを使ったような薄い色をしていた。
その香りは……ほのかに甘い。
「木苺から作られるお茶ですね」
まぁ、正確には欧羅木苺――ラズベリーリーフから作られるお茶なのだけど。部屋の内装からして欧羅製品を忌み嫌っていそうだし、もしかしたら『欧羅』の名前を出さずに提供されているかもしれないので気を使ったのだ。さすがは私である。
「……ふん、飲んでもいないのに当てるなんて。中々やるじゃない」
「神仙術士なので。薬草を処方することも多いのですよ」
「なら、このお茶の効能を教えてもらおうかしら?」
「まず第一に。子宮収縮を促す効果があるので分娩時間が短くなるでしょう。妊娠期間中に飲み始めて気に入ったというところでしょうか? 他には喉の痛みや歯肉炎などの消炎作用。消化促進や下痢などにも効果があります」
「…………」
なぜか苦々しい顔をする海藍様だった。間違った知識を口にしたらこれ見よがしに批判するつもりでした?
ふっふっふ、いい度胸。ここは少し脅してあげましょう。
「それと……子宮収縮を促す効果は妊娠初期だと悪い方向に作用してしまいますので――妊娠初期には飲まない方がいいですね。また元気な子を産みたいのなら」
「…………」
うげ、という感じに顔をしかめる海藍様だった。いや~人のためになる良い助言をすると気分も良くなるわね!
にっこにっこの私と、色んな感情がない交ぜになった顔をする海藍様。これではどちらの地位が上なのか分からないわねーとか考えていると、
「お、お嬢様! そろそろお時間ですわ!」
と、空気に耐えきれなくなったのか侍女頭さんがそんなことを口にした。その顔は見事なまでにひくついている。
別に睨んできたわけでもない侍女頭さんを困らせる趣味はないので、私は辞去の挨拶をしてからお暇させてもらうことにした。
あなたにおすすめの小説
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!
さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」
「はい、愛しています」
「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」
「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」
「え……?」
「さようなら、どうかお元気で」
愛しているから身を引きます。
*全22話【執筆済み】です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/12
※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください!
2021/09/20
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
厄介払いされてしまいました
たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。
十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。
しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。
婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました
相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。
――男らしい? ゴリラ?
クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。
デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。
【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~
青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた
そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた
しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう
婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ
婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか
この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話
*更新は不定期です
*加筆修正中です